「盤上の向日葵」
原作はしっかり書かれていると思うのですが、少し演出が甘いです。特にオープニングが非常に安っぽいので、その後の展開で挽回しても、映画自体の薄さを払拭できなかった。さらに、坂口健太郎、渡辺謙ら主要キャストはしっかりしているのに脇役が弱く、もっと分厚い人間ドラマのはずが普通のサスペンスで収まってしまったのは本当に残念でした。監督は熊澤尚人。
上条圭介が、アマチュアでありながらプロの将棋トーナメントに出場し、次々と勝利していくところから映画は幕を開ける。このシーンが実に薄っぺらく、この後までひきづることになる。山中で身元不明の白骨死体が上がる。しかもその死体はこの世に七組しか存在しない希少な将棋の駒が握らされていた。石破警部と佐野は早速捜査を始める。佐野はかつてプロ棋士を目指したことがあったことから今回の捜査に加わったのだった。
石破たちはその将棋の駒の所有者を全国を巡って追及し、上条圭介がその所有者の一人でかつ容疑者の可能性がある事を突き止める。時が遡り、幼き日の上条は、母が自殺し、酒に溺れる父と暮らす中、新聞配達をして過ごしていた。たまたま配達先の廃品の中に将棋の雑誌を見つけ読んでいる時、その家の主人で元校長の唐沢と知り合う。唐沢も又将棋マニアで、退職金で貴重な将棋の駒を手に入れて宝物にしていた。
唐沢は圭介を可愛がり、将棋を教え始める一方で、その才能を見抜いて将来プロを目指すようにと支援する事を提案し、父康一に掛け合う。しかし父は圭介を手放そうとしなかった。やがて唐沢は亡くなるが、その直前、貴重な将棋の駒を圭介に譲る。圭介は自力で東大に入学したが、その後も塾の講師などをして生活を支えていた。そんなある夜、将棋クラブに入り浸っている東明重慶と出会う。東明の名前は雑誌などで、賭け将棋をする真剣師として圭介も熟知していた。
東明と出会い、圭介は、東明にさらなる将棋を学ぶことになる。東明は圭介を伴って、大金を得るために東北へ賭け将棋に連れていく。東北の真剣師兼崎と最後の大勝負に現金が必要になった東明は圭介の持っているコマを担保に角館銀次郎から金を借りて勝負をする。結局、東明は勝負に勝ち大金を手に入れたが、借金も賞金も持って圭介の前から姿を消す。角館銀次郎の担保に譲った駒を取り返すべく圭介は金を作ることになる。
石破たちは、圭介が大学卒業後、投資会社を経て駒を取り戻し、その後就職した農園にやってくる。そこで、金をせびりにきた康一、東明もこの農園をおとづれた事を知る。その頃蓼科で身元不明の白骨死体が上がる。石破たちはその遺体を取り調べ、それが康一である事を掴む。そして康一を殺したのは東明で、殺人教唆をしたのが圭介と話が繋がってしまう。東明は農園を訪れ、圭介に会い、もう命は長くないからと圭介に最後の将棋を指南し始めたのだ。
一方、圭介は、康一に1000万を渡し、これで最後にして欲しいと念書を求めた。しかし康一は圭介を騙して逃げたので圭介は康一を捕まえて押し倒す。その時、康一は、圭介は母とその実の兄の子供だと白状する。その兄は自殺、康一は妊娠した圭介の母に頼まれて兄に汚名がかからないように自分を連れて逃げて欲しいと頼んだらしい。圭介は、自身の境遇を知り、一時は自殺を考えるが、そこへやってきた東明が将棋を並べる音を聞いて自殺を思いとどまる。東明は、圭介から持ち逃げした金を返す代わりに、殺したい男を殺してやると告げる。
間も無くして、東明は圭介を森の中に連れ出す。そこから東明がかつて愛した女性の街が見えるのだと言う。そして、蓼科で約束を果たした事を話し、最後の将棋を指し、東明が勝ったらここで自分を殺して埋めてほしいと頼む。しかし勝負の後、圭介は東明が準備した短刀で刺せなかった。東明は自ら短刀を胸に突き刺し果ててしまう。圭介は東明の遺体を森に埋め、手に将棋の駒を握らせる。
この日、最年少の名人との対決に、圭介は会場にやってきた。そこへ石破達も駆けつける。圭介は、一度は屋上から死ぬ事を考えるが、東明の言葉を思い出し、生き続けるべく石破達の方へ歩いて映画は終わる。
物語は、胸に突き刺さるほどの重厚な内容なのですが、配役がちょっと甘すぎて、ドラマが膨らんでこない。それと、将棋の対決シーンが実に薄っぺらくて嘘っぽく、映画全体のクオリティを明らかに下げている。原作がなかなかいいだろうに本当に勿体無い仕上がりの作品でした。
「爆弾」
