「石門」
フィックスで構えたカメラで、しかも弾き気味で表情もはっきりとらえず、時に長回しを繰り返す映像作りが、なんとも息苦しい作品で、中国という背景をこれでもかと見せつけてくる映画。結局、どういうことかと思う映画だった。話が動くかと思うと奇妙な効果音が画面に被ってくるし、主人公の名前だけしっかり語るものの、それ以外は肩書きでしか出てこない脚本にも何らかの意味合いがあるのだろう。とにかくちょっとしんどかった。監督はホアン・ジー。
夜、真っ赤な電話ボックス、英会話教室のパーティが屋外で行われている場面から映画は幕を開ける。主人公のリンは、客室乗務員を目指して大学へ通い、英会話教室で英語を学んでいる。しかし、妊娠していて七週目に入っていた。リンの母は診療所を経営しているが、患者に訴えられて損害賠償を支払っていた。その患者というのは死産したのが診療所の原因だというものだった。母は、ネズミ講のような健康品を売る仕事に関わって損害賠償の金を工面していた。リンは、赤ん坊を中絶したくないが育てる気もなかった。そこで、損害賠償を起こされている患者シルビアの伯父に対し、自分の赤ん坊を譲るので、損害賠償をやめることを提案、シルビアの叔父も了解する。
リンのお腹は順調に大きくなり、臨月が近づいてきたが、折しもコロナ禍が始まる。シルビアの叔父は、産んだ後、コロナ禍が落ち着くまで育ててほしいというが、リンの母は断固拒否する。そして赤ん坊が生まれ、シルビアの叔父に引き渡すべくリンと赤ん坊、そして母は待ち合わせ場所にやってくる。母が車を離れ、リンと赤ん坊は車で待っていたが、リンは体が苦しくなり赤ん坊をおいて外に出てしまい映画は終わる。
結局、シルビアの叔父は赤ん坊を引き取りに来るのか、リンは赤ん坊に愛情を感じていないのか、リンの母はどこへ行ったのか、リンのことを世間知らずだというシルビアは、赤ん坊を育てる気があるのか、フィックスで構えるカメラ、耳障りな効果音、一歩引いた客観的な映像、どれもが何かを語らんとスクリーンから滲み出てくるのだが、そこに、中国の現代の姿を映し出す問題意識を感じられる、そんな映画だったのかもしれない。
「デュオ1/2のピアニスト」
双子のピアニストプレネ姉妹をモデルにした作品。映画作品としては驚くほどの映画ではないのですが、クライマックスの二人が弾く奇跡のピアノシーンを見るだけでも値打ちがある一本。ピアノ曲の知識は全くないし、一つの楽譜を二つに分けて一つに戻して演奏することがいかに奇跡なのかも理解していないのですが、それでも、このクライマックスには素人を説得する迫力がある。価値あるひと時を過ごした気がします。監督はフレデリック・ポティエ、バランタン・ボティエ。
姉クレールと妹ジャンヌの双子の幼い姉妹がこの日もピアノコンクールの舞台を控えていた。父セルジュは、何事も一番でないと意味がないという性格で、娘達にもそれを半ば強制していた。この日のコンクールが銀賞になり、帰りの車の中で意味がないと喚く父を母カトリーヌは非難するが、クレール達はもらったトロフィーを車の外に捨ててしまう。やがて音楽大学の大学生になった二人は、校内の演奏会のソリストを決めるオーディションに向けて練習に励んでいた。この演奏会では当時第一人者の音楽家リンネが指揮をすることになっていた。レナート先生につくことがその一歩と言われて、クレールがレナートに認められる。
そしてオーディションの日、クレールが見事ソリストの地位を手に入れ、両親もクレールを賞賛、妹のジャンヌは寂しい思いをする。しかしレナートのレッスンは厳しく、レッスンの後、手が動かないほどだった。クレールは大学で知り合ったダニエルと親しくなり、ジャンヌに身代わりを頼んでダニエルと遊びに行く。それを知ったセルジュがクレールを連れ戻しに行き、争った際にクレールの手首を痛めてしまう。
腫れ上がった手でレナートのレッスンに出るが、力を発揮できず、レナートは落胆する。クレールは病院へ行き、腱鞘炎と診断される。そんなある時、クレールのレッスン室を覗いたジャンヌは、誰もいない部屋でピアノを弾いていてレナートと出会う。レナートはジャンヌのピアノを聴き、私的なコンサート会場へ連れて行ってピアノを弾かせる。そこにいたリンネはジャンヌのピアノに惹かれてしまう。間も無くしてソリストの名がジャンヌに変えられるにつけ、ジャンヌとクレールに溝ができてしまう。ジャンヌはレナートと練習室で体を合わせる。
リンネの指揮で、演奏会で華麗に弾くジャンヌだったが、クレールは手首の腫れが引かないので精密検査を受け、遺伝性の難病であると判明する。そしてジャンヌも同じ症状が出ると診断される。間も無くして、クレールの病気を知り、ジャンヌは両親を責めるが、そんなジャンヌも同じ病気を発症し、二人は手首にギブスをしなければならなくなる。しかし、ピアノを忘れられない二人は、密かにギブスを外し、関節に負担をかけない独特の奏法を生み出しピアノを弾き始める。それを知った母は、大学に交渉し、二人を復学させ、ピアノ練習をさせるためにフィッシャー教授につける。
一方、腱鞘炎で弾けないジャンヌに代わって、レナートは教え子のロレナをリンネに引き合わせるが、リンネは相手にしなかった。ジャンヌとクレールは、楽譜を二つに分けて二人で弾いて一つの曲にするという奇跡をフィッシャー教授に提案、本番日まで伏せる事にする。やがてリンネの指揮で、ジャンヌがソリストを務める演奏会の日が来る。
ステージ上の一台のピアノにジャンヌが座り、リンネの指揮棒が上げられたが、ジャンヌは弾き始めない。クレールは、急にプレッシャーに耐えられなくなり部屋に引きこもってしまった。それをセルジュが説得、やがてステージにもう一台のピアノが運ばれクレールが現れる。リンネは一時はクレールに帰るようにいうが、ジャンヌとクレールがピアノを弾き始めると、それに惹き込まれたリンネは指揮棒を振る。そして演奏が終わり、スタンディングオベーションの渦に包まれて映画は終わる。
ピアノシーン、特にクライマックスの演奏が素晴らしいのでそれだけでも見応えのある映画ですが、そのほかはちょっとセンスの悪い演出で、非常に勿体無い。でも、良い経験ができた一本だった。