「F1/エフワン」
シンプルに面白かった。細かいカットで緊張感を生み出し引き込むオープニング、ローアングルで疾走するレーシングカーを捉える緊迫感、そしてさりげなく盛り込んでいく二人の男のヒューマンドラマ、それぞれがさりげなく絡み合って、ラストの大団円で感動させる構成も上手い。娯楽映画と言えばそれまでですが、エンタメとして仕上がった一級品の作品でした。楽しかった。監督はジョセフ・コシンスキー。
二十四時間レース、雇われドライバーの如くベッドで起き上がるソニーの姿から映画は幕を開ける。自分のドライバー場面になり一気にトップに立って次のドライバーに譲って車を降りる。チームは見事優勝、バーで飲んでいるソニーの前に、親友で一緒にレースに出ていたルーベンが声をかける。
ルーベンは自分のチームが成績が上がらず、間も無くチームを手放さざるを得なくなっている状況だから、助けてくれというものだった。ソニーは気に入らないまでも、まずはチームを見ようとやってくる。ルーベンのチームにはジョシュアという若いスター選手がいたが、ずっと入賞できないままだった。オーナーはこのチームを手放すことを考えていた。
ソニーは、レーシングカーを走らせてみて、その出来の悪さに唖然としながらも、チームに参加することにする。かなりの年配者のソニーに若いジョシュアは反発するが、ソニーはマイペースで、レースに参加、グレーな走りで少しづつチームの順位を上げていく。そんなソニーの姿にメカニックのケイトも次第に惹かれるようになり、周囲のスタッフも彼の走り様にのめり込んでいく。そして、次こそは優勝も見えてきたレースで、ソニーはジョシュアをトップに立てるべく細かい指示を送りながらレースを終盤に持っていくが、最後の最後ジョシュアが勝ちを急いだために大事故を起こしてしまう。
周囲がソニーを非難する中、その実力が認められチームの売却の話が盛り上がってくる。ソニーがレースに出ることができなくなった中、ピーターはソニーを含めてチームの売却と自身がトップに立つという計画をソニーに話す。やがてジョシュアが回復してレースに戻ってくる。
ソニーとジョシュアが久しぶりにレースに出るが、ジョシュアはソニーに過度なライバル心を持ち、チームのことを考えるソニーを執拗に排除するようなレースをしてソニーに怪我を負わせる。ルーベンも、ソニーが過去の大事故の後遺症で次に大きな事故を起こしたらまともに生きられないという診断結果を知り、レースに復帰することは諦めるように言う。
一方、ジョシュアは、大事故の時のシミュレーションを何度もやり直し、ソニーの判断が正しかったことを納得して、自分のこれまでの行動を控えて、ソニーを見習うようになっていく。そして最終戦、ソニーは、再度レースに参加、ジョシュアをサポートして、ジョシュアを優勝に導こうとするが、すんでのところでジョシュアがトップの車と接触、三位についていたソニーが念願のF1優勝の夢を叶える。そしてソニーはチームをジョシュアに託して去っていく。ソニーが新たなチャレンジでバギーのレースに参加する姿で映画は終わる。
単純に面白い娯楽映画です。それ以上でも以下でもないけれど、よく組み立てられている話で、安っぽい作りじゃないのはとっても面白かった。
「アスファルト・シティ」
命を救う救急隊員の苦悩を辛辣なシーンを連続させて描いていくヒューマンドラマ。流石にショーン・ペンも歳をとったもんだとちょっと悲しいが、映画自体は、薄っぺらな救急ドラマとは一歩踏み込んだ描写の数々に、映画でしか描けない重みが伝わってきて見応えのある作品だった。監督はジャン=ステファーヌ・ソベール。
若い救急隊員クロスの顔のアップから映画は幕を開ける。彼は救急車に乗っていて、これから現場に向かおうとしていた。新人で、まだまだもたついている彼のそばにベテランのラットが現れテキパキと処置を進めていく。救急救命隊員となったクロスはベテランのラットとペアを組むことになる。救急車の中で待機して無線の指示で現場に向かうのだが、犯罪や暴力が横行するハーレム地帯で、理不尽に罵倒されながらも救護活動をし、薬物中毒者や移民、ホームレスを救護する現場をこなしていく。しかし、そこにあるには、命を救う意味だった。
ある時、薬物依存の女性の早産したと言う要請で駆けつけた二人は、新生児の処置と、母親の救命処置の中、突然、職務停止を言い渡される。新生児の処置をしたラットは、新生児は亡くなったとクロスに伝えたが実は生きていたらしい。その件で二人は聴聞を受け、ラットは現場の職務を解除される。その後もクロスは別の相棒と仕事を続けるが、救命活動への疑問は募るばかりだった。
そんな時、あるビルの屋上から男が飛び降りたと言う通報を受ける。そこはラットのアパートだった。飛び降りたのはラットだった。泣き崩れるクロスだったが、その後、大火災の現場に飛び込んで一人の少女を助け出し、母親に感謝されるに及んで、何かを感じ取ったクロスだった。こうして映画は幕を閉じる。
作りようによってはテレビドラマの延長になりかねないところですが、次々と描かれる現場の辛辣さに、次第に見ている自分たちも、救護活動への疑問を感じ始める。そして終盤に至り、黙々と救護活動を続ける救命隊員の苦悩の一端が胸に伝わった気がしました。なかなか厚みのある一本でした。