くらのすけの映画日記

大阪の社会人サークル「映画マニアの映画倶楽部シネマラムール」管理人の映画鑑賞日記です。 あくまで忘備録としての個人BLOGであり、見た直後の感想を書き込んでいるので、ラストシーンまで書いています。ご了承ください

映画感想「眠狂四郎 多情剣」「眠狂四郎 無頼剣」「Love Letter」(4K)

眠狂四郎 多情剣」

めっぽう面白い娯楽時代劇の秀作だった。様式美にこだわった美しい画面の構図に、多彩なカメラワークによるテンポのいい絵作り、さらに次々と登場する見せ場の連続に眠狂四郎のキャラクターが光る。映画としても十分評価できるクオリティを備えた良い映画だった。監督は井上昭。

 

眠狂四郎への恨みをつぶやくながら舞う能舞台のシーンから映画は幕を開ける。眠狂四郎は、客引きに誘われるままに生娘を紹介されて女郎屋に足を運ぶ。実は、狂四郎は菊という名前で書状をもらっていてその行き先がその女郎屋だった。そこで、水揚げで連れてこられたはるという娘と会うが、その女は侍に父を殺された恨みで狂四郎を目の敵にして睨みつける。さらにその女郎屋で下曽我典馬という侍と出会う。直後何者かが狂四郎に襲いかかってくる。襲って来たのは武州疾風組だという。

 

彼らを操るのは将軍家息女菊姫で、菊姫は顔にあざがあり、世の中の美男子を引き入れては淫蕩を繰り返して殺し、美しい女には残虐な仕打ちをしていたが、かつて狂四郎に恥をかかされた恨みから狂四郎を亡き者にせんと狙っていた。狂四郎ははるを見受けして、知り合いの居酒屋に奉公させてやるが、間も無くしてはるは菊姫一味に誘拐されてしまう。

 

菊姫一味は赤松勘兵衛の妻志乃を殺し狂四郎の仕業に見せかけ、菊姫の息のかかった狂女なども使って執拗に狂四郎の命を狙ってくる。そして、菊姫が住む武蔵野の屋敷にはるを拉致し狂四郎を誘き寄せようとする。狂四郎は単身乗り込み、菊姫が頼りとする典馬を対峙させる。下曽我典馬こそが疾風組の頭領だった。しかし狂四郎の円月殺法の下、典馬も斬られ、はるは無事救出される。菊姫は自害し、菊姫一味を倒して欲しいと依頼して来た幕府目付も最後に狂四郎を亡き者にせんと斬りかかって来たのを斬り殺し、はると武蔵野を後にして映画は終わる。

 

クライマックスの多彩なカメラワークのみならず、横長の画面を最大限に使った映画的な構図、次々と眠狂四郎がピンチになる見せ場の工夫も面白く、エンタメ映画としても映像作品としてもなかなかの秀作でした。

 

 

眠狂四郎 無頼剣」

伊藤大輔が脚本に参加しているせいか、眠狂四郎のヒーロー映画というより普通の時代劇という感じで、狂四郎の殺陣シーンもほどほどにしか出てこないし、ある意味物足りないかもしれませんが、一方で時代劇として完成度の高い作品に仕上がっていたように思います。監督は三隅研次

 

ある商家で、主人とその妻、そして娘が縛られている場面から映画は幕を開ける。縛られていたのは油問屋弥彦屋と一文字屋だった。娘が戸を破って外に転がり出て助けを呼ぶ。駆けつけた岡っ引きらが、犯人の行方を追うとするが、主人は、中蔵では幼い娘が遊んでいるだけだから大丈夫だと役人を別の場所に誘導する。幼い娘は蔵のなかにいる愛染という男と隠れんぼをしている。愛染は何やら書物のような物を手に入れて、やって来た主人に言葉をかけた後出て行こうとする。

 

その様子を小鉄と言う髪結職人が居酒屋で飲んでいる眠狂四郎に話している。小鉄は一文字屋の蔵に忍び込み、精気がつくという酒を盗んできたのだという。ところが飲もうとしてその匂いについ土間に捨ててしまう。その土間に狂四郎がタバコの火を投げると一気に燃え広がる。慌てた人たちの中に飛び込んできたのが角兵衛獅子を連れて越前から来た女勝美だった。

