「兄を持ち運べるサイズに」
独特のユーモアと表現で描いていくニ組の家族の物語。ストーリー全体はファンタジーのような色合いで、そのほのぼのした雰囲気がいつの間にか心の中に暖かい何かを醸し出してくる秀作でした。とっても良かった。監督は中野量太。
一人の少年良一が勉強机で勉強をしている場面から映画は幕を開ける。足元にある一冊の本を見つけてページを開くと場面が変わり、愛知県、エッセイストで作家の理子がパソコンに向かっている姿になる。そこに電話がかかる。とってみると多賀城市の警察からでお兄さんが急死したという。理子は兄からのメールを何も開いていなかったが久しぶりに開くと、給湯器が爆発しただの息子の良一にピアノを習わせたいだの、酔って生活費を募金してしまっただのいかにも嘘八百を並べての金の無心だった。兄は母に可愛がられ一緒に住んでいたが、母が膵臓癌だとわかると家を飛び出し、母が亡くなる葬儀の日に戻ってきて号泣した後理子に金の無心をして出て行ったきり、そんなどうしようもない男だった。
警察署から遺体を引き取って欲しいと言われ、理子は4日後に向かうと返事をするが、双子の息子たちは、なるべく早くいく方がいいと言う。理子は目の前の仕事を片付け、著書のイベントに出席した後東北に向かう。
駅に着いたら、兄の元妻加奈子、娘の満里奈と出会う。三人で警察署に行き、葬儀の準備を進め、兄が住んでいたアパートへ行くが、そこはゴミ屋敷のようだった。兄と暮らしていた良一は児童養護施設で引き取っている。葬儀の場で理子らは良一と出会う。理子達はまず兄のアパートの片付けを始めるが、兄からのメールの色々が実は嘘ではなかったことが見えてくる。
片付けが終わり、兄も遺骨になり、良一を迎えに行った理子や加奈子の前に、お互いに知らなかった兄の姿が見え隠れし始める。幼い頃、両親が仕事で遅くなり寂しい思いをする理子に兄は自転車で両親の仕事場に連れて行き、帰りに二人乗りを巡査に注意されて適当な嘘をつく兄を思い出す。良一が父と行った岸壁の麒麟を見たり、図書館併設のフードコートで食事をしたり、募金箱があったり、と色々を確認して、良一は最後に家に行きたいと言うので四人で向かう。
理子の前には兄が時々現れていた。それに気づいた加奈子が、自分も会いたいと言い、順番にアパートに入って、良一は焼きそばを作る父の姿を見、加奈子はプロポーズした時のタキシード姿の兄を見、理子は、就職したと言って警備員の服を着る兄に出会う。そして、もし理子と兄の立場が違ったら、自分は理子を全力で助けると言う。
良一を一旦施設に引き渡し、帰路に着く電車の中で、理子は加奈子に遺骨の一部をもらって欲しいと手渡す。帰ってきた理子は息子達に出迎えられ、足を骨折した夫と出会う。夫は、心配かけたくなかったから電話で伝えなかったと言うが、理子は家族にはなんでも話して欲しいと泣き崩れる。こうして映画は終わる。
散りばめられるユーモアが次第に暖かい愛のドラマに変わり、どうしようもない兄がいつの間にか愛くるしいほどに可愛らしく見えてくると、周りの人たちの本当を事をみんな知らないのではないかとなんとも言えないほのぼのした気持ちが見ている私たちに湧き上がってくる。なぜか見た後、心が穏やかになってしまうそんなとってもいい映画だった。
「ナイトフラワー」
徹底的に暗くて辛い映画だった。観客の判断ですが、私はラストシーンに希望が見えるとも思えない。物語の作りはそれほど優れたようにも思えないし、二人の主人公の追い詰められた緊張感も後一歩物足りない。流石に子供二人の路上ライブはちょっと時代錯誤に見えなくもない。どこか一点に徹底されたものが不足している感じで、みゆきのエピソードまで必要だったのかと思うが、それがラストを暗示するものであるならと考えると、全体に無理がかかっている気がします。クオリティはまあまあと言う一本でした。監督は内田英治。
