「ミーツ・ザ・ワールド」
原作もあるし、面白い話のはずなのですが、ストーリーが薄くて、セリフ展開が弾んでこないので、映画がリズムに乗り切れないままに終わった感じでした。杉咲花が生かしきれていないのが勿体無いのと蒼井優の存在などが映画に深みを生み出せなかったように思います。監督は松居大悟。
歌舞伎町の飲み屋街の隅でうずくまっている由嘉里にキャバ嬢のライが声をかけるところから映画は幕を開ける。ライのようになりたいと言う由嘉里にライは300万円あげるから整形しなさいと勧める。銀行に勤める由嘉里は、この日合コンをしたのだが、推し活中心の腐女子的な由嘉里は、合コンの場でそれを指摘されて、自虐的になっていた。流れのままにライの部屋で一夜を明かし、そのままルームシェアで生活するようになる。ライの部屋はゴミ屋敷の様相で、由嘉里はとりあえず片付けを始める。ライは間も無く死ぬからというのが口癖だった。
翌朝、ライの友達でホストをしているアサヒと出会い3人は行きつけのバーに出向いて、マスターのオシンや作家のユキらと知り合い日々を送り始める。由嘉里にとって何もかもが目新しかった。由嘉里はライが死ぬと繰り返すことが気になり、ライの元カレがその原因だと思い、アカシと一緒に元彼の住む大阪へ向かう。しかし、元カレは今は精神病院にいると母から聞かされる。
ところが東京に戻ってくるとライは居なかった。しかも300万が残されていた。由嘉里は、仕方なくその部屋に住み、アサヒらとの日々を過ごし始める。その中で、次第に自分のやりたいことに向けて生きるべきではないかと考え始める。実家に戻り、推しのグッズを持ち出して戻る途中、ライの元彼から電話が入るが、なんのことはない話だった。由嘉里は、ライが残した300万で、ユキやオシン、アサヒと焼肉パーティをしたりして過ごす。もしかしたら、ふっとライが戻ってくるかもしれないと思いながらも由嘉里は自分自身の人生を歩み始めていた。こうして映画は終わる。
芸達者な脇役を配置しながらも生かしきれず、杉咲花のコメディエンヌの部分も生かしきれないままにストーリーが展開するので、どの場面も不完全燃焼のままに進んでいくのが非常に勿体無い。推し活のアニメシーンも今ひとつ映画を盛り上げてこないし、どうにもこうにも語れない作品に仕上がっていたように思います。
「愚か者の身分」
それほど期待していなかったけれど、思いの外いい映画だった。少々切なすぎるほど残酷なところもありますが、それがかえって、ひたむきな青春映画の装いを生み出して、なんとも言えない余韻が残る一本でした。監督は永田琴。
タクヤと弟分のようなマモルが橋の上から、川に落ちたタクヤのブランドのシャツを見下ろしている場面から映画は始まる。タクヤに言われマモルは川に入ってシャツを拾い上げるが、見上げると警官二人が見下ろしていた。不審者の通報があったという警官に適当に言い訳をしてその場を去るマモル。
マモルがたくさんのスマホの受け答えのメールを返している。マモルとタクヤは、SNSで女性を装って金に困る男性を見つけては戸籍を買い、転売して商売をしていた。この日も一人の顧客を見つけた二人は仲間の沙良に連絡して顧客から戸籍を手に入れる。タクヤたちの兄貴分佐藤は、タクヤを闇の仕事に誘い込んだ男だった。組織の上層部ではジョージという幹部が組織の金を奪ったらしいという噂が流れていた。
マモルとタクヤは佐藤にご馳走になるが、佐藤はマモルと二人だけの時、翌日、タクヤに連絡を取らないように念を押す。不審に思ったマモルはタクヤと別れてからタクヤをつけていくと、タクヤは一人の男から、身分証になる偽造免許証を受け取っている現場を目撃する。マモルはタクヤを問い詰めるがタクヤは答えなかった。
翌日、マモルはタクヤと連絡を取らず自宅に引きこもっていたが、そこへ佐藤らが押しかけてきてマモルを拘束してしまう。しばらくして、気がついたマモルに佐藤は、タクヤの部屋を掃除してくるように指示、マモルがタクヤの部屋に行くと、大量の血の跡が残っていた。掃除が終わる頃、佐藤が現れ、部屋の隅のテディベアを持ち帰る。佐藤は何でも持って帰っていいというので、冷蔵庫の冷凍の鯵をもちかえる。タクヤがかつて鯵の料理をマモルに食べさせてくれた思い出があったためだ。
