「喜劇役者たち 九八とゲイブル」
井上ひさしの原作がよくできているのだろうが、物語がしっかり展開する上に、コメディアン時代の全盛期のタモリの見事な演技に終始圧倒される。とにかく楽しくて面白い、そして健康的なお色気満載の娯楽映画の佳作だった。監督は瀬川昌治。
今や落ちぶれた芸人の港がストリッパーのラビアンローズとストリップ小屋に戻ってくるところから映画は幕を開ける。港はもう一旗あげようと頑張っているものの、今一つ売れないままにこの小屋に厄介になることにするが、そこで、芸振というお調子者のコメディアンと出会う。クラーク・ゲーブルにあやかった芸名で素っ頓狂な芸を見せる芸振と港はコンビを組むことにし、芸名をゲイリー・クーパーを捩って九八と名乗ることにする。
九八と芸振のコンビはみるみる人気を博して笑いをとるが、そんな時テレビ局から出演の依頼が来る。ところがここに村岡という医師が現れ、芸振は、精神病院の患者だと九八に説明する。芸振は病院を抜け出して舞台に出ているという噂を聞いてきたが、悪い症状が出てこないので静観していたのだという。テレビに出ることは絶対ダメだと言われ、九八は、テレビ局に断りを入れ、芸人を辞めて恋人のカレー屋を手伝う事を決心する。
九八は恋人とベッドで将来のことを寝物語していたが、窓の外に芸振がやってくる。九八は次の舞台を最後にし、舞台の後芸振を病院へ連れていく決心を九八はする。その日最後の舞台だったが、鬼丸刑事が国会議員を連れて観劇にやってくる。芸振は言葉巧みに国会議員を揶揄って追い出すが、鬼丸刑事の依頼で村岡の病院から芸振を捕まえにやってくる。九八と芸振は病院の職員を巧みに翻弄して、引越しトラックに乗って逃亡に成功したかに思えたがそのトラックは精神病院に入っていって映画は終わる。
コマ落としを多用したハイテンポな映像作りと、タモリの絶妙の間合いの演技、しっかり筋立てが整った展開、少々脇役がおざなりになっていないわけではないが、心地よい娯楽を楽しんだという感じがするエンタメ映画だった。
「哀しい気分でジョーク」
これはなかなかの名編だった。大傑作と呼ぶには若干脚本が甘いけれど、全盛期のビートたけしの絶妙のセリフの間合いと掛け合いのリズム、柳沢慎吾とのアドリブギャグも全体の流れに見事にスパイスになっていて、子供の難病物というじめっとしたものですが、芸能人のどうしようもない悲哀をドラマとして盛り込んだ作りは素直に胸が熱くなってしまいました。終盤はちょっと観光映画の如くなってしまい、全体が妙にダラダラ感が出てしまったとは言え、ラストの締めはよくできていると思います。良い映画だった。監督は瀬川昌治。
人気タレント五十嵐洋のラジオDJ場面から映画は幕を開ける。相手を務めた悠子とは親しい友達関係だが、洋には友達以上の気がない。息子の健とはすれ違いばかりで、健は遊び呆けている父のことは半分諦めている。そんな親子をなんとかしようとしているのが付人の谷だった。健が学校で親子コーラスがあるというのを谷から聞いた洋は仕事の合間を縫って学校へ行き、音痴な歌を披露してしまう。洋には妻美枝がいたが、離婚してどうやらシドニーに住んでいるらしかった。
健は学校で時折眩暈を起こすようになり、先生に聞いた洋が健を病院に連れていくと脳幹腫瘍だと診断される。しかも場所が悪くて手術も難しく、いつ最悪になるかわからないという。洋はマネージャーの佐川と相談し、仕事を減らす一方、健をあちこちの病院に診てもらうようにするが、診断は変わらなかった。間も無くして洋の仕事もほとんどなくなり金が底をついてくる。以前から洋に気がある悠子は強引に洋の家に来て家事をするようになる。
金を稼ぐために、乗り気ではない親子コーラス大会の司会をした洋だが、大会に出た健は途中で体調を崩してしまい病院に搬送される。付き添った悠子も健の病気を知ってしまう。健の容態が気になった洋はスポンサーの社長の前で、来ていた父兄たちを罵倒してしまい、仕事の道も途絶えてしまう。そんな洋に、悠子はキャッシュカードを与える。ところが落ち込む洋につけ込んだ一人の女が洋をベッドに誘い写真を撮り脅してくる。悠子のキャッシュカードも取られ車も売却してしまう。
健がシドニーに行きたいという気持ちを叶えるため、洋は健とテレビのクイズ番組に出るが、結局優勝できず、安っぽい芸能事務所に身売りして金を稼ぐことにする。そして洋と健はシドニーにやってくる。あらかじめ聞いていた元妻美枝の会社に行った洋は美枝が結婚することを知る。洋は式のリハーサルの現場に健と一緒に行ったが、健は母に会わずに帰ると洋に言う。ところが帰りの飛行機の中で健の容態が急変、そのまま息を引き取る。日本に戻った洋は息子を亡くした悲劇の父親としてタレントとして返り咲き、この日ステージで絶唱する姿があった。こうして映画は終わる。
100分余りしかない作品なので、エピソードがてんこ盛りで、それぞれのドラマに均等に力が入っているため、健の難病、悠子の思い、洋のタレントとしてのドラマなどなどがどれもこれもその場その場で中心に展開していくために、やたら間延びして長く感じてしまった。全体に決して悪い映画ではないと思うのですが、悪く言えば普通の娯楽映画だったかもしれません。でも、見て損はない一本だった。