期待以上に面白いサスペンス映画でした。原作があるので、ストーリー展開はあの通りなのでしょうが、配役が面白いのとそれぞれの人物を丁寧に描いているので映画が安っぽくならない。ラストの真相は若干雑な気がしますが、それに至る物語の構成はなかなか面白いし、きっちり整理された脚本で、見ている私たちを飽きさせない。娯楽サスペンスの佳作という感じの一本でした。監督は永井聡。
ある酒屋の前で、中年男が暴れ、それを取り押さえに巡査が駆けつけるところから映画は幕を開ける。取調室でこの男を担当したのは等々力という若い刑事だった。男はスズキタゴサクと名乗り、自分には霊感があって、都内で間も無く爆弾が爆発すると予言する。等々力も記録係の伊勢も相手にしなかったが、男が予言した通り秋葉原で爆発事件が起こる。重大事件に発展したことから、本部から、こういう事件の専門家清宮と部下の類家がやってくる。
清宮は、男と対峙し、次の爆発予告の謎を解くべく類家と聴取を始める。男は九つのしっぽという謎かけをしてきて、その言葉の中で第二の爆弾を謎かけで示していく。類家や等々力らはその謎を解くが、さらに男は次は子供達をターゲットにしたかの謎かけを持ちかけてくる。清宮はその謎かけから代々木と判断し、保育園などの避難を指示するが爆発したのは代々木公園のホームレスのいる場所だった。翻弄されたことでキレてしまった清宮はスズキの指を折ってしまう。
清宮は自ら対峙を避け、類家に後を譲る。男は新聞配達所にも爆弾を仕掛けていたかのそぶりを見せる。その調査に巡査が派遣された中に、最初にスズキを捉えた巡査、矢吹と倖田がいた。倖田のとっさの感で、新聞配達のバイクに仕掛けられていると判断、全ての配達のバイクを捜索、すんでのところで、矢吹の決死の行動で、被害者を出さずにバイクの爆発だけで済む。
一方、等々力らは、類家の指示で、かつてこの警察署で不祥事を起こし自殺した長谷部の離婚した妻明日香の家を調べるためにやってくる。明日香の娘美海はスタイリストの仕事をしていたが、息子の辰馬は父の事件の後行方がわからなくなっていた。次第に事件が見えてくる中、類家は、次の爆弾のありかをスズキから聞き出そうとしていた。その時、スズキの犯行声明の動画が流れ、その動画は爆弾がクリック数によって東京中で爆発すると言っていた。スズキの言葉の中から、東京中の駅に仕掛けたらしい事がわかり、避難して駅を捜査するも爆弾が見つからない。
その頃、スズキに取り込まれた伊勢はスズキが無くしたと言っていたスマホのありかを内緒で聞き出して、かつての同僚の矢吹に連絡していた。矢吹がスマホを見つけるとケースの裏に住所が書かれているのを発見、倖田と向かう。行った先はシェアハウスで、二階には二人の若者の遺体があった。そして一階の奥に踏み込んだ矢吹は辰馬が椅子に縛られ死んでいるのを発見、その遺体に近づいた途端爆弾のスイッチを踏んでしまう。倖田を庇った矢吹は重傷を負うが、明日香から、シェアハウスのことを聞き出した等々力らが駆けつける。
駅での爆弾が見つからず、避難指示解除を要求されてきた類家らだが、何かが足りないと類家は推測する。一方等々力は、シェアハウスの二階で死んでいた若者の一人が自動販売機の配送員だったことを思い出し、自動販売機の飲み物に爆弾が仕掛けられているのではないかと類家に連絡するが、避難解除された後だった。直後、長谷部が自殺した四時に駅の自動販売機が次々と爆発する。
類家は、最後の爆弾が存在するとスズキを問い詰め始める。そしてこれまでの様々を分析した類家は、犯人は明日香であると決断する。その頃、明日香はスズキのいる警察署へ爆弾を持って向かっていた。辰馬が駅に爆弾を仕掛けて復讐を計画しているのを知った明日香は辰馬を殺した。そのことを、ホームレスをしていたとき知り合ったスズキに相談、スズキは、自身の犯行に見せるために、最初の三つの爆弾を仕掛け、辰馬の事件も自分の仕業にしようと、わざと酒屋で捕まったのだった。
明日香は警察署にやってきたが、群衆整理していた倖田に見つかる。明日香は起爆スイッチであるスマホの電話をかけるが、それは通じなかった。最初からスズキは爆発させる気はなく、最後の爆弾の存在を隠すことで警察を翻弄するつもりだった。類家はそれを見破り、スズキの取り調べが終わって手錠をかけられて映画は終わる。
脚本はもっと入り組んだ作りになっているけれど、細かいところまで書ききれないので、大体の流れを書いてみました。とにかく佐藤二郎、山田裕貴ありきの作品ですが、脇の染谷将太や伊藤沙莉もいい味を出しているし、渡部篤郎の存在感もしっかり描かれているので映画が安っぽくならなかったのがいい。なかなか楽しめる娯楽サスペンスのの佳作でした。面白かった。

