「FEMME フェム」
もっと薄っぺらい映画かと思っていたら、意外なほどにしっかり作られたサスペンスだった。ラストへ向かっての展開がブレないし、映画的なラストシーンは、これがゲイの映画でなかったら涙ぐんでいたかもしれない切なさが残る作品だった。監督はサム・H・フリーマン&ン・チュンピン。
ゲイクラブで華麗に歌う主人公ジュールズの姿から映画は幕を開ける。このクラブのトップスターというイメージの彼女は友達のトビーやアントンと楽しく日々を暮らしていた。ステージの合間に外に出たジュールズは、暗闇に佇む一人の青年プレストンに目が行く。しかし次の瞬間彼の姿はなかった。タバコを買いに近くのドラッグストアに立ち寄ったジュールズは、チンピラまがいの若者たちの集団と出会し、つい罵声を浴びせてしまう。その集団の中にさっきのプレストンもいた
ジュールズはそそくさと店を後にするが、若者の集団が後を追って来て、プレストンを中心にジュールズに襲いかかり、ジュールズは服を脱がされて乱暴されてしまう。なんとか店まで戻ったジュールズだが、以降引きこもってストリートファイターのゲームにのめり込んでしまう。
ある日、ゲイが集まるサウナにやって来たジュールズは、プレストンに再会する。しかしプレストンは、化粧を落としているジュールズがあの時痛めつけたゲイだと気が付かなかった。プレストンもゲイだと知ったジュールズは復讐のために近づき、さも気があるふうに装ったので、プレストンはジュールズと体を合わせる。ジュールズは、暴露サイトにプレストンがゲイである証拠の動画をアップする計画を立てる。
ある夜、ジュールズがプレストンの部屋に行き抱き合っていると、プレストンの友達が戻ってくる。プレストンの友達にはプレストンはノーマルな男だと思われていた。咄嗟の判断でジュールズはプレストンのクローゼットからブランドパーカーを借りて、プレストンの友達の前に普通の男友達として現れてその場を逃れる。プレストンはジュールズに、着て帰ったパーカーは偽物だが後で返せと連絡先を交換する。
プレストンとジュールズは逢瀬を繰り返すが、プレストンはジュールズを支配する形で体を合わせていた。何度かの逢瀬の後、ジュールズはプレストンの友人と偶然出会い、そのままプレストンの部屋でストリートファイターをやる。ジュールズがあまりにゲームが上手いのですっかりプレストンの友達と親しくなったジュールスは誘われるままに友達らとクラブで踊りそこで女性と濃厚なダンスをする。
それをみていたプレストンは嫉妬を覚える。そこでジュールズはプレストンを自室に呼び一夜を明かすが、すでにジュールズとプレストンの立場は逆転していた。その際、ジュールズはプレストンとの情事を動画に撮る。しかし、結局動画はアップしなかった。そこへトビーやアントンがやって来てプレストンと出会う。トビーたちもすっかりプレストンと親しくなり、間も無く来るジュールズの誕生日にサプライズでプレストンを呼ぶ事にする。
ステージを降りて三ヶ月経ったジュールズは誕生日の夜、クラブのステージに立つ事にする。そこへプレストンも来ていた。華麗に歌うジュールズを見たプレストンだが、ジュールズはステージ上で、三ヶ月前に暴行を受けたことを冗談半分にスピーチし、プレストンにもらったパーカーを半分に切って着込んでいた。プレストンはジュールズへの誕生日プレゼントをトビーに預ける。
プレストンは騙された事を知り楽屋でジュールズを待ち伏せする。そしてステージを終えて来たジュールズに殴りかかる。ジュールズはプレストンと大喧嘩した後、プレストンを打ちのめす。そして部屋に戻ったジュールズがプレストンからの誕生日プレゼントを開くと、本物のパーカーが入っていた。じっと見つめるジュールズの姿で映画は終わる。
ゲイという背景だけがネックなだけのラブストーリーという感じの一本で、ラストまでしっかり組み立てられたストーリーはなかなかのものです。傑作とかそういうものではないけれど、見て損とは言えない映画だった。
「BETTER MAN ベター・マン」