場面が変わるとタクヤの話になる。タクヤは、ヤクザ組織のドヤに寝泊まりしていたが、そこにマモルが入ってくる。組織に良いように金を掠め取られている姿を見たタクヤは、自分がやっている戸籍売買の仕事に誘う。佐藤から依頼された次の仕事は、かつて戸籍を売った男江川が金に困っているらしいので、中国人が角膜と腎臓を探しているから、その男に再度近づけというものだった。しかし、タクヤは、江川に話を持ちかけず逃してしまう。
間も無くして自宅に戻ったタクヤは、何者かに襲われてしまう。かつてタクヤに偽造免許証を作ってやった男は、組織の人間だった。彼の名は梶谷と言った。梶谷はタクヤをこの闇世界に引き込んだ男だった。梶谷は佐藤に言われて大きなボストンバックを用意してやってきたが、その部屋はタクヤの部屋だった。しかも、タクヤは両目を抉られて気を失っていた。梶谷はタクヤを車に積んで、指示された病院を目指す。中国人の顧客が腎臓も欲しいということでタクヤの体を届けるためだった。
ある日、マモルにメールが届く。それはタクヤからだった。このメールを見たら、タクヤは死んでいるか、海外に売り飛ばされているというものだった。
一方梶谷はタクヤを乗せて走っていたが、タクヤが気が付いたので起こしてやる。タクヤは目をなくしたことを知るが、梶谷に言われるままに車で運ばれていく。タクヤの腎臓も必要らしいと梶谷は知り、その施設を目指していた。しかし、タクヤをこの世界に引き込んだ罪悪感から、梶谷はタクヤと逃げることにする。車にはGPSがついているからとタクヤに言われ、装置を破棄し、とりあえずラブホテルに逃げ込む。梶谷は恋人の伝手で三宮にあるバーを目指すとことにするが、GPSをとったはずなのに組織の人間がラブホテルに現れる。梶谷とタクヤは必死で応戦してなんとか逃げ出し三宮へ向かう。
マモルはタクヤからのメールで真相を知る。タクヤは自分に万が一の時はこのメールを送ってほしいと、江川に頼んでいた。タクヤらの兄貴分佐藤はジョージが盗んだ組織の金を横取りしたもののバレてしまいタクヤのせいにしたらしかった。タクヤは、佐藤に金の管理を任されていたことから、佐藤の金を横取りし、別の倉庫に隠し、その金とマモルの偽造免許証を冷凍の鯵に隠していた。マモルはタクヤの準備した免許証と金を手に入れ、タクヤの指示通り江川に金の一部を渡してやり、逃亡する。タクヤと梶谷は三宮のバーの二階で落ち着いていた。
マモルは都会を抜け出して逃げていたが沙良から、自分たちは追われているとメールを受け、後ろからつけていた男を振り切ってタクシーに飛び乗る。テレビでは、臓器売買や詐欺を行っていた佐藤らの組織が警察に逮捕されたニュースが流れていた。しかも、まだ仲間がいると刑事たちが張り込んでいる姿があった。なんとか逃げおおせたマモルは、かつてタクヤとふざけた橋の上から川を見下ろしている場面で映画は終わる。
原作がいいのだろうが、脚本もしっかり書けていて、サスペンスフルな展開がかなり面白く仕上がっています。沙良の存在が途中で消えてしまったりするので、少し物足りなさは見え隠れするものの、主要人物3人の逃亡劇は、なかなか面白い。もう少し、それぞれの人物の背景もしっかり描けていたらもっと分厚い傑作になった気もしますが、ちょっとした佳作でした。
「ナイトコール」
脚本はラストに向かって書く。ラストシーンをああいうふうに収めるのなら、それまでの展開をラストに向かって描いていかなけらばいけないのですが、途中のエピソード全てに100パーセントの力が注がれた演出になっているために、映画全体がまとまっていない。面白い作品だと思うのですが、クライマックスに向かってどんどん引き込まれるという流れが作り出せなかったのは残念。ブラック・マイルズ・マターのデモの意味も日本人には馴染みがないため、この辺りも少し丁寧に描写すべきだったかもしれません。退屈はしない映画ですが、どこへ向かうか見えないままにエンディングを迎えた感じです。監督はミヒール・ブランシャール。
