「ガール・ウィズ・ニードル」
モノクロスタンダード画面で、まるでホラー映画のような映像で描いていくのですが、実話とは言え、ホラーのような話なのでそれも納得。暗くて悲惨そのものの物語を切々と訴えかけるように展開していくストーリーは見ていて辛くしんどくなってきます。そんな展開を終盤まで徹底して、ラストでスカッと希望を見せるエンディングは、微かな救いになって良かった。監督はマグヌス・フォン・ホーン。
歪んだり笑ったりしているさまざまな顔のアップの映像、そして場面が変わると、第一次大戦後のデンマーク、コペンハーゲン、安アパートの階段を家主が上がってきて一軒の部屋にやってくる。出てきたのはカロリーヌという女性、家賃の滞納で家主に追い出されて映画は幕を開ける。
行き場のないカロリーヌは、寂れた部屋に移り、縫製工場で働くことにする。その工場の社長ヤアアンと親しくなるが、突然戦地に行った夫が無惨な顔になって帰ってくる。しかしカロリーヌはヤアアンとの幸せを捨てたくなくて、夫を追い返す。カロリーヌはやがて妊娠し、結婚を迫るとヤアアンはあっさり受け入れてくれたものの、義母の反対でカロリーヌは捨てられてしまう。公衆浴場で、裁縫の針を自身に突き刺して堕胎を図るも遂げられず、居合わせたダウマという女性に助けられる。ダウマは表向きは砂糖菓子の店を営んでいたが、実は行き場のない赤ん坊を引き取って養子縁組を仲介している仕事をしていた。
カロリーヌは、サーカスを見に行き、そこで顔の半分壊れた青年と知り合ってしばらく同棲、やがて子供を出産する。その青年は子供を手放さないようにというがカロリーヌはダウマの元を訪れ赤ん坊を預ける。そしてカロリーヌはダウマの元で乳母として仕事をするようになる。ダウマの家にはイレーヌという9歳の少女も同居していた。
カロリーヌはダウマの店に預けにくる赤ん坊にしばらく乳を飲ませ、イレーヌにも乳を飲ませて生活を始める。次第にイレーヌとカロリーヌは心が通じ合い始める。ある時、母親が産んだ赤ん坊を娘が預けにきたのをカロリーヌが受け入れ、その赤ん坊に親しみを抱いてしまう。そんなカロリーヌの気持ちを無視するようにダウマはその赤ん坊の養子縁組を決めてしまう。諦め切れないカロリーヌは、養子縁組先を突き止めようとダウマの後をつけたが、なんとダウマはその赤ん坊を殺して路地の下水に捨てているのを目撃してしまう。養子縁組の仲介というのは嘘だった。
直後、赤ん坊を預けた母親が、気が変わったと赤ん坊を取り戻しにきたがダウマは応じず、警察が踏み込んでくる。一方、ショックを受けたカロリーヌはダウマのアパートの窓から飛び降りてしまう。ダウマは逮捕され、イレーヌは孤児院に入れられてしまう。カロリーヌは奇跡的に助かり、かつてのサーカスに居場所を求めてやってくる。後日、カロリーヌは孤児院に預けられているイレーヌを養子として迎える手続きをする。孤児院で、イレーヌはカロリーヌと再会し、抱き合って映画は終わる。
寒々とした映像演出で描く物語なので、とにかくホラー映画を見ている風な感覚に囚われてしまう。金をもらって赤ん坊を引き受け、赤ん坊を殺しては生活する一人の狂気の女と彼女に関わった主人公の心の変化を描いた意味で、ちょっとした作品だと思いますが、いかんせん陰惨な空気の一本だった。
「金子差入店」
全く期待していなかったが、いつの間にかグイグイと引き込まれ、ラストは胸が熱くなる感動を覚えていました。前半は、いかにも仰々しい展開に少し引き気味だったけれど、傍に配置した役者たちが実に良くて、次第に物語に厚みが備わってきて、冒頭のシーンが次第に回収されてくる展開も上手く、特に岸谷五朗は圧巻の演技だった。掘り出し物の一本でした。監督は古川豪。
生まれたばかりの赤ん坊を抱き、美和子がたくさんの荷物を持って収監されている夫の面会に向かうところから映画は幕を開ける。夫の金子真司は、暴行罪で逮捕されているらしいが、滅多に顔を出さないと美和子に悪態をつく。そんな真司に背を向けて美和子は出ていくが、真司は、弱音を吐いてしまう。
場面が変わると、刑務所に差し入れの代行をしている星田は、見習いで、親戚の真司を連れてこの日、面会の仕事に来ていた。そして仕事を終えた真司に、あとは任せたとさっさと帰ってしまう。真司は一人で雨の中かけ始めるが、そこで、今出所してきたばかりの横川とすれ違う。後日、その横川は強盗殺人で逮捕されたというニュースを見る。
真司には一人息子和真がいた。和真には幼馴染のカレンという友達がいたが、ある日行方不明になる。そして間も無くしてカレンは殺害されて発見される。犯人は小島高史という青年で、逮捕される。高史の母こず江は真司の店に差し入れ代行を頼みに来る。複雑な思いで高史に面会に行った真司は、高史の異常ぶりを目の当たりにしてやるせ無い気持ちになる。
真司が面会に行くといつも一人の女子高生がいた。その女子高生は二宮佐知と言って横川に母を殺された少女で、横川に面会を求めてきていたが拒否されていた。横川の事件を真司の知り合いの弁護士久保木から、強盗殺人の裏にある出来事を真司は聞かされる。実は佐知の母は、自宅売春をしていて娘の佐知にも強要していたという。しかし表立って情報を公開できず苦しんでいるのだという。
その頃、和真が学校でいじめられているのを真司が知る。前科者であり、犯罪者に差し入れをする仕事をしている父親に絡めてのいじめのようで、真司はついキレて学校に駆け込んで担任に暴力を振るわんとしてしまう。慌てて駆けつけた美和子に説得され、真司も反省し、和真に謝るが、和真は自分こそ悪かったと真司にしがみつく。
和真との事で何かを感じた真司は、佐知の思いを叶えるために、佐知をバイトに雇い、横川に面談させる段取りを組んでやる。刑務官は最初は断ったが、真司がこれまで刑務官に賄賂を使ってきたことで脅し、無理やり面会を認めさせる。面会に行く前日、真司は佐知に真実を聞く。実は横川は佐知のために母を殺したのだ。さらに、まだ息があった母にトドメを刺したのは自分だと告白する。
横川に面会に来た真司と佐知だが、横川は最初は拒否する。言葉が話せないということになっている佐知は、筆談で、自分は元気だと横川に伝える。そして、横川のことも気遣い、最後に待っているからと書く。横川はたまらない表情でその場に崩れる。後日、真司は高史を訪ね、その帰り、そっけない態度で追い返したは母親にイチゴを届ける。真司の中で何かが変わっていた。そしてまた日常が戻って来る。こうして映画は終わる。
真司の母親がどうしようもない女だったり、高史の母親のキャラクターが極端だったり。ちょっとエピソードがてんこ盛りすぎた気もしますが、展開の構成はよくできていて感動してしまいました。ベタだと言えばそれまでですが、個人的には好きな作品です。