「雪の花 -ともに在りて-」
久しぶりに美しい日本映画を見た。映像やカメラの美しさはもとより物語がとっても美しい。丁寧に演出されたストーリーと画面の構図、役者たちの真摯な演技に、見ていて退屈しない。平凡と言えばそれまでかもしれないが、全体のクオリティの高いまじめで素晴らしい映画だった。こういう映画をもっと作るべきだと思う。監督は小泉堯史。
福井の山深い村に、街から1人の医師笠原が村人の与平に伴われてやってくるところから映画は始まる。村に着いて与平の家族を診た笠原は、疱瘡であると診断し、患者を隔離するように村長に指示する。疱瘡は当時の日本では不治の病で、なす術がなかった。医師として何もできない不甲斐なさに苦悩していた笠原は、ある日、大武という蘭方医と知り合う。東洋医学に限界を知った笠原は大武の勧めで京都の日野という蘭方医に師事することになる。
日野のもとで医学を学ぶ中、日野の蔵書の中に疱瘡の治療に関する本を見つけた笠原は、その内容を日野に問う。その本に書かれているのは、種痘と呼ばれる予防処置の方法だった。種痘の種は海外から輸入しなければならず、オランダからでは時間がかかりすぎるが唐の国からなら間に合うと言われる。しかし唐から輸入するには幕府の許可が必要で、非常に難しいと言われる。笠原は自ら福井藩に嘆願書を提出するも埒が開かず、江戸幕府の御用医師として江戸に向かうという親友半井を通じて許可を依頼してみることにする。
ほぼ一年の月日が流れ、幕府の許可が降りることになる。一方、日野はすでに唐から種を収取して種痘を始めてみたがなかなかうまく行っていなかった。最後の最後、自身の孫に施した種痘が成功し、京都で種痘が始まる。一通りの処置がを終えた笠原は福井へ向かうことにするが、そのためには猛吹雪の峠越えをして種を届ける必要があった。様々な方面に手を回し困難の末福井に辿り着く。
福井では妻の千穂が種痘所の準備をしていた。一時は藩の小役人たちに妨害されたが、笠原が家老や老中を通じて藩の許可を得て種痘が開始される。そして村の人たちに感謝され、浜辺で子供達と戯れる笠原と千穂の姿で映画は幕を閉じる。
脇役をあっさりと流していたり、困難や苦労する場面もあまり深く踏み込まずに流した脚本は甘いと言えばそれまでだが、美しい日本の風景を丁寧に映し出し、整った構図で描く物語は、余計なストレスを感じずに、ともすると埋もれてしまうような史実を知ることができるという意味では非常に良質の作品だったと思います。
「喜劇“夫”売ります」
喜劇となっているが、岸宏子原作、花登箇脚本だけあって、思いの外シリアスなヒューマンドラマになっていた。しっかりしたストーリー展開をフランキー堺のアドリブ芸でコミカルにしているのだが、芯がまじめな話なのでぶれようがない出来栄えの作品でした。監督は瀬川昌治。
伊賀上野の街、この日天神祭で賑わっていた。この地の富豪神代家の運転手山内杉雄は妻なつ枝と祭りを楽しんでいたが、そこへ幼馴染で神代家の当主里子が通りかかり、宴席に招待される。ところが出かけてみると里子にすげない態度で追い出されてしまう。なつ枝は姑ぎんに日々いびられる日々で、この日も散々いびられた上に、そんななつ枝をかばいもしない杉雄が帰ってきてさらに落ち込んでいた。
里子は二人の夫を亡くし、支配人三之助や支配人の息子で副支配人の石上らが里子に男を世話した方が良いのではないかと考え、杉雄を巧みに里子に近づけさせる。里子も杉雄のことは満更でもなかったこともあり、夜勤と称して、杉雄と里子は逢瀬を繰り返すようになる。夫の様子に不信を持ったなつ枝は、里子の相手をしていると確信して神代家に押しかけて、夫を五十万で買うようにと持ちかける。里子がその提案を受け、なつ枝は杉雄と離婚、ぎんも追い出して五十万の金で組紐工場を始める。
