「不貞の女」
全編心理サスペンスの傑作。シンプルなストーリーですが、カメラワーク、BGM、登場人物のクローズアップと視線、さまざまな映像演出を駆使して不穏な空気感を醸し出していく様が実にうまい。流石に監督の才能を思わせる映画でした。監督はクロード・シャブロル。
パリ郊外の閑静な住宅地、実業家の夫シャルルと美しい妻エレーヌ、息子のミシェルが仲睦まじく過ごしている姿から映画は幕を開ける。しかし、実はシャルルは、頻繁にパリに遊びにいくエレーヌの行動に不信感を抱いていた。この日もエステに行くと言っていたが、会社から店に電話をしたらいない。家に戻ると、さりげなく会話を交わされるシャルルは、知り合いの探偵に、エレーヌの行動を調べることを依頼する。
探偵の報告から、エレーヌは頻繁にパリの住む作家のペガラと会っておることが判明、その写真と裏に書いたメモ書を手渡される。その後も、シャルルはエレーヌの行動を意識する。一方、そんなこととは知らないエレーヌはこの日もペガラとベッドを共にし、しばしのアバンチュールを楽しんで帰宅した。そんなエレーヌに、精一杯に出迎えるシャルルだった。
雨の日、シャルルはエレーヌがペガラの部屋に行く現場を目撃するが、家に帰ってくるエレーヌの姿は、いつもと変わりなかった。シャルルは後日、ペガラの家を訪ねる。自分はエレーヌの夫だと正面から臨んだシャルルだったが、最初は冷静に接していたものの、寝室を見せられて、感情が昂り、発作的にテーブルの置物でペガラを殴り殺してしまう。
シャルルは、床に流れた血を掃除し、指紋を拭き取り、シーツに遺体を包んで車のトランクに乗せて走り去る。ところが途中でトラックに追突され事故に遭ってしまう。何とかその場を切り抜けたシャルルは森の奥の沼地に行き、ペガラの遺体を沈める。いつもと変わりない日々が戻ったように見えたが、エレーヌもシャルルもどこか苛立っていて、そんな雰囲気の両親を見つめるミシェルは、両親につっかかってしまう。
数日後、エレーヌが家に一人でいるところに二人の刑事が現れ、ペガラという作家が行方不明だが、手帳にエレーヌの住所と名前があったので捜査しにきたと話を聞く。エレーヌは、名前は知っているがそれほど親しくないと答えるが。深夜再び刑事がやってきて、帰宅していたシャルルにも事情聴取する。シャルルは、ペガラという人物も知らないと答える。
翌日、エレーヌはシャルルの上着からペガラの写真とメモ書きを見つける。全てを知ったエレーヌは火をつけて燃やしてしまう。しかし、間も無くして二人の刑事が現れる。シャルルはエレーヌに、「愛している」と告げてエレーヌとミシェルの元を去り刑事のところへ行く。何やら話をしていたシャルルは、振り返ってエレーヌたちに視線を送り、シャルルの一人称カメラになりゆっくり映画は終わる。
これという仰々しいあざとい演出は皆無で、淡々と不気味な空気を映像だけで表現していくタッチが恐ろしく秀逸。大傑作とかいう大袈裟な表現で語るような作品ではないけれど、独特のハイクオリティを見せつけられる映画だった。
「肉屋」
赤=血を基調にした心理サスペンス。全編に漂う不気味さはいつもの色で面白いのですが、真犯人につながるミスリードの小道具が少々わざとらしいのがちょっと勿体無い。でも、監督の個性が光る演出は十分に楽しめる一本だった。監督はクロード・シャブロル。
片田舎、料理人らがこれから行われる村の青年レオンの結婚披露宴の支度に向かうところから映画は幕を開ける。レオンはこの村の小学校の教師で、披露宴には小学校の若き校長エレーヌと、彼女に思いを寄せる肉屋のポポールも出席していた。やがて披露宴も終わり、学校でもいつもの授業が始まっていたが、森で女性が殺される事件が起こる。
村中に警察を見かけるようになり村人は不安な日々を送っていた。他人事と気にもかけず、エレーヌはポポールをキノコ狩りに誘う。その日はポポールの誕生日で、エレーヌはライターをプレゼントした。数日後、小学校の遠足が行われて、エレーヌは生徒たちを連れて森を散策し、崖の上で弁当を食べ始めたが、一人の少女のパンに赤いものが降りかかってくる。それは明らかに血だった。エレーヌが崖の頂に登るとそこに惨殺された女性の遺体があった。さらに、傍にエレーヌがポポールにプレゼントしたライターが落ちていたので、エレーヌは慌ててポケットに仕舞い込む。殺されたのはレオンの妻だった。
間も無くして、刑事がエレーヌのところに捜査にやって来るが、エレーヌはライターのことは話さなかった。しばらくして、ポポールがいつものようにエレーヌの家を訪ね、お土産を渡したいと部屋に入れてくれるように言う。エレーヌは不安だったがポポールを部屋に入れ、何気なくタバコを取り出すと、ポポールは先日エレーヌにもらったライターを出す。エレーヌは取り越し苦労だったと知り、思わず泣き笑いしてしまう。
エレーヌの部屋の天井の修理をポポールに頼んでいて、この日、修理にポポールがやってきた。エレーヌは、生徒のミシェルが数学の問題をしているのを残して、買い物に出かける。ポポールは、ペンキを床にこぼしてしまい、拭き取るための布を探していて引き出しを開けてライターを見つける。ポポールはそのライターをポケットに仕舞い込む。そこへエレーヌが帰って来る。また殺人事件が起こったのだと言う。ポポールは残りは明日作業するからとその日は帰る。
エレーヌは、何気なく引き出しを開けるとライターが消えていた。エレーヌは、ポポールが犯人だと確信し、ミシェルを家に帰し、戸締りをするが、そこへポポールが戻って来る。エレーヌは、家に入れるのを拒むが、空いていた納屋からポポールは入ってきて、殺人に使ったナイフでエレーヌに迫る。しかし、ポポールは自身の胸をナイフで刺して倒れる。
エレーヌはポポールを病院に連れていくべく車に乗せる。病院について医師らに抱き抱えられるポポールは、エレーヌにキスして欲しいとせがむ。エレーヌはポポールにキスし、手術室へ向かうエレベーターに消えていく。エレーヌは、エレベーターの赤いランプをじっと見つめていたが、しばらくして階段を降りてきた医師が、彼は亡くなったと叫んで映画は終わる。
非常にシンプルなストーリーなので、ライターのミスリードが妙に目立ってしまう。これも味なのかもしれないが、映像のキレは今回の特集で見た三本の中では一番緩い感じを受けた作品でした。でも面白かった。
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