くらのすけの映画日記

大阪の社会人サークル「映画マニアの映画倶楽部シネマラムール」管理人の映画鑑賞日記です。 あくまで忘備録としての個人BLOGであり、見た直後の感想を書き込んでいるので、ラストシーンまで書いています。ご了承ください

映画感想「罪人たち」

「罪人たち」

これは傑作だった。ヴァンパイア映画ではあるけれど、縦横無尽なカメラワークと自由な映像表現は、ヴァンパイア映画のさらにワンランク上をいくメッセージを見せつけてくる。1932年という時代設定、KKK団の存在、極端な黒人差別の時代の描写、そして、ブルースを多用した音楽表現の空気感、そのどれもが、ありきたりなホラー映画の域を超えてしまった。しかも、ヒューマンドラマの匂いもしっかり語りかけてくるからすごい。監督はライアン・クーグラー

 

音楽が様々な魔物を引き寄せてくるというようなナレーションの後、一台の車に乗ったサミーが真っ白な教会にやってくる。中で説教をしている司祭は彼の父親である。サミーが手に持っているのは折れたギター、顔には引っ掻き傷が残っている。父はサミーを抱きしめ、どこへも行かず、明日はここで手伝うようにと説得するが、サミーはこの地を出ていくという。

 

カットが変わると、一日前、スモークとスタックの双子の男たちがシカゴからこの街に戻ってくる。彼らはシカゴでカポネの下で働いていたらしく、大金を手に入れ、この地で酒場を開店するべく、この日、白人の所有する製材所を買いにやってきた。兄のスモークと弟のスタックは即金で白人に金を見せつけてその場で買ってしまう。

 

スタックはサミーを迎えにいく。スタックたちとサミーは従兄弟同士だった。スタックはサミーにギターを与え、車の中で歌を歌うように促す。サミーの歌声にスタックは絶賛して喜ぶ。スタックは、街へ行き、かつての仲間、歌手のデルタ・スリム、綿花畑で働くコーンブレッドらを誘う。街でサミーは一人の黒人女性パーリンと出会い惹かれる。さらにスタックはかつての愛人で白人のメアリーと再会する。中国人ボーが経営する店で材料を仕入れ、ボーの妻グレースに看板の準備をさせる。

 

一方、スモークは、妻アニーのところを訪れる。二人の間に子供がいたようだが庭に墓がある。スモークはアニーに、今夜開店する酒場で料理を作って欲しいと頼む。アニーは呪術師でもあった。農園の真ん中の一軒の白人の家に一人の男が瀕死の状態で駆け込んでくる。先住民に追われているから助けてほしいと言う。一旦は銃で追い払おうとするが、金貨を見せられてその家の妻と夫は彼を招き入れる。彼の名はレミックといった。続いて先住民がやってくるが、妻は銃で追い払おうとする。先住民は、レミックは普通に見えるが、気をつけるようにといって立ち去る。妻が二階へ上がると夫はレミックに噛み殺され、しかも生き返っていた。

 

スモークとスタックは、酒場を開店させ、次々と客が訪れていた。白人のメアリーもやってくる。スリムのピアノに客は踊り狂い、サミーのギターと歌声が聴こえると、会場は時代を超えたダンスやエレキが舞い、天井が炎に包まれるほどに盛り上がっていく。ところが、そこに、呼び寄せられるようにレミックたちがやってきた。

 

入り口で見張りをしていたコーンブレッドは、スモークたちを呼び、白人であるレミックたちを追い返す。しかし、店で金を払うのはこの地でしか通用しない貨幣を持ってくる黒人ばかりで、すぐに店は潰れてしまうだろうとスモークは考えていた。メアリーは、レミック達白人を入れれば金が手に入るだろうから、悪意があるかどうか、白人でもある自分が確かめてくると店の外に出る。

 

