「第七のヴェール」
ブリティッシュノワール特集で全く知識のない作品だったが、メチャクチャに良かった。一人の女性を愛した三人の男のドラマがラストシーンで一気にひっくり返る様は爽快なほどに心を打ちます。ヒロインを演じたアン・トッドのピアノ演奏も素晴らしいけれど、一見翻弄されているかに見える男達にあまりの純真さとその陰に隠れた女性への独占欲を見せる演出が見事でした。面白かった。監督はコンプトン・ベネット。
病院のベッドでフランチェスカは突然ベッドを起き上がり、看護婦達の目を盗んで外に飛び出して橋の上から飛び降りる。通りかかった警官に助けられ病院に戻ったフランチェスカに、精神科医のラーセン博士が治療をすることになる。フランチェスカは有名なピアニストだった。ラーセンは、彼女に催眠効果を与え、心を閉ざした七つのヴェールを剥がしていく治療を始め、まず十四歳の彼女に心を引き戻す。
十四歳の時、フランチェスカは悪友のスーザンと虫取りに行き、授業に遅れて体罰で手を叩かれて午後からのコンサートの選考会に失敗してピアノを辞めた。そのあと父が死に、叔父のニコラスに引き取られたがニコラスは、過去に妻に逃げられ、その後女性を嫌い、フランチェスカにも冷たい態度だったが、独占欲が強くフランチェスカの自由を奪う。間も無くしてフランチェスカのピアノの才能を認めたニコラスは彼女を大学に行かせる。
フランチェスカはそこでピーターという青年と出会い恋に落ち、結婚を決めるが、ニコラスは許さず、そのままパリに連れて行って音楽教育を施す。そして七年が経ち、フランチェスカは一流のピアニストとなった。フランチェスカは、ピーターのことが忘れられず、ロンドンへ演奏に行った際ピーターを訪ねるがピーターは楽団を作り結婚もしていた。再会の夜、二人は出会った時のダンス曲で踊る。
フランチェスカは、ニコラスの知人のマックスに肖像画を描いてもらうことにする。やがてマックスはフランチェスカに恋をし、結婚を考えるが、ニコラスは大反対してフランチェスカを部屋に閉じ込める。フランチェスカは限界を感じ、コンサートツアーに連れ出そうとするニコラスを無視しマックスと車で逃げるが途中で事故を起こし病院に担ぎ込まれる。両手に軽傷を負ったがフランチェスカの心の傷は癒えずそのままピアノは弾けなくなる。そして冒頭の場面となる。
ラーセン博士は彼女に暗示をかけて、彼女の演奏したレコードを聞かせてピアノを弾かせようとするがうまくいかない。間も無くしてマックスは強引にフランチェスカを退院させ自宅に引き取る。ラーセンはこのままではフランチェスカは回復しないと考えニコラスに頼んで再度フランチェスカを治療することにする。ラーセンはピーターを訪ね、かつてピーターと出会った頃に踊ったダンス曲のレコードを準備させて、フランチェスカに聞かせる。
階下ではニコラス、マックス、ピーターが治療の流れを待っていた。やがてレコードが終わり、フランチェスカは自身でピアノを弾き始める。そして部屋から出てくる。ラーセンは待っていた三人の男性に、彼女が本当に信頼している男性の元へ行くはずだからと部屋を出ていく。フランチェスカが部屋を出てきて、携ついたのはニコラスだった。こうして映画は終わる。
ストーリー展開のリズムも見事だし、一見純粋に愛しているようで実は独占しただけという男のエゴが見え隠れする三人の姿、そしてラストのどんでん返しに拍手してなぜか感動してしまいました。隠れた名作とはこういう作品を言うのでしょうか、本当に良かった。
「青の恐怖」
めちゃくちゃ面白かった。少々ミスリードが多すぎて混乱してしまうのですが、ラストの鮮やかさとどんでん返しに拍手したい一本でした。監督はシドニー・ギリアット。
ロンドン警視庁へ殺人の告白文が届く。郵便配達のヒギンズが道を走っている場面から映画は幕を開ける。そして彼が最初の犠牲者となるというナレーションが入る。空にはドイツのV 1ロケットが飛び交う。手術室でイーデン医師、バーンズ医師、看護婦のウッズ、リンレイ、エスター、婦長のベイツらがいてその名前が紹介される。ヒギンズが職場に戻るとV 1ロケットが落ちて天井が崩れてヒギンズは病院へ、そして手術されるが、麻酔の酸素ボンベが開いた途端体調が急変して死んでしまう。