 

越後の地下水から油精製を研究していた大塩忠斎、格之助父子は一万両で権利を譲り貧民救済に当てようとしていたが、商人に裏切られ処刑されていた。勝美はその恨みを晴らすべく江戸にやって来た女だったが、狂四郎が格之助に似ていたので驚いてしまう。そんな勝美は弥彦屋の用心棒に襲われる。それを狂四郎が助ける。

 

勝美の口から弥彦屋と一文字屋を襲ったのは愛染と名乗る浪人一味で、忠斎の恨みを晴らすべく老中水野忠邦をも狙っていると聞く。勝美は一文字屋巳之吉に頼まれて油精製の図面を盗んだが、その商人たちが大塩を幕府に売ったのでその恨みを晴らそうとしていた。ところが、愛染一味は図録を盗んだ勝美を殺そうとしていたが勝美が狂四郎と親しくなったため狂四郎をも狙ったのである。

 

狂四郎は罠に嵌められ地下に落とされ、そこで、弥彦屋と一文字屋を拉致している用心棒らの姿を見る。用心棒らは愛染が言っていた一万両に目が眩んで横取りしようとしていた。その頃、愛染は水野忠邦の籠を襲ったが、中は誰もいなかった。しかし、弥彦屋と一文字屋の油精製の作業場を爆破して焼き払う。

 

地下牢から抜けた狂四郎は愛染と屋根の上で一騎打ちをする。愛染もまた円月殺法の使い手だった。しかし、最後は狂四郎が勝つ。愛染は死の間際、小さな娘と約束したおもちゃを届ける日だったからと狂四郎に託す。懐から鮮やかな飾り細工が落ちていく。かなたで上がる炎を見つめる眠狂四郎の顔で映画は終わる。

 

原作を脚色した際に、削除しすぎたのか、元々脚本がちょっと人物描写が足りなかったのかわからないけれど、話の背景がうまく見えてこない上に、脇役がいつの間にか本編から抜けていくような雑さも若干見られる。一般時代劇としての仕上がりは悪くないが、眠狂四郎を無理やり登場させるような展開も見られ、ちょっと中途半端だったのではないかと思える映画だった。

 

 

「Love Letter」

三十年ぶりの再見、自分のベストムービーの一本ですが、やっぱり良い。男と女の透明かつ繊細すぎる気持ちが微に入り細に入り描き尽くされている。何気ない小さなエピソードやセリフの隅々に散りばめられた心の中の思いが、スクリーンから映し出されて来ます。涙が落ち着いたと思えばまた涙ぐんでしまう。本当に素敵すぎる名作です。何度見ても良い。監督は岩井俊二

 

真っ白な雪原、一人の女性渡辺博子が徐に立ち上がり丘を駆け降りるところから映画は幕を開けます。この日、フィアンセ藤井樹の3回忌の法要だった。法要を終えて帰ろうとする博子の車に、藤井樹の母安代が頭が痛いと乗り込んでくる。しかし実はそれは、親戚らがこの後飲むのがわかっていて仮病を使って逃げて来たのだった。

 

博子は安代の家に行き、藤井樹の中学時代のアルバムを見せてもらう。藤井樹は中学校の時に小樽から今の神戸に移って来たのだった。何を思ったか博子はアルバムの最後にある藤井樹の小樽の住所を腕にメモする。安代の話では、かつての小樽の家は国道になっているのだと言う。後日、博子は藤井樹に手紙を書く。

 

小樽、風邪を引いて咳き込んでいる藤井樹の所に郵便が届けられる。渡辺博子という女性からの手紙に心当たりがないままに開くと「お元気ですか、私は元気です」と書かれていた。怪訝に思った樹だが、その手紙に返事を書くことにする。博子の元に藤井樹の名前で返事が来て博子は驚いてしまう。しかも「風邪を引いている」と言う。

 

博子は、フィアンセだった樹の友人でガラス工房をしている秋葉に相談する。秋葉は博子に恋心を抱いていて、天国からの手紙だと言う博子の言葉に辛い思いをする。その後、博子と樹は何度かの手紙のやり取りをするが、秋葉は勝手に、藤井樹本人だと分かる物を送れと手紙を送る。小樽の樹はそれに対し、免許証のコピーを添えて、これで終わりという意味合いの手紙を送ってくる。

