「水の中で」
全編ピンボケ映像で綴った一人の青年の切ない恋の物語という感じの作品だった。60分ほどの中編作品で、淡々と進むいつもの会話劇が、それとなく主人公の過去に愛した女性への想いへと昇華して行く展開がどこか切ない。ピンボケが、主人公の心の心象風景なのだろう。やや技巧的なのが少し気になるけれど、いい映画だった。監督はホン・サンス。
映画を撮ろうとソンモは後輩のナミを女優として、サングクをカメラマンとして依頼して済州島にやって来た。サングクが、岸辺で貝を拾おうとしているソンモに声をかけるところから映画は幕を開ける。海のそばにあるコテージに泊まって、ソンモは作品のイメージを膨らませて行く。路地を見てみたり、海岸を見てみたりしているが、そんなソンモのそばでナミとサングクは親しく会話をしている。
ソンモは、岸壁でゴミ拾いをしている女性を見かけて、一人で声をかけに行く。間もなくして、ソンモはその女性をモチーフにした作品にしようと考え、ナミにゴミを拾う女性を演じてもらい、彼女に声をかける青年をソンモ自身が演じる。背後に流す音楽にソンモは、元カノ?ヨンホに電話をして了解を得る。その曲は、かつてヨンホの誕生日にプレゼントしたものだった。映画の中の青年は、ゴミを拾う女性に惹かれ、好きになり、後を追って行くが女性はそっけない。そしてラスト、青年は一人海に入って行く姿をカメラが延々と捉える。海に消えるソンモの姿で映画は終わる。
例によっての会話劇ですが、終盤になって少しづつ物語が動いて行く様がどこか切ない。全編ピンボケにしたのは、自分の気持ちがはっきりしない主人公の心と、撮影する物語の骨格がまだ曖昧なままという様子を表現したものでしょうか。中編ながら、ちょっと面白い一本だった。
「ザ・ブライド!」
期待以上の大傑作だった。ホラー映画の傑作「フランケンシュタインの花嫁」のリメイクであるが、映像がぶっ飛んでいるし、大画面にふさわしい壮大なダンスシーンやレトロな街並みを描くカメラが素晴らしい。しかも、粋な展開の背後に、女性蔑視を糾弾する当時の世相の姿も垣間見せ、そしてラストは一気に胸に迫り感動を生み出してくれる。娯楽性、テーマ性、映像、それぞれしっかりと組み合わされた完成度が素晴らしい一本でした。監督はマギー・ギレンホール。
「フランケンシュタインの怪物」を書いたメアリー・シェリーのアップから映画は幕を開ける。メアリー・シェリーが執筆した頃は女性が作家になる事さえ御法度な男性社会、その鬱憤を百年以上経って晴らすべく呪っている姿から場面が変わると、酒場で男と酔い潰れて叫んでいるアイダの姿に変わる。散々男を罵倒し、言いたい放題に暴言を吐き、近くにいるマフィアのボスルピーノにさえ罵声を浴びせて顔を曇らせる。そんなアイダにメアリー・シェリーが取り憑いたように次々と文学的な単語が怒涛のようにアイダの口を借りで溢れ出る。手のつけられなくなったアイダを男たちが外に連れ出すが、散々暴れた末、アイダは一人の男に階段から突き落とされて死んでしまう。
シカゴ、一人の男がユーフォロニウス博士の元を訪れる。彼の名はフランケンシュタイン。十九世紀初め、人造人間としてこの世に生まれ代わった怪物である。百年以上生きて来た彼は孤独を感じていた。そしてユーフォロニウス博士に伴侶を作ってほしいとやって来たのだ。実はユーフォロニウス博士は、人間創造の実験に成功していた。フランケンシュタインの要望で、墓場から一人の女の死体を掘り起こして研究室に運び、電気装置で彼女を甦らせる。それはアイダだった。
死んだ時にできた血糊のあざが口元から広がる容貌のアイダは、最初は生き返った事さえ気が付かず、名前もわからなかった。フランケンシュタインは、彼女にペネロペ・ロジャース、ペニーと名付ける。真摯に向き合ってくるフランケンシュタイに、次第にペニーは心を開き二人で酒場へ出かける。その帰り、ペニーに絡んで来たチンピラ二人をフランケンシュタインが惨殺したため、警察に追われることになる。