コックリル警部が捜査に派遣される。バーンズ医師とリンレイ看護婦は婚約していたが、すれ違いから婚約破棄に至っている。プレイボーイのイーデン医師はリンレイといい仲になっている。バーンズ医師とイーデン医師は何かにつけて争っている。手術に立ち会ったベイツ婦長は、ヒギンズの死は他殺であり、証拠も握っていると公言、ところが、ベイツ婦長が手術のナイフで二箇所刺されて殺される。さらに薬棚から毒薬が4錠消えていた。コックリル警部は捜査を続けて、ヒギンズの手術に立ち会った人物を容疑者として絞っていく。
そんな時、殺されたベイツ婦長がきていた手術着の破れた跡がおかしいとリンレイはバーンズ医師たちの前で話そうとするが、直接警部に行ったほうがいいと言われ口をつぐむ。直後、眠っていたリンレイの仮眠室にガスが注入され危うく殺されそうになる。助けたのは看護婦のエスターだった。
コックリル警部はリンレイが重症で手術をする必要があると嘘の状況を作り、ヒギンズと同じ状況の手術を準備させる。そして手術が始まるとヒギンズ同様にリンレイの容態も急変、急遽酸素ボンベが入れ替えられ、コックリル警部は酸素ボンベが炭酸ガスのボンベと入れ替えられているという真相を説明、そしてイーデン医師に詰め寄るがイーデン医師は注射器に何やら薬品を入れ、看護婦のエスターに襲いかかり隣室にに閉じこもる。
コックリル警部らが突入して、バーンズ医師の注射器を取り上げるが直後エスターは死んでしまう。バーンズ医師は、自分が打とうとしていたのは解毒剤で、エスターは口に毒薬を含んでいたのだという。そしてコックリル警部が注射器を取り上げたので死んだのだという。犯人はエスターだった。ヒギンズは自分の両親を見殺しにしたと逆恨みをしていた。その真相を知った婦長もなきものにしたのだ。コックリル警部は自身のミスを反省する一人セリフで映画は終わる。
終盤までのアレやこれやがかなり凝っているので、ラストまで真犯人は全くわからない。ラストのどんでん返しも鮮やかですが、かなり強引な展開とは言え、映画の面白さを凝縮した作りになっている。面白かった。
「旅人の必需品」
カタコトの英語と韓国語、フランス語を交えて、異文化の歪みを淡々とした会話劇で描く不思議なコメディ作品。監督はホン・サンス。
テーブルでフランス人のイリスが一人の女性と対峙している場面から映画は幕を開ける。どうやらイリスはこの女性にフランス語を教えているらしいが、会話は英語である。そしてイリスがフランス語でメモを書いて彼女に手渡す。彼女はピアノを弾くと言って席を立ち、イリスはベランダに出て、ピアノを弾き終えた女性に英語で気持ちを言わせてそれをフランス語にする。
イリスが歩いているとウォンジュという女性が声をかける。ウォンジュは会社を経営しているらしく夫で映画会社の社長と一緒にイリスはマッコリを飲みながら対話をする。英語で話し、それをフランス語に変えてメモを渡し報酬を得るイリスにウォンジュは、自分たちはまるで新しいフランス語の教え方を試すモルモット見たいねと皮肉を言う。
イリスは友人で、同居しているイングクの家に帰ってくる。この地に旅行に来たイリスは、公園でリコーダーを吹いているところをイングクと知り合ったらしい。恋人同士というわけでもなく、イングクは詩を書いている。そこへ突然イングクの母が訪ねてくる。イングクは慌てるがイリスはさりげなく家を出ていく。イングクの母はイリスが何者かもわからず、その上で同居しているイングクを責める。西洋風の食事ばかりしているイングクを問い詰め、チゲ鍋を拵え、生活費の金額などを聞く。一方、帰りづらいままのイリスは公園で過ごしていると、イングクがやってきてイリスと一緒に帰って映画は終わる。
セリフの端々に、不可思議なフランス人イリスの姿が見えるようで見えないままに物語が展開していく。そこに何らかのメッセージも何もないのですが。どこか不可思議な歪みが見える。共通の言葉として話す英語はお互いに片言だし、と言ってフランス語を流暢に話す場面もない。そんな不思議な空気感に包まれる映画だった。