主人公の姿を猿にして、流れるようなカメラワークと美しい映像を駆使して描く一人のアーティストの半生、映画の可能性にチャレンジしたつくりは若干あざといとは言え、映画の仕上がりは見事で、ラストは自然と涙が出て来た。実話ゆえの限界があるものの、物語の構成が秀逸で、少年期、グループメンバーの時期、ソロ活動からドラッグ漬けを経ての再生とクライマックスと大きなエピソードの組み立てが実に上手い。終始猿の姿なのでストレートに感情移入しづらいのですが、ロビー・ウイリアムスの素敵な曲の数々(と言っても自分の知識の中にはどれも知らないのですが)が物語を紡いでいく様、ファンの前に立った時の孤独感と恐怖心を観客の中の猿として表現した演出も面白い。ミュージカルシーンも美しく、ニコールと出会う時の船上での長回しのダンスシーンは圧巻。少々ラストにメッセージが押しつけられるのは気になるけれど、映画としては良い作品だった。監督はマイケル・グレイシー。
ロバート・ウイリアムスの少年時代、友達からは何かにつけてのけものにされる日々だったが、エンターテナーでもある父ピーターのもとで明るく、そして優しい祖母ベディに可愛がられる日々を送っているところから映画は幕を開ける。父の影響もあり、エンターテナーになる夢があるロバートは、ポップスグループのメンバー募集のオーディションに応募し、強引に合格を勝ち取ってしまう。そしてロビー・ウイリアムスとして、ボーイズグループ「テイク・ザット」のメンバーとしてデビューする。
ポップスターとしてロビーはスターの道を駆け上がっていくが、テイク・ザットのメンバーの中では常に後方で踊るばかりで、リーダーゲイリーの影でしかなかった。ロビー・ウイリアムスは自信のことをパフォーミングモンキー(猿回しの猿)と呼んだことがあり、そのためこの映画では猿のCGIを使っている。音楽プロデューサーもゲイリーの才能は認めるも、ロビーはワンランク下にしか見ていなかった。やがて、テイク・ザットは、ロビーを外して四人でツアーに出る事を決定する。
自暴自棄になりかけるロビーは、ある夜、大人気のガールズグループ、オールセインツのメンバーニコール・アップルトンと出会う。やがて二人は恋に落ち結婚へ進んでいくが、ニコールの人気がますます上がり、やがてヒットチャート一位の座に着く。そんなニコールに嫉妬を覚え、ドラッグとアルコールに浸っていくロビーだったが、ネイトと知り合って、自身の詩と曲を作り上げてソロとしてステージに立つ。しかし、観客席からのプレッシャーから逃れるためにドラッグに溺れていく。
ロビーのソロ活動はみるみる人気を博していくが、大群衆の前でステージを立つことに異常なプレッシャーを感じ続ける。観客が自身を蔑み攻撃してくる姿が幻覚として現れ、さらにドラッグでそれを紛らわせる日々が続く。そしてとうとうリアムとも喧嘩別れしてしまう。そんな時、最愛の祖母ベティが亡くなり、ロビーのプレッシャーは頂点に達する。さらに、ドラッグと女遊びに明け暮れるロビーにニコールはとうとう愛想をつかせて出ていってしまう。しかし、まもなくネブワースでの最大の音楽フェスが控えていた。
大群衆の前で絶唱するロビーだったが、観客の姿がロビーに戦いを望む兵士や猿、悍ましい姿の魔物に変わっていき、ロビーはそんな群衆に斬りかかって暴れ、気がつくとひとりぼっちになっていた。ロビーは、久しぶりに父ピーターと再会し、自身もう一度やり直す決心をしてセラピーに参加する。ドラッグ中毒を抜け出したロビーは、かつての仲間や友人を回って謝罪する。そしてこの日アルバートホールで、群衆の前で歌うロビーの姿があった。客席には両親も見に来ていた。ロビーは最後に、父ピーターのおはこだったマイウェイを絶唱、ピーターもステージに呼んで二人で熱唱する。その姿を見つめる母の姿もあった。こうして映画は終わる。
イギリスの音楽アーティストの知識が皆無に近いので、登場人物を追いきれないところがあるのですが、流麗なカメラワークがとにかく美しく、ミュージカルシーンも目を見張ります。猿の風貌は最後まで慣れなかったけれど、映画全体としては本当によくできた作品だったと思います。