くらのすけの映画日記

大阪の社会人サークル「映画マニアの映画倶楽部シネマラムール」管理人の映画鑑賞日記です。 あくまで忘備録としての個人BLOGであり、見た直後の感想を書き込んでいるので、ラストシーンまで書いています。ご了承ください

映画感想「夏の砂の上」

「夏の砂の上」

静かで上品な映画でした。元々戯曲なので、物語の構成や空間の設定は舞台劇を思わせるところもありますが、長崎の狭い階段状の通路を多用した映画的な作りの工夫も見られ、芸達者な役者を配した展開の面白さを見せながら、時間を切り取った流れを淡々と、しかも内面の劇的なうねりを描いていく奥の深さはちょっとしたものでした。監督は玉田真也。

 

雨が降りしきる長崎の路地の描写の後、カラカラに乾いた風景の中で、主人公小浦治がひたすらタバコを吸い、狭い路地を階段を登って自宅に向かう景色から映画は幕を開ける。幼い息子を雨の日に亡くし、その喪失感の中で暮らす彼の前に、別居している妻惠子が戻ってくる。夏用のパジャマを取りに来たという。造船所がつぶれて職を無くした治はこの日も新しい職を探すこともなくぶらぶらしている。そんな時、妹の阿佐子が十七歳の娘優子を連れてやってくる。

 

阿佐子は、博多でスナックを任せてくれる男が見つかり、開店までの色々があるので優子をしばらく預かって欲しいと言って出ていってしまう。優子は高校へもいかず近くのスーパーでバイトを始めるがバイト先の立山と親しくなる。治は、かつての同僚の言葉もあって中華料理屋の洗い場の仕事をするようになるが、元同僚で今はタクシーににっている持田が事故で急死してしまう。その葬儀の場で治は、元同僚の陣野の妻茂子にくってかかられる。陣野は修の妻惠子と不倫しているらしく治も薄々勘付いていた事を責めたのである。

 

しばらくして陣野が治を訪ねてきて、福山で小さな造船所の仕事が見つかり、そちらへ行くという。惠子は治に離婚届を書いてもらいにやってくる。優子はバイト先を首になり、立山とも別れてしまう。治の元を去っていく惠子に治は、最初から息子なんていなかったのではないかと惠子に呟く。惠子もいなかったのではないかなどというので、惠子は悲しい表情をするも外で待つ陣野と去っていく。入れ違いに優子が戻ってくる。つい、感情的になる治に優子は、大丈夫だと優しい言葉をかけるが、突然大雨が降って来る。断水していたがようやくの恵みの雨で、優子は鍋などを持って外に出て水を溜め、それを飲んで、治にも勧める。

 

治は仕事先で包丁で誤って指を落としてしまう。しばらくして阿佐子がやって来て、博多の男とは別れたという。そして、本社の社長の知り合いがカナダに店を出すからそこを手伝うのでと優子と一緒にカナダへ行くことになる。二人を見送った治はいつものように狭い路地を歩き家に戻ってくるところで長崎を見下ろして映画は終わる。

 

淡々とした作品で、阿佐子がやって来て優子を預け、再びやって来てカナダへ旅立つまでの一時期を描いた物語ですが、これだけ芸達者が揃うとそれなりに中身が充実した面白い作品になっています。傑作とまでは行きませんがいい映画でした。