「JOIKA 美と狂気のバレリーナ」
全編、緊張と狂気の世界、ピンと糸が張り詰めたままのような作品だった。実話をもとにしているとは言え、芸術の裏側の政治的な世界を描きながら主人公のバレエにかける生き様をぐいぐいとスクリーンからぶつけてくるような迫力で描いていく様は圧巻。オープニングの華麗な舞台シーンから一気に本編へ傾れ込んでいき、あとはラストまで観客の視線を釘付けにしてしまう。決して傑作というよな絵作りではないのですが、恐ろしい鬼気迫る作品に仕上がっていました。監督はジェームズ・ネイピア・ロバートソン。
真っ赤なバックの前で回る一人のバレエダンサーの場面から、チュチュを着た幼い少女がバレエに勤しむ姿の後タイトル。主人公ジョイは、ボリショイバレエ団に入団する夢に向けてバレエアカデミーに入学することに成功する。しかしそこでは、誰もが認める一人のダンサーナターシャがいた。ヴォルコワ先生の元、厳しい練習が続くがライバルの妨害もあった。しかし、男子部のニコライと知り合い、ダンサーとして成功するためには指導者に気に入られることが第一だとアドバイスを受ける。
ジョイは、脇目もふらずヴォルコワに取り入って、ボリショイバレエ団へのコンクール参加の切符を手に入れる。ヴォルコワもジョイの実力を認め、ボリショイバレエ団への推挙を進める。ところが最後の最後、ジョイは選考から落ちてしまう。原因は、彼女がアメリカ人という事だけだった。ボリショイバレエ団はロシア人しか認めていなかった。諦めきれないジョイはニコライに求婚し、結婚する事でロシア人になることを決める。そんなジョイの思いにニコライは答えてくれたが、愛はなかった。
ボリショイバレエ団に入団して稽古を重ねるジョイだったが。一年たってもソロダンサーとして認められることはなかった。ジョイは芸術監督に近づき、政治的に自身を売り込もうとする。芸術監督は、高級クラブにジョイを誘い、大金を手渡しさりげなく体の関係を迫るが、すんでのところでジョイは芸術監督の要望を断って金を返してしまう。即日、ジョイはボリショイバレエ団を首になってしまう。そんな彼女にアメリカのジャーナリストから取材の申し出が来たとニコライから聞く。ところがその取材の後、新聞に載ったのは、ボリショイバレエ団を裏切ったダンサーという肩書きだった。全てニコライが自身の地位を守るべく画策したものだった。
ジョイは、掃除婦として生計を立てながらモスクワで暮らすが、ある日、ヴォルコワが現れる。彼女もまたジョイの影響でボリショイバレエ団のディレクターの地位を失っていた。しかし、きたるバレエコンクールで予定していた男子ダンサーの相手役が骨折し、代役を探しているという。そして、ジョイにそのチャンスが与えられる。やがてコンクールの日、会場にはボリショイバレエ団の芸術監督やニコライの姿に混じって母も来ていた。
気負い込んでステージで踊り出したジョイだが、着地で足を挫いてしまう。このまま踊ると後遺症が残ると医師に言われたが、ステージこそが自身の居場所だと考えるジョイは、無理をして最後まで踊り大喝采を浴びる。コンクールは銀賞だったが、のちにプリマとしての地位を得たとテロップが出る。そしてボリショイバレエ団で二度と踊ることはなかったとテロップの後映画は終わる。
バレエシーンの良し悪しは素人なのでわからないけれど、シーンの緊張感は半端なく迫ってくるし、バレエにかける一人の人間のドラマとしては見応え十分は力作だった気がします。面白いという感想は当てはまりませんが、いい映画だったと思います。
「花まんま」
映画作品としてはテレビドラマレベルの仕上がりの映画でした。原作が直木賞受賞なので、物語としてはまとまっているのですが、映画脚本として仕上がっていない。関西弁のドライな笑いが全く生きていないしテンポが悪い。酒向芳だけが役者として光っているのですがいかんせん、周りが盛り上げ切らない。とは言っても、こういう素直に泣ける作品を娯楽として楽しむのも映画の面白さだと思います。監督は前田哲。
二人兄妹の兄俊樹と妹フミ子。フミ子の結婚が決まり、挙式を待つだけになっている。幼い頃に両親を亡くし、俊樹がフミ子を育ててきた。フミ子の婚約者で大学の助教授の太郎もいい人で順風満帆であるかに思われたが、フミ子は太郎にある告白をする。挙式が二日後に迫った日、フミ子が行方不明になる。実は俊樹らが幼い頃、フミ子に突然喜代美という女性の記憶が宿る。喜代美はバスガイドをしていて、暴漢から乗客を守って亡くなった女性だった。フミ子が生まれる夜、喜代美が救急車で同じ病院に担ぎ込まれたのだ。
幼いフミ子は俊樹に頼んで、喜代美の実家繁田家を訪ねたいと言い出す。俊樹たちは母に内緒で彦根にある繁田の家を訪ねるが、俊樹はフミ子に、決して直接会ってはいけないと約束させる。フミ子はその約束を守る代わり、俊樹にあるものを託す。それはツツジの花で作った弁当箱「花まんま」だった。喜代美が幼い頃、父仁に作っていたもので、仁は喜代美が死んだ時に呑気に天ぷらうどんを食べていたことが悔しくて食事をろくにとっていないのだった。仁は俊樹に託された花まんまを見て喜代美の存在を感じ、喜代美の兄宏一、姉房枝と俊樹たちが帰りの駅でフミ子に会う。
その後、フミ子は仁と文通をしていたが俊樹には内緒だった。俊樹は会社の車を借りて太郎と彦根へ向かい、そこでフミ子が来たことを知る。フミ子は自分の結婚式に仁達を招待しようとしたが断られたのだ。やって来た俊樹にその旨を話すも俊樹は招待には反対する。結婚式を翌日に控えた夜、俊樹は行きつけの駒子の店で飲むが、酔って寝込んで夢をみる。俊樹の両親が喜代美と一緒に現れ、娘の結婚式に出たいと思うのは、親ならみな同じだと語る。
結婚式当日、俊樹は彦根へ向かい仁達を連れて式場へ戻ってくる。そして仁がフミ子とバージンロードを歩き挙式は終わるが、帰り際の仁にフミ子は「どちらから来られましたか」と聞く。すでにフミ子の心から喜代美は消えていた。寂しい思いをして列車で帰る仁だったが、房枝が引き出物を開くと、花まんまが包まれていた。こうして映画は終わる。
所々に挿入される関西ギャグの遊びがそれほど効果を生んでいないし、クライマックス、俊樹のスピーチも今ひとつ迫力が足りないのは実にもったいない。仁の表情などだけが映画を引き立てた感じの仕上がりで、作品の出来栄えは普通ではありましたが、これはこれで娯楽映画としては楽しめる一本だったと思います。