「俺ではない炎上」
原作の面白さが今ひとつ映画化で生きていない感じに思われました。真相が明らかになるラストの鮮やかさにキレがないのと、クライマックスまでの盛り上がりが希薄なので、さらにラストが際立たない。主人公の阿部寛含め、脇役も若干甘くて力強さがないので、映画に迫力が伴いません。決してつまらない話ではないはずが、映像にすることで全て壊していった感じです。監督は山田篤宏。
大学生の住吉は、この日もさりげなく書かれたSNSに目を通し、何気なくその投稿をリツイートしてしまう。その投稿とは近くの公園で一人の女性が殺された写真だったが、警察の事件になっていないレベルの半ばデモ程度のものだった。ここに大手ハウスメーカーの山縣泰介は、部下と一緒に取引先のコンテナハウスのコテージの経営者青江のところへやってきたが、宣伝コピーの日本語がおかしいとダメ出しをする。
その帰り、喫茶店で休んでいた山縣にスマホカメラが向けられる。いたずらかと軽く流した山縣だが、帰りの車の中や、突然スマホを向けられる事態に出会う。社に戻ると、社長以下部下たちが山縣を白い目で見ていた。社長に呼ばれた山縣は、SNS上で山縣が、女子大生殺人事件の犯人にされていることが判明、自宅待機を命じられる。さらに、本当に公園で女子大生の死体が発見され警察も動き出す。
SNSの炎上のことも知る刑事たちは山縣の妻芙由子に事情を聞くが一向に埒が開かない。山縣は執拗に追い回されることになる。さらに、深夜自宅に戻った際、庭のロッカーから死体が出てくるに至って、とにかくに逃げることにし車で逃亡する。山縣のアカウントとされ@タイスケに投稿されている事は、一部自身の実際のことと重なるためさらに不振が募っていく。山縣は、かねてからジョギングをしていたことで体力にものを言わせて、車を置いて走って逃げることにする。
途中、立ち寄ったスナックでしばらく話をして体を休め、山縣はさらに先へ向かう。そんな頃、住吉に一人の女性サクラが接触してくる。サクラの親友が今回の事件で殺されたので、犯人の山縣を是非とも捕まえたいのだという。そして、かつてセミナーなどで見かけた住吉に声をかけたのだと告白する。
一方山縣は、以前営業で向かったコンテナハウスに逃げ込む。サクラは、山縣はコンテナハウスのコテージに向かうからそこへいってほしいと頼む。しかし、住吉は、削除された殺人のツィートをサクラが持っていること、そして投稿者にしかつかないツィートアクティビティの印がついていることを発見する。問い詰められたサクラは、自分が10年前に作ったものだという。そしてそのアカウントは乗っ取られたのだと話す。そして住吉に頼んだのは、まだバズっていないツィートを住吉がリツィートしたために炎上したからだと責める。
騒動の中、山縣の娘夏美は、祖母の家に避難していた。しかし、祖母の家に行っていたのは、かつてネットで知り合った男性に危うく殺されかけた事件に関わっていて、学校で騒がれないように祖母の家にいたのだった。夏美が外でぼんやりしていると、クラスメートの江波戸がやってくる。夏美のお父さんのことが心配で尋ねてきたというが、実はこの場面は約12年前の場面だったのが終盤でわかる。サクラと住吉は山縣が行くであろうコテージの前にいたが、そこに青江が現れて、住吉らを追い払う。
コテージに隠れている山縣のところへ青江がやってくる。山縣が犯人ではないのはわかっているので、コテージの鍵を開けておいたのだという。刑事に質問されていた芙由子は、@タイスケのSNSの中の言葉は、日本語として間違っているものが多く、日本語にうるさい山縣は決してやらないことだと答えていた。
山縣は、最初に会社に届いた不審な封筒の手紙に書かれた座標らしい数字を青江に調べてもらい、そこに向かう。そこには、「からにえくさ」という謎のメモの看板があった牧場だった。10年前家族でこの牧場に来た時、看板の文字がかすれていて幼い夏美が面白半分に見える文字だけ繋いだことがあった言葉だった。サクラと住吉もその牧場に辿り着く。サクラは、山縣が真犯人に殺されると焦っていた。
