「傷だらけの山河」
些細な周囲の不幸を冷淡に切り捨てて事業に邁進するカリスマ的な実業家の姿を重層なストーリー構成で描く社会派ドラマ。山本薩夫監督作品の中では出来の良い方ではないけれど、見応えのある作品でした。山村聰が冷酷な実業家を演じたことで、善人である風貌と相まって複雑かつ、憎みきれないキャラクターが完成していたのは良かった。監督は山本薩夫。
3人の妾を持つ実業家有馬勝平が、この日妾の一人民子のところへ来たところから映画は幕を開ける。息子の名前を間違えてしまうほど自分のことしか考えていない勝平だったが、事業の手腕は抜きん出ていて、たまたま舞い込んだ土地買収の件を膨らませ、鉄道や住宅地開発へと巨大プロジェクトをスタートさせたりする。その中で、ライバル企業香月信蔵が絡んでくるが彼もまた有馬と同じく、他者の犠牲をものともしない実業家でもあった。
有馬勝平の欲望も止まるところを知らず、会社で見かけた福村光子という事務員も、その素性を調べ、金に困っていることや内縁の夫がパリに画家留学に行きたい要望があることを突き止めて、金に物を言わせて三年間の妾関係を成立させる。しかし、妾たちの息子平次郎、竹雄は、そんな勝彦の振る舞いに我慢ができず、自身の信じるままに勝彦に反感をあらわにしていく。さらに、勝彦の次男で精神的に繊細な秋彦は、何かにつけて父を非難し、たまたまゴルフ場で知り合った福村光子との結婚話で、父の存在を知り自殺未遂して精神病院に収容されてしまう。
勝彦の鉄道事業はさまざまな犠牲と苦難の末に完成し、勝彦は勲章を授与されることになる。さらに、光子は勝手に家を出てしまったため、勝彦は新たな妾を芸者から選んで囲い始める。勲章授与の披露パーティの席に、進めていた学校建設の現場で火事があったと連絡が入る。犯人は秋彦だった。幸い、一部の損害で済んだものの、秋彦は警察の監視下で精神病院に収監され、この日。母藤子が面会に来たが、窓から顔を出す秋彦を見るだけだった。こうして公私共にさまざまな犠牲を足蹴にしていく有馬勝彦のアップで映画は終わる。
祝賀会の席でライバルの香月が有馬に、妾の子の認知の事で、とりあえず認知して財残分与はないという念書を貰えば良いとしゃあしゃあと話すセリフが恐ろしく効いているし、確かに、庶民や親族らの犠牲の上に成り立った生き様ではあるものの、こういう人物がいてこそ、公共インフラも、企業発展もあったことは確かだと納得させられるものもあり、その意味で、決して、資本家が悪で庶民らが善とは言えない描き方は見事だと思います。見応えのある一本でした。
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