「35年目のラブレター」
原田知世を見に行っただけでほかは全く期待していなかったので、これで良い。こういう作品にクオリティからどうこういう必要はないと思うけれど、一応書くと、臭すぎる脚本、稚拙で工夫のない演出、に参ってしまった。無難に仕上げた感満載の一本で、実話をもとにしているというのもあるけれど、もうちょっと力を注ぐべきところは注げばもっと映画として面白くなると思うのですが、センスがなさすぎる。そんな映画だった。監督は塚本連平。
雪の降る公園のベンチ、寿司屋に勤める西畑保は、間も無く定年を迎える事になっている。保は、戦時中に生まれ、小学校もいけないままに育ったために読み書きが全くできなかった。妻の晈子は、ずっとそんな保に寄り添っていた。映画はこの二人の若き日の出会いから人生の終焉までを淡々と描いていくが、そこになんの抑揚もない演出が施されるので、泣くべきところで泣けず、感動できるところで感動できない。
若き日の、字が読めないために馬鹿にされた保は、とある寿司店の店主に認められて雇われ、一人前の寿司職人になる。そんな時、お客さんの紹介で晈子と見合いをし結婚するが、保は読み書きできないことを半年間隠してしまう。ようやく告白した保に晈子は、自分が手になると答える。そして子供も生まれ、孫もできる。
ある日、保は散歩の途中で夜間中学の看板を目にする。そして、字が書けるようになって、自分に寄り添ってくれた妻にラブレターを書く決心をする。そして定年で仕事を辞めた日、入学の手続きをする。クリスマスまでにラブレターを描くという約束は、なかなか守れず、時が流れる。そしてとうとうラブレターを渡すが、晈子は、嬉しそうに受け取り、読んだ後65点やねと答えつつも嬉しそうな表情を見せる。
旅行がしたいという晈子の思いを叶えるべく、娘たちが近くの旅館の宿泊券をプレゼントする。しかし、その旅館で晈子は倒れる。精密検査の結果、脳内の血管に問題があると判明する。保は学校を辞めて看病するというが、晈子は保の卒業式用の服を買ったから、ちゃんと卒業してほしいと答える。晈子は、時々、かつて使っていたタイプライターを打っていた。辛い時に気を紛らわせるために打っているのだという。
病状が回復しない中、晈子は手術を受ける事になる。手術は無事終わり、家で療養を始める。ある夜、保が帰ると、晈子は、こたつで眠っていた。保が起こしてやると、晈子は風呂の準備をするとその場を離れる。保はこたつで居眠りして目を覚ますと、晈子の姿がない。そして風呂場で倒れている晈子を発見する。晈子の葬儀が終わるが、保はすっかり気力を無くしていた。しかし、押し入れの中で晈子のタイプライターを見つける。そこには晈子から保宛のラブレターが書かれていた。この日、保の卒業式だった。保は壇上でスピーチをする。こうして映画は終わる。
欠点を数え上げたらキリがない出来栄えの映画ですが、この作品にそれは適当ではないと思うので、まあ普通の映画だったという感想で終えたいと思います。
「プレゼンス存在」
やや実験映画的な作品で、最小限の登場人物、一軒の家の中だけという舞台設定、延々と長回しでワンシーンワンカットを繰り返して暗点で次の場面へ転換していく作り、そして、ラストシーン。さすがに、こなれた演出がされていて絵作りも美しいですが、それ以上でも以下でもない一本だった。監督はスティーブン・ソダーバーグ。
暗い室内、延々とカメラが、廊下、階段、部屋の隅々を縫うように捉えていくワンシーンで映画は幕を開ける。カットが変わると、この家を内覧に来たクリスたち家族。すっかり気に入ったクリスたちはこの家に住む事になる。クリスの妻レベッカは、執拗に息子のタイラーを可愛がっていた。この家には古い大きな鏡があった。娘のクロエは家族から疎まれていたが、父のクリスはクロエを気にかけていた。最近、ナディアという友達が亡くなったらしく、クロエらは、精神的に不安定になっていた。そんなクロエはこの家に何者かが存在すると感じ始める。シャワーを浴びて部屋に戻ると、散らかっていた本が片付けられたりしていた。
クロエから話を聞いたクリスは、知り合いの霊媒師を呼ぶ。その霊媒師はこの家に何かがいると告げるが、霊媒師の夫が金を要求したので出入り禁止にする。タイラーの友人ライアンが遊びにきてクロエと知り合う。やがてライアンとクロエは親しくなり体を合わせる。その様子をクローゼットから何者かが覗いているようだった。ライアンはクロエの飲み物に薬を入れるが、クロエが飲まないように突然テーブルからコップが落ちたりする。
週末に両親が仕事で出張し留守にする事になる。ライアンは、クロエと一夜を過ごすべく段取りを進める。ライアンはタイラーを訪ね、ライアンに睡眠薬を飲ませて眠らせ、クロエの部屋にやってくるが、クロエは、やっぱりまだ不安定だからと拒否する。ライアンはクロエの飲み物に体の自由が効かなくなる薬を溶かして飲ませる。動けなくなったクロエにライアンはラップのようなもので口を塞ぐ。どうやらライアンは殺人鬼で、ナディアを殺したのも彼らしかった。クローゼットからそれを見ていた何者かは、階下で眠るタイラーを起こしにいく。
タイラーが気がつき、異常に気がついて、クロエの部屋に飛び込み、クロエに覆い被さっているライアンに飛びついてそのまま窓を飛び出し落下する。全てが終わり、この家を引っ越す事にしたクリスたち。一人部屋に戻ったレベッカは、この家の古い鏡を見つめる。そこにはタイラーが映っていた。突然絶叫するレベッカに、クロスたちが駆けつける。こうして映画は終わる。
長回しのカメラ、暗転、そしてまた長回しのカメラと繰り返して物語は展開。ラストシーンで一瞬タイラーも最初から死んでいたのかと思わせるが、それはないかなと思った。ホラー、ミステリーというより、こういう映画を作ってみたかったという感じだけが見えてくる作品だった。