「黒の牛」
禅に伝わる悟りまでの道程を十枚の牛の絵で描いた「十牛図」に着想を得て作られた作品。特に物語があるわけでもないいわゆる映像詩。フィルム撮影で描く奥深い画面がとにかく美しく、これというセリフも聞こえてこないけれど、主人公の男と牛の心の交わり、自然の脅威、時の流れが切々と伝わって来ます。クオリティの高いいい作品だった。監督は鳶哲一朗。
山が焼かれている映像から、テロップが流れ、山が国有化されるにあたって、反対した村人達は山を焼いて麓の村に移り住んだと語られて映画は始まる。村がなくなり放浪の身となった一人の男は、ある時、主人を亡くし一人ぼっちになった一頭の牛を見つけて連れ帰る。そして人里離れた家で、牛と暮らし始める。
ある時、通りがかりの禅僧と出会う。禅僧の勧めもあり、牛で田を耕すようになり、村人達の要請で牛を貸し出したりするようになる中、男と牛は心を通わせていく。しかし、村人に牛を貸したが、死んでしまったと告げられる。牛がいた牛小屋で一人寂しさを噛み締める男。時が流れ、場面が変わると、海辺の草牧地、一頭の子牛がいる。海の彼方で大爆発が起こり、子牛は亡くなってしまうが、新たな牛達がこの地にやってくる。こうして映画は終わる。エンドクレジットの後、十枚目の牛の絵で、劇場を出て元の世界に戻ると出て暗転。
映像から伝わってくるものを感じ取っていく作品で、終盤までモノクロスタンダードだが、終盤、ワイドスクリーンになりカラーになって終わる。セリフもほとんど聞こえないが、なぜか牛が語りかけてくるような錯覚に陥るほどに映像の語りが圧巻。良い作品でした。