 

博子は、手紙の相手の藤井樹が女性である事を知り、心ならずも落胆してしまうが、そんな博子に秋葉は小樽へ行こうと提案する。たまたまガラス工房をしている友人に誘われていたのだという。そして二人は小樽の藤井樹の家にやってくるが、出迎えたのは祖父だった。すぐに帰ってくると言われて、門の前でしばらく待ったが、博子は樹が死んだことは隠して手紙を書いて投函し秋葉と帰ることにする。入れ違いに樹がタクシーで戻ってくるが会うことはなかった。樹が乗って来たタクシーに乗った博子と秋葉に運転手はさっき載せた女性に似ていると呟く。手紙を見た樹が追いかけるが、博子が樹ではないかと声をかけるも人混みに紛れてしまう。

 

博子の手紙を読んだ樹は中学時代同姓同名の藤井樹という男子生徒がいた事を思い出す。樹は、自分の知らない藤井樹の姿を知りたいと手紙を送る。小樽の樹は中学時代の懐かしい思い出を博子に送り始める。そして同姓同名というだけで笑いの種にされたいやな思い出などさまざまな事を綴り始める。クラスメートのイタズラで二人は図書委員になるが、樹は図書カードに自分の名前を次々と書き始める。交通事故で骨折した中学時代の樹は勝手に100メートルを走ってしまったエピソードなどを書いた後、博子はポラロイドカメラを送って、藤井樹が過ごした中学校の運動場の写真を頼む。

 

小樽の樹は、校庭の写真を撮り、教室に入って行った時、かつての担任の浜口先生に会う。今の図書委員に紹介してもらった樹は、図書委員から、藤井樹の名前の図書カードの本人の会えたと大騒ぎする。しかし樹は、それは自分の名前ではないと言う。帰り際に、浜口先生に男子生徒の藤井樹は、二年前に亡くなったと聞く。その夜、樹は風邪がぶり返して高熱で倒れる。樹の父は風邪で肺炎になり手遅れで亡くなっていた。救急車が雪で一時間かかると言われ、祖父は、母晶子が止めるのを聞かずに樹を背負って病院を目指す。樹の父もそうやって病院へ向かったが手遅れだった。しかし、あの時も救急車で行くよりも早かったから、どうなっても手遅れだったのだという。

 

樹の父が亡くなり、その葬儀を終えた朝、男子の樹が訪ねて来て一冊の本を渡す。返す暇がないから返してほしいと言う。樹は、学校へ行き、男子の樹が転校した事を知る。

 

その頃、秋葉は博子と、かつて藤井樹らと登った山へ行こうと向かっていた。しかし、途中で博子は引き返したいと訴える。秋葉はとりあえず梶さんという人の山小屋で一夜だけ過ごすことにする。翌日早朝、秋葉は博子を起こす。外に出ると、藤井樹や秋葉が登った山がかなたに見えていた。秋葉はその山に向かって「博子ちゃんを貰うぞ」と叫ぶ。博子は「お元気ですか?私も元気です」と叫ぶ。

 

小樽では樹は目を覚ましていた。傍に祖父も眠っていた。家に帰った樹に、以前中学校へ行った時にあった図書部員のメンバーが訪ねて来る。そして、樹が中学時代、父の葬儀の日にやって来た藤井樹から最後の本を返してほしいと預けられた「失われた時を求めて」を持って来る。そこに挟まれた図書カードを見た樹は、カードの裏に自分の似顔絵が描かれているのを見つける。

 

樹のところに、博子から、以前もらった樹の思い出の手紙が届く。これは樹が持っておくべき思い出だと書かれていた。博子は、図書カードに書いていた藤井樹の名前は本当にその男子の名前だったのかと問いかけて来る。樹は庭にいる祖父に声をかける。祖父は、樹が生まれた日に植えた木に樹と名付けたという。こうして映画は終わる。

 

書いても書いても書ききれないほどに、透明感あふれる切ない男女の心が、映像の背後に隠されていてたまりません。光を使った絵作りも美しく、本当に何度見ても胸が締め付けられる思いをしてしまう名作だと思います。本当に見直せて良かった。