「グランドツアー」
幻想とも現実とも見分けがつかないファンタジックで映像詩のような美しい作品だった。様々なジャンルの音楽、モノクロとカラーを織り交ぜた映像、時に多重露出のままに描かれる画面、男性部分と女性部分を分けたストーリー構成、それぞれに描かれるドラマは不思議なラブストーリーになってエンディングを迎える。クオリティが非常に高いが、少々ついていくには難しい部分もあってそのしんどさが癖になる作品だった。監督はミゲル・ゴメス。
人が漕いで回転させる遊園地の観覧車がカラーで描かれて映画は幕を開ける。ロンドン、エドワードとモリーは婚約し、この日結婚だったが、エドワードは突然シンガポールに旅立ってしまう。1918年、シンガポールでモリーの従兄弟に会い、そのままビルマ、サイゴン、上海、日本、チベットへと進んでいく。その度に後を追いかけてモリーの手紙が届く。時にモノクロで時にカラー映像、そしてクラシックが流れたりオペラが流れるなど様々な音楽が映像を多彩に彩る。
エドワードを追う物語が終わると後半はモリーの物語になる。シンガポールにやってきたモリーは、エドワードがシンガポールから乗り込んだ列車が事故にあった事を知り後を追ってサイゴンへ、そこでサンダースという裕福な男性からプロポーズされるが、モリーは頑なに断って、サンダースの使用人ゴックを連れてエドワードを追う。しかし、モリーは病に冒されていた。やがて弱っていくモリーは、とうとう密林の中で息を引き取ってしまう。しかし、明るいサーチライトが当たり、音楽が変わるとモリーは目を覚まして、人々に支えられて消えて行って映画は終わる。
ラストシーンは映画のフェイクなのか夢なのか、二人はロンドンで再会するのか。何もかもが幻想の世界で、現実味のないファンタジックな映像がナレーションによる展開で描かれていく。映像表現の一つの形として芸術的に詩的に描かれる作品で、劇的なドラマがあるわけではないが、不思議な感覚に囚われてしまう一本でした。
「ジュリーは沈黙したままで」
徹底的にミステリアスな空気感をラストまで引っ張っていく展開の中に、なぜか見えてくる何気ない純粋な少女の気持ちが、次第にもやもやした大人の世界を払拭するようなラストへの流れに、不思議な感動を覚えてしまう映画だった。監督はレオナルド・バン・デイル。
実力のあるテニスプレイヤージュリーがエアで練習している場面からタイトル。練習を終えてクラブの控え室に戻ると、友達が、コーチのジェレミーを見かけないと噂し始めるところから映画は幕を開ける。どうやらジェレミーは指導停止になったらしく、同じく、クラブメンバーのアリーヌが自殺した事件と相まって不穏な空気が流れ始める、
ベルギーテニス協会への選抜入りが迫る中、ジュリーにジェレミーに関するヒヤリングが実施されるが、ジュリーはジェレミーについては一言も話さなかった。新しく入ったコーチバッキーの元で日々のルーティーンな練習を続けるジュリー。ジェレミーは時折りジュリーに電話をしてきたりしてバッキーの指導に従わない方が良いなどとアドバイスされる。しかし、間も無くしてジェレミーは解雇され、次第にジュリーはバッキーの指導を受け入れるようになっていく。
特待生に近い存在のジュリーへのヒヤリングはそれとなく厳しくなってくるが、ジュリーは最後までジェレミーについては沈黙を貫く。やがてテニス協会の選抜にも選ばれるが、ジェレミーは、ジュリーの意に反して、所属替えされて去っていってしまう。こうして映画は終わっていくがエンドクレジットの後、黙々とジュリーが筋トレする姿でエンディングとなる。
果たしてジェレミーは何かの罪を犯したのか?アリーヌの自殺に何らかの関連があったのか?全てはジュリーの心の中にしまわれることになるが、実はそう考えること自体が大人の視点であって、真実は何もなく、まだまだ少女のようなクラブメンバーとたまたまコーチが男性で大人だったことだけで話を大きくされただけだったのではないかと考えてしまう。プールなどで無邪気に遊ぶジュリーたちの姿を見ると、いつのまにか純粋な心を大人が汚しているのではないかと思ってしまう。そんな作品だった。
「リビング・ラージ!」
チェコのストップモーションアニメ。美しい色彩とほのぼのしたストーリーで楽しめる一本でした。監督はクリスティーナ・ドゥフコバ。
街を俯瞰している画面から映画は幕を開ける。この街に住むベンは、食べることが大好きで、かなり太った体型の優しい少年である。友達とバンドを組んで、間も無く始まる発表会に向けて曲を書いている。学校では女子たちは思春期になってどこか雰囲気が変わる中、クララという少女にベンは惹かれる。
ダイエットをするべく頑張り、クララの応援も嬉しくて、クララにメールで告白したが、あっさり振られてしまう。落ち込んだベンは引きこもってしまう。そんなベンに、父のガールフレンドソフィが、自分も片足を無くした時に落ち込んで20キロも太った経験を話して勇気づける。ベンは気を取り直し、クララを誘ってバンドのメンバーに入ってもらい、曲も完成してみんなで歌って映画は終わる。
たわいないお話ですが、ストップモーションアニメのゆるゆる感がとってもあっていて楽しい映画でした。
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