「眠狂四郎無頼控 魔性の肌」ちさ、おえん
一本のストーリーを丁寧に描いていくのではなく、主人公の見せ場を次々と見せていく痛快娯楽時代劇。とは言っても、様式美を徹底した画面の構図は美しく、色彩にこだわった絵作りも見ていて楽しめます。やたら女体の裸が出て来る妖艶な作りもこのシリーズならではで、楽しい一本でした。監督は池広一夫。
全裸の女性が横たわり、傍にバテレンの男が怪しい儀式をしている場面から映画は幕を開ける。眠狂四郎は、この日も、行きつけの茶屋でおえんと情事を交わしていた、その帰り、狂四郎は数人の武士に襲われるが返り討ちにしてしまう。間も無くして一人の女ちさが狂四郎を誘う。その父朝比奈は、先日狂四郎を襲った武士の一人だった。朝比奈は、黄金のマリア像を京都の公卿に献上する役目を仰せつかっていたが、黒指党と言う邪教集団が狙っているから狂四郎に同行してほしいと言う。その頃、一人の女が狂四郎の姉が京都にいるから訪ねてほしいとやって来る。
狂四郎は、京都まで黄金像と同行する代わりにちさの操をいただきたいと要求し、父親に了解をもらう。狂四郎を狙う黒指党の首領三枝右近は、様々な罠をかけて狂四郎に迫って来る。狂四郎を京都へ誘った女も捉え、狂四郎を地下牢に落とすが、狂四郎は窮地を脱する。竹林で襲って来た際は、帯を解いて華麗に舞い上がり敵を倒す。毒茶で狙ったり、毒湯に落とそうとしたりと盛りだくさんである。そして京都到着が明日に控えた日、狂四郎はおえんとの寝物語でおえんもまた黒指党であろうと見破る。後日おえんは裏切り者として右近らに殺されてしまう。
京都へ黄金像を届けたちさだが、実は父と思っていた朝比奈には双子がいて、実はその男がちさの実父だった。朝比奈は私利私欲のために黄金像を売り渡す計画だった。それを非難されて朝比奈はちさを斬るが、狂四郎が現れ、実娘を斬ったことを告げる。そして朝比奈らを斬り捨てる。狂四郎は三枝右近に戦いを挑むことにし、河原で対決する。円月殺法の刃が光り、三枝右近は倒れる。こうして映画は終わる。
様々な見せ場を用意してひたすら楽しませる娯楽映画で、映画のクオリティとかではなく、まずは面白く作るを大前提にした描写も面白い。それでも、日本的な様式美は至る所に見られて画面が実に美しい。本当に楽しめる一本だった。
「片思い世界」
広瀬すず、杉咲花、清原果耶、横浜流星と、今、旬の若手を集めた割には、非常にゆるい脚本と演出に、流石にもったいない感が爆発してしまう作品だった。早々にネタをバラしてしまうのでその後の展開はどうなるのかと期待したがそれほど膨らむわけでもなく、クライマックスも時間繋ぎにしか見えないエピソードで展開していくのはなんとも芸がない。期待しただけに、落差の大きい感想になってしまった。監督は土井裕泰。脚本坂元裕二。
黒服で覆われた一人の青年が雪の階段を登っていく。その先にかささぎ子供合唱団の練習場があり、まだ幼い美咲は一生懸命自作の物語をノートに書いている。後ろでピアノを弾いているのは高杉典真。美咲が書き終えて後ろを振り返ると典真がいない。そこへ他のメンバーが入って来る。美咲は典真を探しに出ていくが見つからず、黒いフードを被った青年とぶつかる。そのまま練習室に戻る。翌日がコンクール本番ということで記念写真を撮ることになり、美咲はノートを隅に置いて、カメラをセットして身構えているところへ先ほどの青年が入って来て、全員がそちらを向いたところでシャッター、場面が変わる。
