「ブラックバッグ」
名優たちが織りなす心理サスペンス、鮮やかに面白い。90分余りに収めたデビッド・コープの脚本も上手いが、オーバー露出気味に捉えたカメラも美しく、単純に、スリリングな犯人探しを楽しむことができました。難を言えば、キーになるセヴェルスというプログラムの脅威が言葉でのみ説明されたにとどまったことかもしれません。いずれにせよ、面白かった。監督はスティーブン・ソダーバーグ。
金曜日、イギリスのサイバーセキュリティセンターの諜報員ジョージの後ろ姿を延々と長回しで捉えるカメラから映画は幕を開ける。ジョージは一軒のクラブに入っていき、そこで一人の男ミーチャムに、あるミッションを依頼される。世界を揺るがす不正プログラム「セヴェルス」が何者かに盗まれ、その犯人は組織内部にいるらしいから捜査してほしいと被疑者の書かれたメモを渡す。状況は逼迫しているというので、一週間で結論を出すとジョージは答える。しかも、被疑者の中にはジョージの妻キャサリンもいた。
ジョージは、同じく諜報員のフレディ、ジミー、情報分析官のクラリサ、局内カウンセラーゾーイ、そして妻のキャサリンともどもホームパーティに招待する。そして、お互いに疑念を暴くお遊びのゲームを始める。酒とそれに仕込まれた薬の影響で、フレディとクラリサの関係や、ゾーイの生の姿、ジミーの素顔などが浮き彫りになっていく。
捜査を進める中、スイスチューリッヒの銀行に700万ポンドが振り込まれているという情報を得たジョージは、妻のキャサリンをまず疑い出す。キャサリンは近々チューリッヒに行くと言っていたからだ。しかも、ゴミ箱に映画の半券が落ちていたが、その作品を見に行こうと誘うと、聞いたことがないとキャサリンに言われ疑念を抱いた。同じくしてミーチャムが自宅で飲酒中に心臓発作で亡くなってしまいます。
ジョージはクラリサに頼んで、監視衛星でチューリッヒの映像を映すように持ち掛ける。しかし、それは違法だった。衛星の電波が切り替わるわずかな隙を狙ってほしいと持ち掛け、ジョージはチューリッヒにいるキャサリンの映像をキャッチ、彼女がコンタクトした男がロシア人の男だと判明する。しかし、この監視衛星切り替えのタイミングでロシア人バビリチェクが逃げおおせたという出来事をチームリーダーアーサーがジョージらに話す。バビリチェクはセヴェルスの複製を持ち出したきらいがあるという。
映画はそんな様々な細かいエピソードを重ね合わせながらジョージが真実に辿り着くまでを描いていきますが、ゾーイが、患者としてやってくる容疑者らに、隠された真実を知るくだりや、アーサーというどこか不穏な空気のある上司の影、さらに、それぞれのカップルの浮気相手の話などなどが、職務上明かせないという都合のいい大前提のある諜報員たちの物語として描かれていく。やがて、ジョージとキャサリンが何者かに嵌められたらしいと判明していく。
ジョージはクラリサ、フレディ、ジミー、ゾーイに嘘発見器を受けさせ、いつセヴェルスを知ったかを問い詰めていく。そして、ジョージは四人をディナーパーティーに誘う。キャサリンはテーブルの真ん中に銃を置き、ジョージとキャサリンをはめた人物を追求、その中で、ジミー・ストークス大佐が突然銃を取りジョージに向ける。しかし、撃ってみると空砲で、キャサリンがカバンから銃を出してジミーを撃ち、死体を絨毯で巻いて湖に沈める。そして二人はベッドで愛し合うかの映像でエンディング。
次々と出てくる用語や交錯する人物関係、さまざまにはりめぐらされるエピソードに頭が必死でついていかなければいけませんが、お話は至って単純、ジョージとキャサリンがまんまと嵌められたことにキレて、本当の犯人を炙り出すというもので、爽快そのもののストーリーですが、セヴェルスの存在感がやや希薄になっているのはちょっと勿体無い。まあ、これを大きく出すと大作スパイ映画になるから避けたのかもしれません。なかなかの佳作でした。