店の外ではレミック達が歌を歌っていた。レミックはメアリーに金貨を渡す。メアリーは、店に戻ろうとするが、レミックがメアリーに襲いかかる。店の入り口ではコーンブレッドが、小便をしたいからとスリムに入り口の番を代わってもらい、暗闇に用を足しに行った。店に戻ったメアリーは、スタック達に金貨を見せる。メアリーはスタックを誘い、部屋に入って抱き合う。スモークがサミーに、スタックを呼びに行かせたが、サミーが扉を開けると、スタックとメアリーはSEXしている最中で、扉を閉めてしまう。しかし、スモークが再度その部屋に行くと、メアリーはスタックを噛み殺した後だった。

 

スモーク達はメアリー追い出す。スモーク達はスタックに駆け寄るがすでに息がなかった。アニーの助言で部屋に鍵をかけるが、そこへ用を足したコーンブレッドが戻ってくる。店に入れてくれと言うが、スモークたちが躊躇すると、コーンブレッドもヴァンパイアにされていて入れないことがわかる。ボーはグレースと店に帰ることにして車を取りに店を出るが、戻ってきたら、すでにヴァンパイアになっていた。

 

閉じ込められていたスタックが扉を破って出てきたので、アニーはニンニクをかけて追い払う。外ではレミック達ヴァンパイアが店を襲わんと歌い踊っていた。レミックは、スモークに、この製材所を売った男はKKK団のリーダーだから、いずれこの店は襲われると告げるが、スモーク達はレミック達を受け入れなかった。

 

店に娘を一人残してきたグレースは、なんとか店に戻ろうとするが、スモーク達に止められる。ヴァンパイアを迎え撃つため、ニンニクを食べて自分たちはヴァンパイアではないことを確認し、木の杭を準備する。半狂乱になったグレースは、とうとう、来るなら来てみろとヴァンパイアを招き入れてしまう。

 

レミック達は、酒場に一気に襲いかかり、スモークらは、必死で応戦、店内は大乱闘となる。アニーもヴァンパイアに噛まれてしまい、スモークに、木の杭を突き刺すようにと頼む。スモークやスリムはサミーを裏口から逃すべく完全と立ち向かい、スリムは自ら犠牲になってヴァンパイアを食い止める。スモークは襲いかかってきたヴァンパイアのスタックと一騎打ちになり、最後の最後木の杭をスタックの胸に当てる。

 

裏口から飛び出したサミーにレミックが襲いかかる。そして最後の最後、ギターをレミックの頭に突き刺し、怯んだところでスモークが木の杭をレミックに突き立てる。やがて朝日がのぼり、群がってきたヴァンパイアはみな焼けてしまう。スモークはサミーに車を与えてこの場を去らせる。一方、スモークにはもう一つ仕事があった。しばらくすると、製材所を売った白人が仲間を連れて店にやってきた。しかし店は閉じられているので怪訝に思っていると、森から銃撃される。元軍人のスモークは、襲ってきた白人を次々と銃で撃ち殺し、製材所を売った白人も撃つが、自らも腹を撃たれてしまう。瀕死の白人にとどめを刺すスモークの傍に赤ん坊を抱いたアニーが現れる。スモークは赤ん坊を抱く。

 

場面が変わり冒頭のシーン、サミーは、教会を出て一人綿花畑の中を車で走っている。時が流れ1992年、ギターを弾きながら歌う年老いたサミーの姿があった。一人バーで飲んでいると二人の若者が来たと用心棒の男が言って来る。サミーが許可すると、若い黒人のカップルが入ってきてサミーの隣に座る。男はスタックだった。スモークは、スタックに杭を打てなかったが、助ける代わりにサミーに天寿をまっとうさせるようにと取引したのだと言う。スタックがサミーの匂いを嗅ぎ、余命あと僅かだと知って、スタック達は店を出ていく。エンドクレジットの後、若き日のサミーが教会でギターを弾きながら歌う姿で映画が終わる。

 

縦横無尽なカメラワーク、サミーが酒場で初めて歌うところで、傍にエレキギターを弾く男や、DJが現れたり、京劇を踊る人物が現れたり、さらに、店全体が炎に包まれて天井が崩れ落ちたりと、映像表現も多彩で見事。ヴァンパイア、白人、黒人、という異色の多人種で描く独特のヒューマンドラマという出立に呆気に取られてしまいます。サバイバルホラーというジャンルになっているとはいえ、映像作品としての仕上がりは素晴らしかった。