くらのすけの映画日記

大阪の社会人サークル「映画マニアの映画倶楽部シネマラムール」管理人の映画鑑賞日記です。 あくまで忘備録としての個人BLOGであり、見た直後の感想を書き込んでいるので、ラストシーンまで書いています。ご了承ください

映画感想「少年と犬」「ネムルバカ」

「少年と犬」

短編集のような原作を一本のお話にしてしかも映像的に無難にまとめ上げた作品でした。素直に感動すればいい映画で、余計な理屈を挟む必要はないと思いますが、瀬々敬久監督作品としては今一歩厚みというか迫力に欠けた感じがしました。一匹の犬が紡ぐ人間ドラマとしての深みがじわじわ伝わる力強さが少し物足りなかったです。いい映画なんですけどね。

 

2025年、一台のバス、中に一人の女性美羽が乗っている。そばの席に星の図鑑を見ている少女がいてクラスメートから疎まれている言葉が聞こえてくる。美羽はその少女に語りかけ、かつて東北で起こった大地震と、その後、悪い人たちがいた話を始める。ところが塾に行く少女は停留所を通り過ぎてしまい慌てて降りてしまう。席に大切な図鑑を残して。美羽はその図鑑を持って降りて少女が出てくる塾の前で少女を待つ。

 

二人は焼肉屋に行き、美羽は少女に犬に話を始める。2011年、東日本大震災から六か月後、職場が津波で流され、仕事にあぶれた和正は沼口という先輩のもとで盗品の運搬の仕事をしていた。空き家になった家々から品物を盗み転売する仕事だった。ある日、コンビニから出てきた和正は一匹のシェパードが佇んでいるのに出くわす。犬の首には多聞という名札が付けられていた。和正のそばを離れない多聞を和正は自宅に連れ帰る。認知症の母は多聞をかつて飼っていた犬と勘違いするが、認知症の症状は明らかに改善し、多聞を連れ歩くようになる。しかし、多聞はいつも南を向いていた。

 

和正は沼口から、外国人の窃盗団の運送を手伝うように頼まれる。和正は気乗りしなかったが、金のために引き受ける。窃盗団には難民の少女が通訳で加わっていた。仕事の後、ニュースで、宝石店に強盗が入ったなどと報道されて和正は後ろめたい気分になっていた。和正は多聞を仕事に連れて行ったが、幸運を呼ぶ犬として窃盗団のメンバーに気に入られる。和正は沼口に再度窃盗団の仕事をして欲しいと頼まれ、これを最後にと仕事を受けるが、窃盗団同士の仲間割れに巻き添えをくって大怪我をした挙句通訳の少女は多聞を連れ去ってしまう。

 

滋賀県の森の中、一人の少女が死体を埋めている風な場面に変わる。物音がして振り返ると、そこに怪我をしたシェパードがいた。少女はシェパードを獣医のところへ連れていき、埋め込まれたチップから多聞という名だとわかるが、レオと名付けて飼うようになる。少女の名は美羽というのだが、つまらない彼氏に金をせがまれて、デリヘルの仕事をしていた。ある日、急病でぐったりしたレオを獣医のところに連れて行こうとマンションを出た美羽の前に突然和正が現れる。そして、多聞を探してネットで調べて、とうとうここを突き止めたのだという。

 

後日、退院したレオを連れて美羽は妹の結婚式に出るために来たが、そこへ和正が現れ強引に美羽に同行する。デリヘルに仕事をしている美羽は家族からは疎まれる存在だった。式場で、和正はAKB48の歌を勝手に飛び入りで歌い美羽に笑顔を取り戻させる。

 

しばらくして森の中で死体が発見されたというニュースが流れる。実は、森で埋めていた死体は美羽に元彼だった。金をせびるだけの存在にとうとうある夜美羽は彼氏を刺し殺したのだ。全てが明るみになったと知った美羽は自殺しようと湖に入っていくが、多聞が、眠っている和正を起こし美羽を助けさせる。

 

美羽は何もかも終わったから死にたいというが、和正は多聞が向かっている目的地を知りたくないのかと説得して、思いとどまらせる。美羽はレオ=多聞が行きたいところへ連れていくと決心し、デリヘルの元締めの男に金を借り、和正と共に車で西へ向かう。ガソリンが切れたところで美羽は和正に多聞を任せて自分は自首する。和正は、出所まで待っているからと美羽と別れる。ところが、車にガソリンを入れていた和正に居眠り運転のトラックが突っ込み、和正は亡くなってしまう。

 

熊本、2016年、内村夫婦は息子光を連れて、宮城から移り住んでいた。光は震災以来口を聞かなくなって、いつもクレヨンで絵を描いているだけだった。両親もなすすべなく日々を過ごしていた。ところがある日、庭に一匹のシェパードを見つける。光はその犬のところへ行き、懐かしそうに抱きしめる。犬に埋め込まれたチップから多聞という名だとわかる。五年前、光は祖母といつも公園で遊んでいたが、一匹のシェパードの子犬が光に近づいてきたのだという。その犬の名が多聞だと光の父は朧げに覚えていた。祖母も多聞の飼い主の婦人も震災で亡くなっていた。

 

2025年兵庫県焼肉屋にいる美羽は少女に自分は刑務所を出てきたばかりなのだと告白、そしてお話の続きを語る。美羽は出所してからネットで多聞の行方を探していて熊本の内村家の書き込みを見つける。五年の月日をかけて多聞は東北から九州までたどり着いたのだという。そして多聞の旅を見守ったのは霊?となった和正だった。和正は美羽の前に現れ、多聞が辿った道筋を語っていく。光は多聞に再会してどんどん症状が改善し、とうとう言葉を普通に話せるようになった。ところが2016年、熊本を襲った大地震で、多聞は光を庇って崩れた家の中で大怪我をする。光の父が獣医のところに連れていくが、手のほどこしようもなかった。多聞は光のために命を使い切った。

