「ハウス・オブ・ダイナマイト」
アメリカ本土へ発射されたICBMの着弾までの二十分足らずを描いた緊迫感あふれる一本ですが、Netflix配信ドラマの域を出ない作品でした。ミサイル発射が確認されたところから、様々な部署でのドラマが描かれるけれど、アップを多用したカメラと、繰り返されるセリフの応酬は、やはりテレビ画面レベルの仕上がりになっています。もちろん緊迫感あふれる展開は正直面白いですが、かつて冷戦時代に描かれたこの手の作品に比べるとやはり弱い気がしました。監督はキャスリン・ビグロー、
危機管理室に勤めるウォーカー大佐が、いつものように勤務先にやってくるところから映画は幕を開ける。間も無くして、ICBMがアメリカ本土に発射されたことをレーダーがキャッチする。最初は信じられないままに職員らは対応を始める。発射場所は特定できず、敵国は不明だが確実にアメリカ本土に向かっていた。物語は危機管理室でのウォーカー大佐の姿、上官であるマーク将軍、などの姿が描かれ、迎撃ミサイルが発射されるも失敗、ミサイルはほぼ確実に二分半後にシカゴに着弾されることが決まる。
カットが変わり、ベイカー国防長官が執務室で対応する姿、ミサイル着弾場所がシカゴと知り、シカゴに住む娘に電話をしてしまう。そして、自らは飛び降りて死んでしまう。ジェイク副補佐官が作戦本部へ向かう中で対応する姿もまた同じシチュエーションの展開で描かれていく。そして、最後は合衆国大統領に焦点が当たり、バスケットボールの試合に来賓としてきていた大統領は緊急招集でヘリで作戦室へ向かう。その中、リーブス少佐から、報復攻撃の手順書の説明をされるが、大統領は決断できず、大統領はこのままシカゴを失えば降伏と同じだと作戦室に告げるも、ジェイク副補佐官から、報復すれば自殺行為だと言われる。そして着弾まで二分半に迫る中、各シェルターに向かう政府要人のバスを遠景で捉えて映画は終わる。
結局そういうことなのである。世界中で核兵器が所有され、まるで世界は爆弾庫のような様相になっている。しかし、抑止力と思っているこの行為は結局、攻撃されればこのドラマのように、自殺か降伏かという選択にしかならない皮肉になることを誰も気が付いていない。そに現実をリアリティ満点に描いた一本と言える映画でした。
「女優と詩人」
小品ながら軽快なテンポで展開するとっても楽しい喜劇作品でした。物語は、長屋同士の庶民のたわいない日常なのですが、セリフの掛け合いがリズミカルで、素朴さの中に味付けが面白いので、あれよあれよと笑いの中に終わってしまいます。なかなかの佳作でした。監督は成瀬巳喜男。
片隅の長屋、お芝居の女優をしている妻千絵子と、なかなか売れない童謡の作詞をしている夫月風のたわいないシーンから映画は幕を開ける。近所にはおしゃべりで世話好きなお浜さんがいて、その夫は保険の外交員らしい。月風の友達能勢は、売れない作家で懸賞を狙っていてタバコ屋の二階に居候をしている。
そんな長屋に一組の若い夫婦が引っ越してくる。引っ越しそばをあてにするお浜、夫の酒の相手に月風を誘い、勝手に月風の家のおかずを失敬してくる。酒の宴もたけなわになった頃、引っ越してきた若い夫婦に保険を勧めてはどうかと夫に勧めるお浜。その声に、そのまま勧誘に行ったらあっさり契約が取れ、そのお祝いにさらに酒が進む。
翌朝、月風は妻のお芝居の相手で夫婦喧嘩の場面の稽古に付き合っていたら、能勢が、下宿屋を追い出されたから居候させて欲しいとやってくる。月風は気持ちよく承諾するが、千絵子が許さず大喧嘩になる。そこへ能勢が荷物をまとめてやってくる。結局ケンカは治ったが、能勢のせいでいい稽古ができたと千絵子は大喜びして、下宿を承諾。ところが引っ越してきた若い夫婦は心中事件を起こし、お浜は大弱りして夫と大喧嘩。結局、一命は取り留めて一段落。月風と千絵子はこの朝もいちゃつき、能勢もにんまり、お浜夫婦も平穏になって、また日常が戻って映画は終わる。
たわいない映画なのに、とにかくリズミカルで面白いので、最後まで見入ってしまいます。娯楽映画なのですが、やはり演出力が優れているのでしょう。
「臆病者」
学生時代、自分の勇気のなさで恋人と別れた主人公が、人妻となった元恋人と再会、もう一度戻って欲しいというものの、結局戻ることはなかった。という単純な物語を、軽いタッチの語り口で描いた作品。さりげなくインドカースト制度を持ち出し、次第に自立するインド女性の姿を描いていく。普通の作品ですが、国柄を考えると興味深い一本でした。監督はサタジット・レイ。
映画の脚本家のアミが目的地へ向かう途中乗ったタクシーがエンジン不良で修理しなけらばならなくなる。修理工場で知り合った茶園を営む男ピマールに誘われて、彼の家で一夜を過ごすことになる。ところがピマールの家に行ったアミは学生時代別れた恋人コルナと再会する。なんとコルナはピマールの妻だった。
陽気なピマールに誘われるままに食事をし、酒を飲むが、アミは学生時代、コルナと出会った頃を回想する。学生時代、アミとの交際に反対したコルナの叔父はコルナを連れてアミの元をさっていく。どうやらそこに身分制度が絡んでいるようである。ピマールは翌朝の食事の席で、自分のような経営者と同席できるのは同じ経営者だけなのだと豪語、カースト制もいい面もあるなどと平然とアミに話す。
ピマールはアミを車に乗せて、コルナと共に駅まで送ってやるが、途中で食事をしに道端に立ち寄る。そこで、酔って寝ているピマールを見て、アミはコルナに、駅で待っているから自分のところへ戻って欲しいとメモを渡す。ピマールは駅の手前でアミを下ろしアミはホームでコルナを待つ。夜、ホームで眠っていたアミのところにコルナが現れるが、アミに貸した睡眠薬を返してもらいに来ただけだった。アミはコルナを見送り一人で去って行って映画は終わる。
インド以外の人にはちょっとわかりづらいメッセージの作品ですが、丁寧に演出された映像はさすがと言える一本でした。

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