「佐藤さんと佐藤さん」
無神経で鈍感な女を演じると天下一品の岸井ゆきのの存在感が際立つ一本。終始ヒロインサチと好対照なタモツの延々としたすれ違いをひたすら描く筆致はなかなか見応えがあるが、男性としてはかなりストレスになる一本だった。しかし、ストーリー構成と終盤の締めくくりの切なさはなかなか良くできた作品でした。監督は天野千尋。
妻が何も家事をしないで子供の世話も自分に任せきりだという若い夫の言葉を聞くサチの姿、37というテロップと共に弁護士をしているサチが出てくるところから映画は幕を開ける。ここから22というテロップに戻ってサチがタモツと大学で知り合う自転車置き場での場面に遡る。数字のテロップはどうやらサチの年齢を表しているらしい。アウトドア派で明るいサチは、正義感が強く真面目なインドア派のタモツと自転車置き場で知り合い意気投合する。
間も無くして二人は付き合い、一緒に暮らすようになる。そして5年が経つ。弁護士を目指すタモツは司法試験にチャレンジするも今年も不合格だった。そんなタモツをサチは必死で支える。しかし、サチは、友人のアドバイスで、同じように目標を持つ人がそばにいる方がいいのではないかと言われ、サチも司法試験の勉強を始める。ところが、サチは次の司法試験で一発合格してしまう。タモツはその年も落ちてしまい、サチはそのまま弁護士として活動するようになる。
複雑な思いのままタモツとサチは暮らし続けるが、そんな中、サチが妊娠、二人は結婚することになる。出産後もサチは育休も取らずに弁護士の仕事をし、タモツは塾のバイトをしながら息子の世話をする生活になる。そんなタモツに、悪気はないものの無神経に聞こえるような言葉や態度を見せるサチにタモツは次第に苛立ちを感じ始め、二人のバランスは微妙に崩れ始める。
田舎に戻り、実家の農家を手伝うタモツは、幼馴染に誘われてNPO法人を始めるとサチにいうが、それは逃げだからと言われる。タモツは考え抜いた末、実家でサチと三人で暮らそうと提案する。しかし、サチは、司法試験を受けるのが嫌なだけではないかと告げる。サチは仕事では、夫の横暴に耐えられない妻の離婚訴訟や、妻が何もせず、子供の世話も全てこなしてきた夫の離婚訴訟の仕事を受けていた、
再び二人は一緒に暮らし始めるが、ある日、保育園で息子が園児に怪我をさせ、サチとタモツが駆けつけた際、早々に処理してしまおうとするサチと冷静に判断しようとするタモツの間についに確執が表に出てしまう。そして、離婚しようということになるが、サチは今のままで養育費払えるのかと詰め寄り、タモツはそれなら司法試験に合格したら離婚しようと断言する。
そしてタモツは猛勉強し、ついに司法試験に合格する。親戚が集まりタモツの合格祝いの席が設けられる。最後に一言と促されたタモツは、サチとの離婚を発表しようとしてサチに外に連れ出される。そして冒頭の場面、サチが自転車置き場にやってくると、弁護士になったタモツが現れる。どうやら息子の養育を三ヶ月交代でしているらしく、息子に会いたくてたまらないというサチにタモツは、早いけれどバトンタッチしようと提案し走り去る。一人残ったサチは、その場に泣き崩れてしまう。こうして映画は終わる。
おそらく、養育権はタモツに行ったのだろう。サチが扱っている離婚訴訟の原因がサチの生活そのままだったのに、サチは自分のことには気が付かないまま、タモツと破綻したのではないかと思う。女性監督なので、女性への辛辣な視点だと判断してもいいのではないかとこう解釈しました。さりげなく繰り返す離婚調停の場面とサチとタモツの現実の交錯が実に上手い脚本で、内容は自分の好みではないものの、なかなかの佳作だった。
