「BAUS 映画から船出した映画館」
古き良きミニシアター全盛期のインディーズ映画のような雰囲気で描かれるある映画館の栄枯盛衰という作品。ノスタルジーに浸るというより、映画は不滅だ映画館は永遠だと叫んでいるかのような希望を感じられる映画だった。亡青山真治の脚本を元にしているだけあって映像が実にシュールだが、最近こういう絵作りが少なくなったのでとにかく面白かった。監督は甫木元空。
池のほとり、一人の老人タクオが池に向かって座り、背後に妻?ハナエの声が被って、1927年青森、ハジメとサネオの兄弟が映画館に忍び込んで、映画館を作る夢を叫ぶところから映画は幕を開ける。翌年東京へ出た二人は、屋台で飲んでいて一人の男に誘われる。彼は吉祥寺で映画館井の頭会館を経営していて二人を招き入れて映画の上映を進める。ハジメは活弁士となりサネオは下働きで仕事をするがハジメの活弁はとにかく下手くそだった。サネオは映画館で働くハマと結婚し子供タクオも生まれる。すでに都会ではトーキー映画が上映されるようになり、時代は変わろうとしていた。ハジメ達は抵抗するもトーキーの流れは止まる事はなかった。
世界恐慌、第二次大戦と時代が移り変わり、ハジメは終戦間近の頃に徴兵されて帰らぬ人となる。映画館の社長となったサネオは戦後の映画全盛期に乗って二館目の映画館MEGをオープンする。しかし、時代は変わり、二つの映画館は閉館、最後に立ち上げた吉祥寺会館も閉館することになる。冒頭のタクオは急いで吉祥寺会館最後の日のために映画館に戻ってくる。最後の挨拶をするサネオの息子タクオの子供の姿があった。タクオは遺骨を抱いて家族共々葬列を組んで公園を練り歩き映画は終わる。
冒頭、一人の赤い服を着た少女が一軒の映画館に飛び込んで行くくだりや、ラストの葬列に後ろからトランペットを拭いたりする一行が続いていたり、時代の流れを時にドキュメンタリータッチで見せたり、ちょっと凝り過ぎたところもあるので人物関係と時の流れが掴みづらいところもあるのですが、面白い映像作品に仕上がっていたと思います。
「その花は夜に咲く」
少々物語を詰め込み過ぎた気がしないわけではないですが、細かいフラッシュバックを巧みに交錯させ、インサートカットを効果的に組み込んだ映像演出が秀逸な作品で、映画としてのクオリティの高さを見せつけられる映画だった。物語は限りなく透明に切なく、ベトナムの社会的な描写も残酷なまでにリアリティに溢れ、それでいて、純粋すぎるラブストーリーという核の話は最後までぶれない。出だしのトランスジェンダーの設定が次第に薄れていくのはちょっと寂しい気もしますが、ラストまで画面に釘付けにされてしまいました。監督はアッシュ・メイフェア。
霞のかかった画面の向こうにトランスジェンダーの女性(男性)サンの姿から、恋人ナムとの抱擁シーンになって映画は幕を開ける。ナイトクラブで働くサンは、性転換の手術のために必死で働き、ボクサーとして頭角を表していくナムはチャンピオンの座を手にする。ナムの祖母はひ孫に会うのを楽しみにしているがナムとサンの交際は認めていた。間も無くしてナムとサンは結婚する。
祖母のためにナムはミミという娼婦と関係を持っていた。手術の金のために、サンはクラブにやってくる一人の大富豪ヴーンと知り合う。そしてその男に体を売り、自分のパトロンになってくれるように頼む。ヴーンはサンを気に入り、大金を与えるようになるが、そんなサンの姿にナムは寂しさと嫉妬を覚えていく。そして、ヴーンとの最後の夜と決めた日、ナムはヴーンの屋敷にサンを送り出すが、その夜、サンはヴーンの前で男達に凌辱されてしまう。
サンは、精神的に打ちのめされて手首を切って自殺未遂をする。ナムが駆けつけてサンは助かるが、ナムはサンの手術費用のためにヴーンに近づき、地下格闘技に参加する代わりに大金を要求する。そしてナムは地下ボクシングで次々と試合をこなしていき、サンの手術費用を手に入れる。サンはそれを持って外国の病院へ行くが、手首の切り傷を見た医師は、二年間の精神療養の後でないと手術はできないと帰国させる。
その頃、ナムが関係を持った娼婦ミミが妊娠する。サンは一時はナムと喧嘩をし複雑な思いに駆られるものの、ミミに会いにいき一緒に暮らすことにする。ミミのお腹は次第に大きくなり、サン、ミミ、ナム、三人の暮らしは平穏に進んでいった。ある夜、ヴーンの前で試合をしたナムは、香港から来た興行師の女性を紹介される。ナムの実力を知って、香港などで勝負をしないかと誘いに来たのだ。ナムは、自分がただの機械に成り下がっていく事にショックを隠せず、家に戻ってミミを抱こうとするが拒否される。そんなナムをサンは優しく抱き寄せる。
安定期に入ったミミを連れて三人は海へ遊びにいく。しかしつい眠ってしまい夜になった三人は峠を越えて宿を探しにいこうとするが、途中、チンピラらと遭遇、サン達を見つけたチンピラにナムは殴りかかり一人を殺してしまう。そして、警察に逮捕されたナムは過失致死で裁判にかけられる事になる。間も無くしてミミは赤ん坊を産む。ナムを助けるべくサンはヴーンの元を訪れ、ナムを助けてくれるならなんでも与えると懇願する。
ナムは無実となったが、サンは、ナムとミミ、その赤ん坊と祖母を車で送り出し、自分はナムらの元を去る。一人残ったサンは、いつも佇む橋の上に立ち川を見下ろす。カメラは川に漂う一輪の花を写して映画は終わる。
とにかく映像の組み立てが実に美しくて、それだけで画面に引き込まれてしまいます。ストーリー展開の背後に行われたエピソードを巧みに組み合わせて物語を描写していく映像センスも素晴らしいし、映画の仕上がりは相当なものだったと思います。いい映画だった。