くらのすけの映画日記

大阪の社会人サークル「映画マニアの映画倶楽部シネマラムール」管理人の映画鑑賞日記です。 あくまで忘備録としての個人BLOGであり、見た直後の感想を書き込んでいるので、ラストシーンまで書いています。ご了承ください

映画感想「八甲田山」「ノスフェラトゥ」(ロバート・エガース監督版)

八甲田山

初公開以来なのでほぼ五十年ぶり。初見の時も思ったが、全編吹雪だけの映画という印象は今回も変わらなかったものの、これだけの大作に仕上げている脚本の見事さはこの歳になって納得の映画だと思った。本編へ一気に傾れ込んで、群像劇として極寒の映像でぐいぐいと牽引していき、クライマックス一気に人間ドラマで締めくくる筆致は流石に上手い。こういう大作らしい大作が減ったのは、映画産業に余裕がなくなった以上に役者層の希薄さゆえだろうと思う。名作と呼んでもいい一本だった。監督は森谷司郎

 

明治末期、日露戦争が現実味を帯びてきた時代、軍部は来るロシアとの対戦に備えて、極寒での戦闘の経験をするべく八甲田山への行軍訓練を計画しているところから映画は幕を開ける。そして三十一連隊の徳島大尉、五連隊の神田大尉の二隊に候補が挙げられるが、上層部の責任を回避するために命令という形ではなかった。とは言え、軍部の意向を汲まざるを得ない立場の中、徳島大尉と神田大尉は、八甲田山への行軍の準備を進め始める。

 

徳島大尉らは、少数精鋭で踏破を計画、神田大尉らもその方向で準備を進めていたが、上官である山田少佐によって大隊による踏破という無謀な計画に書き換えられてしまう。やがて、徳島大尉らは八甲田山行軍に進むべく遠回りにその麓を目指して出発する。直接八甲田山を目指す神田大尉らも出発するが、二百名を超える大隊になっていた。案内人の申し出も山田少佐が強引に断り、威信だけで行軍を始めるが間も無くして、吹雪と先の見えない雪景色の中、道に迷ってしまう。さらに、一旦は行軍を辞めて帰投することを検討したにも関わらず、少し好転すると行軍に切り替えるという方向の中みるみる混乱をきたし次々と隊員は命を落としていく。

 

その頃徳島大尉らも八甲田山の麓に着いていた。しかし神田大尉の状況がわからない中、八甲田山へと突入する。本部では神田大尉らの隊はほぼ全滅と報告を受け、徳島大尉らへの行軍中止を伝令したくとも吹雪で方法がなかった。徳島大尉は八甲田山に突入し、そこで、神田大尉らの隊員の無惨な姿を発見、さらに神田大尉の遺体も発見してしまう。

 

なんとか行軍を遂行し戻ってきた徳島大尉らの前に、神田大尉らの遺体を収容した本部の士官らが出迎える。徳島大尉は、案内人の村人達に八甲田山で見たことは口外しないようにと口止めを徹底する。山田少佐は助かったものの、責任を感じて自害、この行軍で生き残った隊員らは日露戦争で全員戦死した旨のテロップがかぶる。時が流れ、一人単独で神田大尉の元を抜けて帰投した村山伍長は、八甲田山に設置されたロープウェイに乗り、かつてを思い起こして映画は終わる。

 

非常にシンプルな筋立ての作品ですが、穏やかな頃の八甲田山のカットを巧みに挿入しながら、クライマックスにねぶた祭りの華やかな映像を組み入れることで、悲劇を増幅させる脚本構成も実によくできている。群像劇だが役者層が分厚かったために、小さなエピソードが実に深みを生み出しているのもいい。こういう大作はもう作られることは無理なのではないかと思う。

 

 

ノスフェラトゥ

徹底的に凝った映像と演出で描くゴシックホラーという一本。基本的なストーリー展開はオリジナリ通りですが、今風なグロテスクな描写は、吸血鬼映画のロマンを通り越して、必要以上のリアリティを求めただけにしか見えないのはちょっと寂しい。とは言っても、この手の映画は好きなジャンルなので後悔はなかった。面白かった。監督はロバート・エガース。

 

エレンの顔のアップ、恐怖に僻む仕草、魔物に襲われるショットから、全てが悪夢であったオープニングから映画は幕を開ける。愛する夫トーマスは、クレッグ不動産会社に就職も決まり、順風満帆に見えていた。この日、トーマスは初出勤でクレッグ不動産にやってくる。社長のクレッグは、辺境の城に住むオリロック伯爵が、当地で邸宅を探していると聞き物件を紹介し、その契約に伯爵の住む城に向かうようにトーマスに依頼する。いきなり一月以上の旅になるとエレンに伝え、エレンは難色を示すも、出世が約束されているということで渋々送り出す。エレンの友人のアンナもその夫フリードリッヒもエレンの支えになることを約束する。

 

実はクレッグは、ある魔物の僕で、魔物を呼び寄せるために当地で準備を進めていた。魔物とはオリロック伯爵のことで、オリロック伯爵は、実は吸血鬼ノスフェラトゥだった。そんなことも知らずオリロック伯爵の城にやってきたトーマスは、奇妙な悪夢にうなされ、野犬に襲われて城から海に落下してしまう。トーマスが行方不明になり、不安なエレンだったが、夕方になると引きつけるような発作を起こすようになる。

 

心配したフリードリヒは、医師のジーフェルスの恩師でオカルト研究の大家フォン・フランツ教授に相談する。その頃、オリロック伯爵の体は土に埋められて船に乗せられ、エレンの住む街に向かっていた。船内ではペストが流行り始め、切れた船長がオリロック伯爵の荷物を壊そうとしたが、中から現れた魔物に噛み殺されてしまう。やがて、エレンの住む街に着いた船からは大量のネズミが現れる。

 

間も無くしてトーマスは瀕死の姿でエレンのところに戻ってくる。クレッグはオリロック伯爵の僕だと告げるがクレッグは留置場から逃亡してしまう。一人眠るエレンのところにノスフェラトゥが現れ、三日の間、エレンの愛する人を犠牲にしながらエレンの元に現れると約束する。そして第一夜、アンナが襲われ、第二夜アンナの娘二人が殺されてアンナも命を引き取る。フォン・フランツ教授らはジーフェルスやトーマスとノスフェラトゥの邸宅を襲うが時すでに遅くノスフェラトゥはエレンの元に現れていた。

 

エレンは自分を犠牲にしてノスフェラトゥを夜明けの鶏の第一声まで引き止める覚悟を決めてノスフェラトゥに身を任せる。やがてエレンを愛したノスフェラトゥは、夜明けの声に気が付かず、太陽の光で命を失うが、エレンもまた、駆けつけたトーマスの前で死んでしまう。こうして映画は終わる。

 

一つ一つの画面が非常に絵画的で美しいし、モノクロに近い色調に抑えた映像も恐怖感を煽る。物語はロマンティックで物悲しさが漂うのだが、少々殺戮シーンがグロテスクなので、物悲しさより嫌悪感の方がすぐる場面があるのはちょっと勿体無い気もします。でもなかなかのクオリティの一本でした。