借金取りに追われて東京に逃げてきた夏希のアップから映画は幕を開ける。二人の子供を育て、安っぽいスナックでママに良いように使われて客の酒を飲まされ、昼は地球儀のシール貼りと言う仕事、さらにラブホテルの仕事まで掛け持ちして働くが全く生活がままならない。下の息子はまだ幼くやんちゃで、姉は学校でいじめられ、バイオリンが好きで、ボランティアまがいの教室に通っている。
ある夜、夏希が仕事の帰りに気分が悪くなり路地にうずくまっていると、近くを違法ドラッグの売人が客に薬を高額で売っている現場に出会う。さらにその売人はチンピラに襲われて金を取られ気絶させられる。夏希はその男のポケットからドラッグを盗みその場を逃げる。
ここに、格闘家でこの日も試合をしている多摩恵は、試合に勝利するがジムのオーナーはギャンブル好きでジムの経営がままならない。多摩恵は格闘家として過ごす一方でデリヘルで働いている。多摩恵の同僚池田はそんな多摩恵を密かに恋している。
夏希はドラッグを自宅に持ち帰り隠していたが、さらに息子が保育園で友達に怪我をさせたり、地球儀貼りの仕事を首になり追い詰められる結果になり、隠していたがドラッグを街で捌いてしまう。しかしその現場を地元の売人組織に見つかりリンチされてしまう。たまたまその現場に居合わせた多摩恵は、夏希の境遇を知り、自分が夏希を守ることにし、池田を通じて売人グループのリーダーサトウに接触し、本格的に売人になることを決意する。
ここに、裕福な家庭で育った星崎家の一人娘はドラッグ中毒の友達に誘われ夜の街を徘徊するようになっていた。父親は娘のことは妻みゆきに任せきりで、みゆきは切羽詰まって刑事上がりの探偵岩倉を雇う。
夏希と多摩恵の仕事はそれなりに順調に行き、子供達にも生活にも安定してくる。子供達も多摩恵になつくようになって、一見平和な日々が続くが、息子が保育園で友達に大怪我させて賠償事件に発展、夏希はさらに追い詰められて、ドラッグの取扱量を増やして欲しいとサトウに申し出る。多摩恵のジムのオーナーはギャンブルで借金を抱え夜逃げしてしまう。しかし、たまたま大きな試合に欠員が出て多摩恵は元チャンピオンの選手との試合が決まる。
夏希はドラッグを自宅に隠していたが、息子が見つけておもちゃにして遊んでいる現場に夏希は遭遇する。さらに、星崎家の娘はうろついているところを警察官に尋問され、逃げる途中で交通事故に遭い死んでしまう。追い詰められたみゆきは岩倉に頼んでピストルを手に入れる。ドラッグの客が交通事故で死んだことで、その売人だった夏希と多摩恵に警察の捜査が及ぶとサトウは危惧、二人を始末することを考える。
多摩恵の試合は、善戦したものの結局負けてしまう。そんな多摩恵に夏希は、みんなで旅行しようと提案する。サトウらの一味は自分たちに火の粉がかからないように、池田をリンチし、多摩恵のところにも手下がやってくる。しかし、最後のトドメを刺そうとしたところでサトウが現れる。みゆきはピストルを持って夏希のアパートにやってくるが、部屋を見上げているところへバイオリンの稽古帰りの夏希の娘に声をかけられる。その娘にみゆきはピストルを向ける。夏希の部屋では、夏希と息子で旅行の準備が進んでいた。外でピストルの音が聞こえる。間も無くして玄関のチャイムが鳴り、玄関に行く息子を夏希は必死で止めるが、ドアを開けて入ってきたのは多摩恵と娘だった。そして四人で抱き合って映画は終わる。
私の解釈が正しいかどうかわからないけれど、多摩恵はサトウらに殺され、夏希の娘もみゆきに殺され、玄関に行った息子もみゆきに殺され、おそらく夏希も殺されたのではないかと思う。最後の四人の笑う姿は幻なのだろうと思います。
とにかく、何もかもが辛辣で、社会の底辺に生きる家族のドラマと言えるのですが、どうにも辛いだけの映画だった。