 

浜辺で佇む美羽と和正の姿があった。美羽は自分を待っていると約束した和正を非難する。2025年焼肉を食べ終えた美羽と少女は店を出る。少女は、将来東大に入って宇宙飛行士になって宇宙人を見つけるのだと美羽に手を振る。こうして映画は終わる。

 

デリヘルで働く美羽と冒頭で物語を話す14年後の美羽が同じ西野七瀬だと最初わからなかったほどの熱演に圧倒。原作を基本にしながらもオリジナルを付け加えて一つの話に仕上げるにあたり無理がなかったとは言えないが無難にこなせているし、とにかく西野七瀬が最高に可愛らしいのでそれだけでも値打ちのある映画だった。

 

 

ネムルバカ」

めちゃくちゃ良かった。セリフの掛け合いのテンポが抜群にいいし、さりげなく入ったセリフのちらほらに心にしみるフレーズも散りばめられ、単なるゆるゆる女子トークとは一線を画した感じが心地よい。しかもニヤッと笑えるネタも挿入され、「ベイビーわるきゅーれ」的な空気感をさらにパワーアップしたとってもいい作品になっていた。しかも終盤近くまでの笑いにノリが一気に終盤で感動に変わるからとにかく物語の展開の構成も素敵で、いい青春映画を見た感じでした。監督は阪元裕吾。

 

入巣柚実が、「先輩が行方をくらました」というつぶやきから映画は幕を開ける。女子大生の柚実は先輩でミュージシャンの鯨井ルカと一緒に女子寮で暮らしている。この日、金もなく食べ物も乏しい状態の二人は柚実の彼氏田口を呼ぶことにする。やってきた田口は寿司や唐揚げを持参してきたが、実は柚実はどちらも苦手だった。ルカは大喜びで寿司を平らげる中、ひたすら酒を飲む柚実。深夜、ルカは田口の車を借りて一人でドライブへ行くがガス欠で目的地から帰れなくなる。早朝、柚実がルカの居場所を見つけてやってきて二人で歩いて戻ってくると、女子寮のベランダから田口が「ルカ先輩が好きだ」と叫んでいるのを聞く。

 

落ち込んだ柚実に、田口と友人の伊藤が言い訳にやってくる。伊藤はヒーローマニアで、腰に変身ベルトなどをしている。田口は、柚実に謝るでもなく、ストレートに悪いところを言ってしまい柚実に殴られる始末。さらにルカは柚実を通して自分に好意を伝えようとする田口に蹴りを入れる。

 

柚実はDVDレンタル買取ショップでバイトをしているが、バイト先の店長は、妙にしたり顔で業界にも詳しいなどと言っては柚実に近づいてくる。VHSのビデオを売りにきた客は柚実にそのビデオが買取できないと聞いてプレゼントしてしまうが、柚実がアパートに戻って見てみれば意外に面白かったりする。ルカはバンドメンバー三人とインディーズバンドを組んでいて、「ネムルバカ」という曲がファンの間で人気で、そのライブに行った柚実も感激してしまう。

 

柚実とルカは、安居酒屋で飲んだり、バイトやバンド活動をしたりというゆるゆるした日々を送っていた。柚実のバイト先の店長が辞めることになり、最後くらいと食事の誘いに乗るものの奇妙な店に連れて行かれて呆れてしまう。その帰り、店長が二軒目を誘おうとするのをルカが助けてやる。

 

ある朝、ルカに大手音楽レコード会社から電話が入る。ルカは柚実からお気に入りのマフラーを貸してもらいバンドメンバーと音楽会社へ出かけたが、先方はルカだけが目当てで、バンドメンバーはその場で追い返される。空気を察知したバンドメンバーは快くルカを送り出す。

 

女子寮に戻ったルカは柚実に、なんとも言えない苦しさを表し、その夜は二人で飲み明かす。その時、ルカは「ネムルバカ」の曲は、柚実が寝言で口ずさんでいた曲を譜面に起こしたことを告白する。しかし、歌にしたのはルカだから気にすることはないと柚実はルカを鼓舞する。ルカは一人荷物を詰め始める。大学を辞めて引っ越すのだという。柚実はなんとも言えない寂しさを感じるが、一緒に荷造りを手伝う。翌朝、ルカは柚実の元を去って行った。

 

そして一年間、柚実はルカがみるみる有名になって成長する姿を見つめていた。ある夜、女子寮に戻った柚実はルカからのステージのチケットを見つける。柚実がコンサート会場へ行くと、大きな会場はファンで埋め尽くされていた。ルカの元バンドメンバーも見にきていた。次々とヒット曲を歌うルカの姿を見つめる柚実は「これが目指していたものなの?」と呟く。そして最後の曲、ルカは予定していた曲ではなくギターを取り出して「ネムルバカ」を熱唱、元バンドメンバーも演奏しているかのようにノリ、柚実も一緒になって歌う。演奏後会場からは複雑な拍手が溢れるが、その中、ルカはステージを降りて何処かへ消えてしまう。

 

そして女子寮のいつもの朝、柚実は新しい同居人の後輩に起こされる。あれからルカはいなくなったが、新しい日々が始まっていた。こうして映画は終わる。

 

とにかく楽しくて、切なくて、それでいて、ノリノリの青春映画に仕上がっています。今時の映画のようですが古き良きテーマの爽やかすぎる青春映画でもありました。原作コミックは知りませんが、どこをどう見ても坂元裕吾作品に仕上がっていました。楽しかった。