一方里子は石上の提案でホテルを建設することにし、会社を担保に一億円の融資を取り付けてホテル建設を始めるが。ホテルの支配人に杉雄を当てたことで石上はすっかり臍を曲げてしまう。石上の恋人だったきく子もなつ枝に説かれて一緒に組紐工場の仕事を始めるようになり石上の元を去っていく。
そんな時、ホテル建設に悪い噂が広まり、さらに銀行の融資も引き上げられて里子は窮地に陥る。手形引き落としのための三百万にあと五十万となったところへ、なつ枝が夫を買い戻しに神代家にやってくる。しかし里子は杉雄は物ではないとただでなつ枝に譲り渡す。帰り道、なつ枝は五十万を里子宛に託す。ところが悪い噂を流したのは支配人三之助夫婦で、買った土地はいずれ売れば良いと考え、銀行の手筈もうまくいくように事前に示し合わせていた。それは神代家の安泰を願ったためだった。杉雄はなつ枝に買い戻されて今はバスの運転手をし、なつ枝の姑ぎんになつ枝は大声で言い返して映画は終わる。
やや雑と言えばそれまでの出来栄えながら、しっかりしたストーリー展開に〜無理やりコメディを盛り込んだ娯楽映画という感じの、楽しくもシリアスな一本だった。
「喜劇 男の腕だめし」
支離滅裂に展開する物語に翻弄されてしまう作品で、その場その場で取ってつけたようなストーリーが、ある意味当時の映画産業の姿を垣間見せるような一本だった。お世辞にも面白いと言えないものの太地喜和子の脱ぎっぷりに拍手する一本でした。監督は瀬川昌治。
留置所から保釈されてお駒が出てくる場面から映画は幕を開ける。迎えたのはストリップ小屋を経営する八田。緋牡丹博徒のテーマが流れて二人は東映任侠映画の如く道行を始める。お駒は、一ヶ月前、公然わいせつ罪で逮捕され、八田が保釈金を工面して仮釈放させたのだった。その頃、所轄に小原という若い刑事がやってくる。彼は正義感に燃える熱い男で、八田のストリップ小屋春風ミュージックで手柄を建てようと躍起になってくる。
そんな小原を疎ましく思う八田らだった。八田の苦境に、任侠かぶれのお駒が一肌脱ごうとするが、小原は乗ってこない。春風ミュージックは小原に目をつけられて資金繰りもままならない。人気のダンサーを愛人にしながらの八田だったが、その痴話喧嘩もどうしようもなかった。そんな時、小原の母トミが小原を訪ねてくる。そして、小原が手入れしようとしている春風ミュージックに行って、そこで八田と再会する。実は八田とトミは二十年前恋人同士だった。しかしトミの許嫁がシベリアに抑留されていたことから八田は身を引いたのだが、お腹に子供がいた。やがて生まれたのが小原だった。つまり小原は八田の子供だという。
八田は小原が息子だと知って春風ミュージックを閉めることを決意するが、それを知った小原は刑事を辞めて八田と働くと言い出す。小原が辞表を出しに行った時、証拠だったトミと八田の写真に写っていた血液型を見て、自分は八田の子供ではないことを確信する。その頃、八田と小原に花向けに金を送ろうと、ライバルのストリップ小屋でお駒が特出しショーをしていた。八田の子供ではないことを知った小原はお駒のステージに踏み込み、お駒を逮捕する。八田はお駒に、出所まで待つからと送り出して映画は終わる。
とまあ、脇役は全く機能していないというか、お話自体が思いつきで作った感満載で、取ってつけたような展開が続く様は呆気に取られてしまいます。小原役の湯原昌幸がめちゃくちゃ下手くそだし、本当にたわいないプログラムピクチャーという映画でした。