「旅役者」
軽快なドタバタコメディという一本で、馬の足を演じる旅役者を主人公に微笑ましいほどの人情味あふれる展開が心地よい映画だった。監督は成瀬巳喜男。
山間の村に、六代目菊五郎という名を提げて旅役者の一団がやってくるところから映画は幕を開ける。六代目と言っても有名な尾上菊五郎ではなく中村菊五郎。村の人たちは呆れるものの、それはそれで楽しんでいた。
この一座に、馬の前足と後ろ足を演じる役者がいた。この道十年という前足を演じる兵六は、馬の足に信念を持って演じていた。この旅役者を呼ぶにあたり、その世話人を頼まれていた床屋の主人は、やってきたのが尾上菊五郎ではなく中村菊五郎と聞いて臍を曲げ、歓迎の宴でしこたま飲んで、馬の頭を壊してしまう。兵六らは料亭の女中たちに馬演技の談義を話して聞かせる。
なんとか繕ったものの狐のような顔になったことで兵六はすっかり怒って馬を演じることを拒否、困った座長はこの村に飼われている曲馬団の本物の馬を使うことにする。ところがその芝居が評判を呼び、今後もこの馬を使うことにし、兵六に馬の世話をさせることにした。兵六らの芝居を楽しみにしていた料亭の女中二人は、管を巻いている兵六らのところにやってくる。兵六は自分の芝居を見せてやると、馬の被り物をかぶり後ろ足の男と馬を演じる。そして本物の馬の馬屋へ行き、馬を追い出してその後を追いかけていって映画は終わる。
なんとも剽軽な一本で、たわいない展開ながら、終始にんまりが止むことがないほど気楽な娯楽映画に仕上がっている。決して大傑作と言わないまでも、こういう微笑ましい映画は見ていて気持ちがいい。物語の展開もテンポいいし、楽しいひと時を過ごせた気分です。