鍵屋として働くマディが一軒のドアを処理するところから映画は幕を開ける。二十四時間対応のマディに次の仕事が入る。クレールという女性からのものだった。マディが駆けつけ、処理する前に身分証を依頼するが、部屋の中にあるからと見せてもらえず、先払いの代金も中だからと払ってもらえない。結局、女性を信じて鍵を開くが、クレールは中からゴミ袋らしいものを持って出てきて、身分証は中に置いてあるから見てほしいと言って出ていってしまう。
マディが中に入り身分証を探すが見つからず、モタモタしているとクレールからメールで、すぐに部屋を出るように言われる。直後、一人の男がマディの前に立ち塞がり、二人は大乱闘となった末、マディはその男を自分のドライバーで突き刺して殺してしまう。さらに、部屋に別の男たちがやってきたのでマディはベッドの下に隠れるが、結局見つかって拉致されてしまう。
マディが気がつくと、椅子に拘束されていて、クレールはどうやら部屋にあった金を奪ったらしく、ボスらしいヤニックが執拗にマディを問い詰める。マディは経緯を話すが、最初は信じてもらえない。しかし、手下のテオがマディを信じ、クレールを探すべく売春宿にマディを連れていく。そこでヤニックの手下がトラブルを起こしている際、テオがクレールに電話をしているのをマディが聞いてしまう。犯人はテオとクレールだった。
マディに聞かれたと知ったテオはマディを捕まえようとし、マディはなんとか振り切ってその場を逃げるが、その際にテオのスマホを手に入れる。マディはそのスマホから、テオのフリをして女に電話をしてクラブに呼び出す。マディはクレールと再会し、クレールを拉致するが、クレールは金を持ってきていなかった。そこへテオがやってきたのでマディは隠れる。クレールというのは偽名で、本名なジュディと言ってテオの妹だった。テオはジュディに、朝6時に北駅に金を持ってくること、始発でアムステルダム行きの列車で一緒に逃げる事を決めてジュディを家に帰す。
マディはクラブを出ようとするがテオに見つかり、外に出て、ブラック・マイルズ・マターのデモに紛れて逃げようとする。しかし警官に、デモのメンバーと間違われ捕まってしまう。しかも護送される車にテオもデモのメンバーと思われて乗せられてきた。その頃ヤニックは、仲間の一人で刑事でもあるグレッグから、マディが護送されている事を聞く。マディとテオが乗った車にヤニックが手配した車が衝突し、ヤニックはマディを再び拉致する。マディはヤニックの前で、テオが犯人であると話し、マディから取り戻したテオのスマホの動画が証拠だと話す。ヤニックは全てを知り、テオを殺し、マディを解放するが、金を持ってきた駅に向かうジュディのこともヤニックに知られてしまう。
解放されたマディだが、ジュディのことが気になり、猛スピードで北駅に向かう。途中、パトカーに追跡されながらようやく北駅に着く。一方ヤニックとその部下はジュディを待ち構え殺そうとしていた。途中で車が横転してしまい瀕死のまま駅に向かうマディだが。追ってきた警官に発砲される。意識を失う寸前、ジュディの名を呼び、ジュディはヤニックの部下に気がついて逃げ、列車に乗ることができた。警官が発砲したことで大騒ぎになる駅で、悔しそうにその場を去るヤニックらの姿で映画は終わる。
前半、真相がすぐに明らかになるくだりがやや雑なので、その後の追っかけが少し甘くなった。さらにクレールとの絡みとテオとマディの追走シーンも、せっかくのデモシーンが十分に生かされず、サスペンス色が弱い。ラストシーンは、終盤大体予測がついてくるので、この辺りはもう少し書き込んだ脚本にしてほしかった。90分というベストの尺なので、面白い一本だと思うけれど、後ひと押しほしい感じがしました。

