「あなたを呼ぶ声」
「おかあさん」という一話完結のテレビドラマシリーズの一本。脚本が大島渚だけあって、妙に辛辣なところが見え隠れするドラマでした。実相寺昭雄監督
一人の女性が街で少年から「おかあさん」と声をかけられるところから物語は始まる。聞いてみるとその少年は、母が幼い頃に亡くなり、父は飲んだくれ、妹は言葉を喋れない不幸な境遇だという。女はわずかのお金を渡して別れるが、帰ってみると少年がついてやってくる。女は夫に、妊娠したことを告げ、やってきた男の子に優しくしてレコードを聞かせて一晩泊めてやるが、翌朝、男の子はいなかった。女は少年の家を探して尋ねると、唖の母親だけで、他は全て騙されていたことを知る。ショックで流産し、夫に優しい言葉をかけてもらうが、生涯忘れられないと嘆く女の姿で終わる。
あまりに辛辣ながら、非常に大人のドラマに仕上がっている。この時代のテレビドラマのクオリティの高さが際立つ一本だった。
「生きる」
同じく「おかあさん」の一本。脚本石堂淑朗で、コミカルな中にどこか世相が反映しているから上手い。監督は実相寺昭雄。
妾ばかりが住んでいるアパート、一人の男は隣に住む妾の女と話を始めて物語は始まる。妾の女の母は、娘を妾にするべく一生懸命育て、そのおかげで普通の生活をしているのだという。そんな女に男は毒付くものの、これが現実だからとしゃあしゃあと妾の女の母は話す。ヒモの男や、妙なアパートの住民をコミカルに描いていく。
縦横無尽に動き回るカメラがなかなか面白い一本だった。
「トレンケ・ラウケン」(第一部)
不思議なリズム感で淡々と進む映像と交錯するストーリー、どこかクセになるようなオリジナリティのある映画だった。監督はラウラ・シタレラ。
アルゼンチン、トレンケ・ラウケンの街、一人の女性ラウラが行方不明になり、恋人のラファエルと同僚のチーチョが探している場面から映画は幕を開ける。ラファエルがあちこちに電話をして、彼女の手がかりを探す中、ラウラに車も取られてしまったチーチョは、ラファエルの車で、ラファエルが聞き込みをしている姿を見て待っている。ふと、戻ってきたチーチョの車のワイパーに挟まれていたメモを見つけ、そのメモを見ると、ラウラが「さよならさよなら、またねまたね」と書かれていたが、チーチョはラファエルにそれを見せない。チーチョもまたラウラを恋していた。
かつて、チーチョはラウラがある本の中で見つけたラブレターのことを話していた過去を回想する。ラウラは、カルメン・スーナという女性が恋人パウロと交わしていたラブレターが図書館の本のあるページに糊付けされているのを見つけ、他の本にも隠されているのではないかと、たくさんの本を借りて、背表紙などから手紙を見つけていく。そして、その手紙のやり取りを読むうち、カルメンがパウロの元を去ったらしいことを知る。カルメンの素性がわからない中、チーチョもまた、カルメンを調べ、小学校の教師だったことを突き止める、
映画は、チーチョの回想場面と、ラファエルと一緒にラウラを探す現代が交錯して展開していく。ラファエルは一人ラウラを探しに行き、チーチョは自身の車でラウラを探しにいくくだりで第一部は終わる。
「トレンケ・ラウケン」(第二部)
第二部は、行方不明になったラウラの行動を中心に、いわゆる真相を描く形になる。トレンケ・ラウケンのラジオ放送番組「ニュースの海」に出演しているラウラの姿から映画は幕を開ける。植物学者としてこの地にやってきたラウラは、到着した当日、一人の女性エリサと出会う。そして、ある種を示して探して欲しいと依頼する。ラウラは、たまたまその種から咲いた黄色い花を見つけて、エリサに連絡する。折しも、トレンケ・ラウケンの湖で謎の生物が捕獲され、医師でもあるエリサが解明に指名されるが、それがワニらしいとわかって辞退したという新聞記事が映される。
ラジオ局のキャスターフリアナは、チーチョに、ラウラが失踪する前に録音したものがあるからスタジオに来て欲しいという。チーチョがスタジオに行くとヘッドフォンを示され、フリアナは、ラウラの声を再生していく。ラウラはエリサから連絡をもらい、採取した花を持ってエリサの家に行った。エリサは母親と暮らしていて、自宅の片付けを手伝うのにしばらく逗留して欲しいという。
ラウラは、エリサの家でしばらく過ごすが、寝室の二階では、毎夜何やら作業が行われていた。農園の隅には、ある植物を培養しているらしい器具なども発見するがエリサにはな話さなかった。やがて、自宅に戻ったラウラだが、エリサから電話が入る。研究している場所が見つかったので。この地を離れなければいけない。車と食料を調達して至急きて欲しいということだった。
ラウラはチーチョに車を借りてエリサの家に行き、指示された通り、窓から中に入って二階へ行くと、巨大な植物を育てている施設を発見する。その一つを持ち帰り、そのまま車でエリサの家を離れる。エリサから電話が入り、計画は失敗したがこの地を離れるからということだった。ラウラはチーチョに借りた車をガソリンスタンドに預け、そのまま放浪していく。かなたに、エリサが言っていた植物が巨大になっているカットが映されて映画は終わる。
前半のラブレターのエピソードは後半には全く登場せず、あれよあれよと話が大きく変化していく。まるで「ツィンピークス」を思わせるような展開と、独特のリズムのBGMが不思議な空気感を生み出して、何の話しだったのかと疑問が残る一方、もう一回見てみたくなる魅力も備えた映画だった。