くらのすけの映画日記

大阪の社会人サークル「映画マニアの映画倶楽部シネマラムール」管理人の映画鑑賞日記です。 あくまで忘備録としての個人BLOGであり、見た直後の感想を書き込んでいるので、ラストシーンまで書いています。ご了承ください

映画感想「ハムネット」

「ハムネット」

西洋のお話ですが東洋的な演出が施されて、ややシュールな映像やカメラワークを繰り返すのはやはり監督の色でしょうか。息子を失った母の再生のドラマを、時に一気に暗転させる画面を交錯させ、時に一瞬過去の場面に戻るカットを挿入した構成、さらに、魂が現世を見下ろしているかのような俯瞰で捉える構図の数々が独特の空気感を生み出している作品でした。この叙情的な演出がアカデミー賞を逃したのかもしれませんが、非常にクオリティの高い一本だったと思います。監督はクロエ・ジャオ。

 

森の中、大木の根元に巨大な祠のような穴があり、その傍でうずくまる赤い服を着たアグネスを見下ろす俯瞰のカメラから映画は幕を開ける。手に手袋をつけてその手をかざすと鷹が舞い降りてくる。薬草の知識を豊富に持ち、頻繁に森に出入りするアグネスは、魔女とも近所では呼ばれていた。森から帰ってきたアグネスをラテン語を教えている一人の男ウィリアムが見下ろしている。そしてアグネスのところへ行き強引にキスを迫る。

 

ウィリアムの家族はアグネスと関わるのを嫌っていたが、ウイリアムとアグネスは親しくなり間もなくしてアグネスは妊娠、ウィリアムは彼女と結婚することを決めてしまう。アグネスは、幼い頃に母を亡くし、継母に育てられていたが、妊娠したことで家を追い出され、ウィリアムの家族のもとにやってきた。やがて、アグネスは森で長女スザンナを産み落とす。

 

手袋職人の父ジョンのもとで修行をするウィリアムだったが、どうにも拉致が開かず、このままでは壊れてしまうと考えたアグネスはロンドンへ行くように勧める。ウィリアムはそこで劇団の仕事を請け負うが、やがて作家として生計を立て始める。ウィリアムがロンドンへ旅立つ直前、アグネスは次の子供を妊娠していた。そして、次男ハムネットが生まれるが、双子出産で、続いてジュディスが生まれる。一時は泣き声を発せず、死んだかと思われたが、アグネスの必死の思いが通じたのかジュディスも息を吹き返す。

 

ジュディスとハムネットは常に仲が良かったが、たまに戻ってきたウィリアムは、ハムネットに剣術を教えたりし、母や娘たちを守るようにと言い残してロンドンへ旅立った。ある時、ハムネットはジュディスの異変に気がつく。森から戻ったアグネスがジュディスの容態に驚く。当時大流行していたペストだった。アグネスは自身の知識を総動員して必死に看病し、容態は落ち着いたものの、かなりの危篤状態だった。そんなジュディスのベッドにハムネットがやってきて、ジュディスの寝ているところに潜り込み、死神がジュディスをハムネットと間違えるようにと祈りながら眠ってしまう。

 

傍で寝ていたアグネスが、ハムネットがジュディスに顔を埋めているのに気がつき、慌てて引き離すが、ハムネットもペストに感染して苦しんでいた。一方ジュディスは山を超えたようで、落ち着いていた。アグネスは、必死でハムネットを介抱すりが間もなくして亡くなってしまう。ジュディスの危急を聞いて戻ってきたウィリアムは、ジュディスの元気な姿に歓喜するが、傍にハムネットの遺体があって愕然とする。

 

ウィリアムは、失意のどん底にいるアグネスを残してロンドンへ戻るというがアグネスはそんな夫を罵倒する。ハムネットの死に打ちのめされたウィリアムは、戯曲ハムレットを完成させる。その知らせがアグネスの元へも届く。スザンナは、受け入れられない母に、見てみてはどうかと勧める。気乗りしないまま「ハムレット」の舞台を見にきたアグネスが、物語の最後、ハムレットを演じた役者に思わず手を差し伸べ、続いて観客らが手を差し伸べる。舞台上で息を引き取ったハムレットを見つめるアグネスの視線の先に、ハムネットが重なっていく。そして、旅立っていくハムネットをようやく理解したアグネスは、前に進むことができるようになって暗転、映画は終わる。

 

かなり心象風景や、場面と場面の行間を感じ取っていかないといけない作りになっているので、若干、終盤はしんどくなるのだが、それでも、アグネスを演じたジェシー・バックリーの迫真の演技が観客の目を釘付けにするので、ラストまで引きつけてくれます。優れた映画ですが、非常に東洋的宗教感の漂う一本でした。