フランケンシュタインは、自分だけ逃げればいいと荷物を持ち出すが、ペニーは行き場もないとフランケンシュタインと同行するようになる。二人は列車に忍び込んでニューヨークへ向かう。ペニーは、メアリー・シェリーが憑依すると突然叫び出し、洪水のように単語を発するので、警官に見つかってしまうが、ペニーはその警官も列車からつき落としてしまう。
惨殺事件を追うジェイク刑事とミルナ刑事は、フランケンシュタインが、映画俳優ロニー・リードの映画が好きな事を突き止め、映画館に出没するであろうと推測して捜査を進める。ニューヨークについたフランケンシュタインとペニーは、ロニー・リード主演の映画を見ようと入りかけるが、すんでのところでペニーが隣の映画館に誘う。実はロニー・リードの映画をかけている映画館にはジェイクらが張っていた。
フランケンシュタインとペニーが入った映画館で、ペニーが突然メアリー・シェリーが取りついて叫び始めたので観客に見つかり逃げ出すことになる。そして映画館を出て飛び込んだところはパーティ会場で、そこでフランケンシュタインは、憧れのロニー・リードに出会う。大ファンである事を告げたがロニーは迷惑そうだった。苦境を見たペニーはいきなりダンスを始め、やがて会場内はペニーのダンスが乗り移ったように大乱舞となる。そこへジェイクらが突入。ペニーはジェイクの姿に見覚えを感じ、ジェイクもペニーの顔に覚えがあった。
実は、ジェイクは、ルピーノ捜査の際、ルピーノのエスコート嬢だったアイダを通じて情報を得ていたが、捜査が終了、その後、ジェイクはアイダと関係を持ったのだ。パーティ会場を出たフランケンシュタインとペニーはその後も逃亡を続けるが、パーティ会場でのダンスが女性達を感化し、ペニーの顔の化粧をした女達が、女性蔑視をする男達に反旗をひるがえし世間を混乱させていった。
ジェイクは、ことの次第をミルナに話し、自分の後任の刑事にミルナを推薦して自分は辞めると告白する。ミルナは単身、フランケンシュタインらを追って行く。フランケンシュタイン達は逃亡の途中でハイウェイパトロールに止められるが、保安官がペニーを凌辱しようとしたのでフランケンシュタインが撃ち殺す。
フランケンシュタインとペニーはドライブインシアターにやって来る。そこでフランケンシュタインはペニーに正式にプロポーズし、ペニーは自分の名をザ・ブライドと呼ぶことにする。ところが、ザ・ブライドにひざまづいたフランケンシュタインの頭を警察の銃が撃ち抜き、フランケンシュタインは倒れてしまう。
一方、ルピーノは、死んだはずのアイダが裏情報をあちこちでしゃべっている事を危惧して、クライドというチンピラにアイダの舌を切って来るように依頼する。フランケンシュタインの体を車に乗せたザ・ブライドは、蘇生するべくユーフォロニウス博士の元へ走る。二人がユーフォロニウス博士の元へ向かうと推測したミルナも博士の元へ向かう。
ユーフォロニウス博士の研究室についたザ・ブライドは、フランケンシュタインの遺体を運び込み、蘇生してほしいと頼むが、そこへ警官隊が突入、ザ・ブライドも蜂の巣に撃たれて死んでしまう。ミルナも駆け込んだが間に合わず、全てが終わった後、自分は刑事だとバッジを示した上で警官達を外に追い出し、博士らだけにしてミルナも部屋を出る。外では、クライドが警官に逮捕されていて、研究室からは閃光が走る。研究室、しっかり繋いだフランケンシュタインとザ・ブライドの手が動いて映画は終わる。
フランケンシュタインが、ロニー・リードの映画が好きで、行く先々で映画館に足を運ぶのがとにかくいいスパイスになっているし、「俺たちに明日はない」を意識したフランケンシュタインとザ・ブライドの逃亡劇、そしてラストでザ・ブライドが蜂の巣に撃たれるクライマックスも良い。さらにミルナの粋な計らいも映画らしくて嬉しくなってしまう。フランケンシュタイン達の恋が成就したかのラストも胸を打たれてしまいました。傑作だった。
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