山縣は、青江に、五分して戻らなければ警察に言うように言って建物に入っていく。その建物で第三の死体を発見する。殺された女子大生二人は美人局をして小銭を稼いでいることがわかる。山縣は絶望し、室内にあった酸素ボンベを開き、火をつけて自殺しようとするが間一髪でサクラが「お父さん!」と叫んで駆けつける。サクラは夏美の今の姿だった。そして真犯人こそが青江だった。
10年前、青江は、夏美のクラスメートの江波戸の事だった。青江は、過剰な正義感で、美人局をしている女子大生を殺害した。かつて夏美がネットで知り合った男性に接触しようとして、すんでのところで助かった事件の時、ネットで遊んだ夏美を山縣は怒って、庭の倉庫に閉じ込めて折檻した事にも制裁を加えようとしていた。夏美が山縣を助け出すが青江がナイフで襲ってくる。夏美=サクラが準備していた包丁で立ち向かうが、押さえつけられてしまい、山縣との三つ巴の乱闘になる。そこへ、住吉が呼んだ警察が駆けつけて青江は逮捕される。
青江は警察の取り調べでも、自分の非を認めなかった。病院で静養する山縣のところに芙由子と夏美が現れ、家族の絆を取り戻したような会話で映画は幕を閉じる。
真犯人を巧妙に隠すミスリード部分が若干不十分に仕上がっているので混乱するところもあり、その混乱がラストまで尾を引いてしまって、真相が明らかになるクライマックスがすっきりと盛り上がらなかった。
「火喰鳥を、喰う」
終始シュールな展開で、しかも映像演出も、いかにも意味不明的なものを見せてくるので、原作はこうなのだろうと思うものの、今ひとつ根幹に流れる何者かがスクリーンから見えて来ず、不完全燃焼のようなエンディングだった。火喰鳥の意味するものも結局掴めませんでした。監督は本木克英。
田舎の村ハズレの墓石の前で、雄司、夕里子とその両親らが戸惑っている姿から映画は幕を開ける。どうやら時代は現代よりも少し遡る頃のようである。背後の田んぼに謎の少女が立っている。戦死した祖父の兄貞市の墓碑銘が削り取られているのだ。誰の仕業かもわからず、村人たちや警察は犯人探しをはじめる。実は先日、貞市が残した日記が発見されて、それを手に入れた報道記者らが持ってくるのだと言う。
この日、新聞社の与沢と玄田が手帳を持って久喜家を尋ねてきた。同じく夕里子の弟亮も遊びにきた。家族中でその日記を手にした途端、何か不穏な空気を感じ、亮は勝手に日記に追記したりする。そこには、「ヒクイドリヲクウ」だった。火喰鳥というのは、貞市らがいた戦地で生息していた飛べない鳥だった。
この日から雄司も夕里子も悪夢を見るようになり、夜中に火喰鳥が縁側にいたり、突然、雄司は車に轢かれそうになったり、さらに祖父の保は行方不明になった上、乗っていたらしい軽トラが何十年も前に乗り捨てられたような姿で発見されたりする。亮も帰ってから体調を崩し、玄田も高熱にうなされるようになる。
夕里子は学生時代の知人で超常現象に詳しい北斗総一郎に相談することを提案、この日、北斗、雄司、夕里子、亮らが会う。北斗は、日記の中に籠りと言うものが存在しているのではないかと説明するが、化学の大学教授でもある雄司は、受け入れられなかった。しかし、次々と不可解な事件が起こり、さらに周囲の人達の記憶が曖昧になってくるにつけて、不安が募っていく。
北斗は、貞市が生きている別の世界がこの世界を侵食してきていると説明する。やがて、雄司の母も息子のことはわからなくなり、貞市が生きて戻った世界が侵食、北斗は夕里子と結婚することになり、雄司は、大学教授ではなく天文台に勤めることになる世界に変わってしまう。この日、帰宅する雄司は夕里子と再会、お互い何かを感じて見つめ合うと、これまでの様々の映像が逆回転されて暗転映画は終わる。
なんだかよくわからないままに終わってしまう感じで、冒頭のおどろおどろしい映像のカットから墓石前のシーンへ続くあたりは少々あざといが、この路線で突っ走るべきだったかもしれない。オカルト研究者やひと時代前の村人たちの描写など、どこかしっくりまとまっていなくて、映画の空気感が定まらないままに仕上がったような映画だった。

