くらのすけの映画日記

大阪の社会人サークル「映画マニアの映画倶楽部シネマラムール」管理人の映画鑑賞日記です。 あくまで忘備録としての個人BLOGであり、見た直後の感想を書き込んでいるので、ラストシーンまで書いています。ご了承ください

映画感想「まごころ」(成瀬巳喜男監督版)「はたらく一家」「乙女ごゝろ三人姉妹」

「まごころ」

ほんの些細な出来事からここまで膨らませる脚本の凄さ、さらに、細かいカット割りで物語や登場人物の心の動きを表現していく演出力の見事さに呆気にとられるほどの素晴らしい作品だった。監督は成瀬巳喜男

 

同級生の富子と信子は、この日、通信簿を持って帰る途中、母と祖母の三人暮らしの富子は今回成績一番になり、信子は十番に下がったという話をしているところから映画は幕を開ける。信子は母に叱られるのではないかと心配しながら母に打ち明けるが、案の定信子の母は、担任の先生が変わったせいではないかと危惧し、夫の勤め先に出向いて相談する。しかし夫は、元気で育っているならいいのではないかと気にしない風を見せたので一人で担任の先生のところに行く。

 

担任の岩田先生は、信子のことは少しわがままだが、いい生徒だと答えるも納得のいかないまま信子の母は帰ってくる。夜、信子の母は、夫に、一番になったのは富子だと言い、今でも富子の母お蔦さんに思いがあるのではないかといって喧嘩してしまうが、それを寝床で信子が聞いていて翌日富子に話す。複雑な思いに駆られた富子は母を問いただすが、富子の父はいい人だったし、信子の父親とは遠縁なので知り合う程度だったと母は答える。しかし祖母は、富子の父親は飲んだくれだったと非難する。

 

川に遊びにいった富子は父と一緒に川遊びに来ていた信子と出会う。信子が足を怪我したので富子が母を呼びに行き、富子の母が薬を持って駆けつけて信子の父と出会う。後日、信子の父は妻に内緒でお礼に富子に人形を送る。富子は受け取るかどうか悩んでいたが、富子の祖母がいいのではないかというので一旦受け取るも、しかし富子の母は困っている風なので富子は信子の家に人形を返しに行く。折しも、信子の父に召集令状が来て一時帰宅していた。そこへ人形のことを聞いた信子の母が戻って来て夫を責める。信子の父は、妻に、これまでの妻の色々は子供によくないことになっていると説得、妻も納得して涙する。

 

信子は再び富子のところへ人形を持って行ったと聞いたので、お詫びがてら信子の母も後を追いかける。カットが変わると二つの家族が一つになって信子の父の出征を見送る姿で映画は幕を閉じる。

 

大人の下世話な考えがいつのまにか純粋な子供心に影を落としてしまう些細な物語をシンプルな演出で見事に描き切る手腕は本当に恐ろしいほどに素晴らしい。成瀬巳喜男の真骨頂の一端を見たような気がする傑作だった。

 

 

「はたらく一家」

かつて日本はこんなに貧しかった。その現実を直視しながら、時代の変化、若者たちの考えの変化をシンプルな物語に凝縮させていくストーリーが素直に胸に迫って来ます。映像テクニックの秀逸さはそれほど目立たないけれど、生身の人間の苦悩と力強い生き様を感じ取れる良質の一本でした。監督は成瀬巳喜男

 

子沢山で貧しい一つの家族の朝食の場面から映画は幕を開ける。小学校の頃から日銭を稼いでは家計を助けて来た長男が、このままでは将来がないから五年間暇を欲しいと父親に談判するところから物語は始まる。しかし、一人の収入が滞っただけで家族は路頭に迷う可能性があり、母親は大反対する。決して遊び半分の話でもなく真面目に将来を語る長男の姿に父としてはなんとか答えたいと苦悩し始める。弟たちも、兄の決意を応援する一方で自分も後に続きたいと将来の夢を語る。父は思い余って学校の担任に相談、担任が家にやって来て家族それぞれの意見を聞く。父は自由にすればいいと決意し、担任と長男は雨の中外へ出て、それぞれの思いを決心したような姿で映画は終わる。

 

シンプルな物語にメッセージを凝縮させた一本という感じで、成瀬巳喜男作品の中では上位に位置しないものの、感じるものがある映画だった。

 

「乙女ごゝろ三人姉妹」

PCL作品だからというわけではないが、かなり荒っぽい脚本で、前半と後半が完全に分離しているし、ラストに至ってはこれまでの流れをほとんど無視したというか無理やり収めたというエンディングで、呆気にとられてしまった。監督は成瀬巳喜男ですが、だからと言ってどれも名作ではないと言える一本でした。

 

門付といういわゆる流しの三味線弾きの三人の姉妹、長女は悪い仲間と関係を持った末に一人の男性とこの家を出て行ったままで、今は次女が筆頭で面倒を見ている。末の娘はダンサーをしているが、母はあえて家業の門付を無理強いせずに自由に過ごさせている。そんな末娘は、恋人ができたらしいという噂も聞いて次女はなんとか応援したいと考えていた。

 

ある日、長女が恋人と出て来ているというのを聞く。肺病を患っている恋人と青森へ立つというので、最後に末娘と次女は見送りに行くと約束する。ところが長女のチンピラ仲間が末娘の恋人をゆすろうと画策、長女にその片棒を担がせる。たまたまそに現場を見た次女が割って入ってチンピラに刺されてしまう。次女は末娘の恋人に末娘を迎えにいかせ、自分は駅へ長女を見送りに行く。長女は、まさか自分が末娘の恋人をゆする手助けをしたことも知らず青森へ旅立って行き、次女は駅で息絶えて映画は終わる。

 

前半の門付で貧しい生活をする姉妹の悲哀ドラマが中盤から後半で完全に転換して末娘と長女を絡めたサスペンスに変化し、次女の命をかけた行いで締めくくるという大団円へつながるという荒っぽいエンディングに至る。成瀬巳喜男独特の省略の美学がかえって物語を荒っぽい展開にしてしまった感じの、正直雑な一本だった。