夜の街、さくらがさっさと家路に向かっている。途中、落とし物をした人がいても無視して帰宅すると出迎えたのは大人になった美咲、優花だった。サプライズの誕生日パーティーを企画し、この日さくらは二十歳になった。さくらもまた美咲と優花にバースデーサプライズをベッドに用意していた。
翌朝、優花は大学へ、美咲は仕事、さくらは水族館の仕事へ向かう。お弁当を作り、出がけに柱に身長の目印をつける。バスの中で、美咲は一人の青年に惹かれていた。優花やさくらが冷やかす中、美咲は告白などもってのほかと笑う。さくらはその青年のことを調べ、ラフマニノフのコンサートに恋人桜田に誘われたことを知り、美咲を無理やり会場へ連れていく。しかし桜田は別の男性にも電話をしていることを知ったさくらは大きな声でコンサート会場で非難し、さらに美咲も連れて舞台上に上がって客席に叫ぶが誰も気が付かない。実は、美咲、優花、さくらは幽霊だった。
十二年前の合唱団の練習場で、突然現れた青年に刃物で殺されたのだ。その青年は未成年だったために少年院に送られる。美咲がバスの中で認めた青年は、典真の成長した姿だった。典真は、あの日、練習場を離れてコンビニに行っていて助かったのだが、以来、ずっと罪悪感に囚われていた。美咲の家庭は裕福ではなく、典真は、中華まんを二つ買いに出ていたのだ。
優花は大学で、花屋をしている母の車を見つけて後をつける。優花は大学で学んだ素粒子理論から、幽霊である自分たちももう一度現実に戻れるのではないかという考えを思い浮かぶ。そしてさくらと加速器の研究所へ忍び込むが、帰りのエレベーターに乗り損ねる。そこで、同じく忍び込んだ人がいないか調べるとラジオパーソナリティのラジオの青年だった。三人はいつもラジオを聴いていたが、そこから流れて来た声で、自分も幽霊だったが、現実世界に戻ったのだという。そして、現在の人間と繋がりを生み出せば、夜明けの時間、星が先灯台に来たら連れ戻してあげるというメッセージを聞く。
そこで、優花は母と、美咲は典真と繋がりを求めようとする。さくらは、自分たちを殺した犯人が出所して来た記事を見てその青年増崎要平と接触しようとする。優花は母が再婚して子供も生まれたのを見、典真は、今度の合唱コンクールでピアノを弾いてほしいと合唱団の加山に頼まれているのを聞いて、前に進んで欲しいと祈り、典真が苦悩する前でじっと見つめていると、典真は美咲が幼い頃に書いたノートを見つけ、見えない美咲を典真は抱きすくめる。
さくらが増崎に接触しようとしていることを危惧し、さくらのところへ行くが、増崎に優花の母彩芽も接触して来る。そして車に乗せて埠頭へ行き、過去のことを責める。そして車内で包丁を持ち出して刺そうとするが逆に増崎が反撃し、彩芽を襲って来る。彩芽は必死で逃げ、さくらたちも後を追うが、増崎は車に轢かれて死んでしまう。
美咲達は、現代との繋がりを確保したため、約束の灯台へ向かう。そして夜明けの時間が来る。三人は現実世界に戻ったのではと灯台を離れるが、何も変化していなかった。一方、三人が住んでいる家が買い手が見つかり近々やって来ることになっていた。
典真は合唱コンクールのピアノを弾く決心をし、美咲、さくら、優花はそのステージで一緒に歌うことにする。三人は合唱団と一緒に典真のピアノで歌う。やがて家は修繕される日が来る。美咲達は荷物をまとめて家を離れ、次の行き先へ向かう姿で映画は終わる。
どの部分をとっても非常に雑で、練られた雰囲気がないのがとにかく残念。これだけのスタッフキャストでこの仕上がりはあまりに勿体無い、そんな感想だけが残る作品だった。