「てっぺんの向こうにあなたがいる」
世界最高峰エベレスト登頂に女性で初めて成功した田部井淳子をモデルにした物語ですが、今更ながら役者層の薄さは少し寂しい作品でした。実話を元にしていることもあり限界はあるのでしょうが、阪本順治監督作品にしては力強さがないし、映像に粘りを感じられず、主人公の迫力が見えなかったのはさすがに寂しかった。
1975年、世界最高峰エベレストの登頂に成功した多部純子が帰国して来て夫や子供に迎えられるところを実写映像を交えて描かれて映画は幕を開ける。華やかな記者会見などの場面の後、物語は2010年、病院で癌が見つかり余命三ヶ月と宣告される。しかし純子は、そんな事を気にもせず、旧友のジャーナリスト北山悦子を誘ってキャンプに行く。映画は2010年と1975年以降の若き日を繰り返し描きながら進んでいく。
1975年、女子登山クラブは次の目標にエベレストを目指すことにし資金集めに奔走していた。当時まだまだ男尊女卑の世界で、起業家たちも純子らの活動に否定的だった。そんな中、新聞社で働く北山悦子と知り合い、一気に前に進むことになる。そして登山決行、しかし途中雪崩やトラブルもあり、結局純子一人が頂上を目指し登頂に成功する。有名人となった純子だが、一緒に行った仲間は次第に彼女から離れていき、多部純子の息子というだけで、何かにつけ卑屈な思いを感じていた息子の真太郎は家を出て福島の高校に転校する。
2010年に余命宣告を受けた純子だが、山に登り続け、一年、二年と経っていく。そんな時東日本大震災が起こる。純子は残りの人生を賭けて、東北の高校生たちと富士山に登るプロジェクトを立ち上げ、一回目、二回目と活動を続けていく。しかし、間も無くして体力も次第に弱り、化学療法も難しくなり、脳への転移も確認され、ホスピスに移ることになる。それでも純子は最後まで山への思いを捨てることなく人生を全うして映画は終わる。
テレビスペシャルでも十分と思えるような作品で、吉永小百合を客寄せに使ったとしか思えない適当な脚本と配役、演出は寂しい限りで、何の感動も感慨に耽る事もない平凡な映画でした。なぜ実話のままにしなかったのかは疑問が残る一本でした。
