くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「神様はバリにいる」「滝を見にいく」「親不孝通り」「不適

kurawan2015-01-19

「神様はバリにいる」
軽い、とにかく軽い映画です。でもおもしろいし、楽しい。どこか後一歩足りないところが未完成のままに展開する緩さはありますが、その緩さが、肩が凝らないし、気楽に見える。

監督は李闘士男ですから、それほどの凡昨ではないし、堤真一尾野真千子など芸達者を中心に据えて、しっかりと作られているから、まぁ十分にみることができる。

映画はバリの絶壁で、今にも飛び降りようとする主人公祥子のカットから始まる。そこへ現地でアニキと呼ばれる、大富豪の日本人の手伝いをしているリュウと出会う。

こうして、おやじギャグをとばしながら豪快に大阪弁をしゃべるアニキと祥子のコミカルな物語がはじまる。

ところどころに、軽いタッチのギャグをちりばめながら、これという大それた物語もなく、このアニキの人柄を描きながら、祥子が人生をやり直す決心をして前向きになるまでが描かれる。

途中、やや観光映画的になるところもないわけではないが、全体のバランスはよく、妙な説教じみたこともすべて笑い飛ばした脚本は、ある意味爽快である。

たわいのない一本だが、みて損を感じないほどの映画だったのでよかったとしよう。


「滝を見に行く」
沖田修一監督が描く、まったり癒し系のサバイバルコメディの秀作。ほのぼのした中に描かれる人間ドラマが、しみじみと心に迫ってきます。不思議と癒されてしまう一本でした。

映画は、ツアーで幻の滝をみるためにやってきた7人のおばちゃんが、バスに揺られているところから始まる。

旅行社の案内人の、訳の分からないマイナスイオン話にも、無視しているおばちゃんたち。
山に入ったものの、道に迷った案内人が、道を探しに離れた間に、おばちゃんたちは待ちくたびれて勝手に歩き回り、道に迷う。

仕方なく、木の実を拾ったりしながらの、お気楽なサバイバルをしながら、まずは一晩過ごすことに。

それぞれの人物の背景は程々に描き、サバイバルする事で妙な絆と連帯感が生まれる様をほのぼの描いていく手腕は沖田修一の色です。

結局、無事、滝を見つけ、そこに駆けつけた案内人と山を下りることになってエンディング。

最後の最後まで手を抜かない脚本と演出が好感。取り立てて感動するという物ではない物の、どこか好きになる一本でした。


「親不孝通り」
増村保造監督作品である。さすがに彼の視点、女性像がやたら強い。それに、この作品、ラブストーリーながら強烈なバイタリティで押しまくり、ラストシーンへ突っ走る力に引き込まれるところもあるから見ごたえがある。

現代の日本映画にはこの迫力が欠けてしまったように思うのは私だけでしょうか。

物語は、主人公勝也の姉あき江が、愛人の子供を身ごもるところから始まる。証券会社の次長で仕事一筋の男修一はあき江を捨てる。あき江は自ら中絶するがそれを知った弟の勝也は、修一の妹加根子に近づき妊娠させて同じ目に遭わせる。

しかし、気の強い加根子は、中絶せず大阪に行き一人で子供を産むといわれ、大阪についていく決心をする勝也。一方、修一もあき江と結婚することにし、結局、女の勝利で物語は終わる。

濃厚なダンスシーンや、ストリップの舞台シーンを挿入し、センスの良い音楽で彩りながら描く増村の演出は冴えている。ラストのふがいない男の結論の面白さを含め、個人的にはなかなかの一本だったと思う。


「不適な男」
増村保造監督ならではの濃厚なタイトルバックから始まる。たくさんの男女が抱き合って、ダンスをしている。その姿を極端なクローズアップで舐めるように撮る。まさに増村保造の映像である。

脚本は新藤兼人
映画は、主人公三郎が、田舎から出てきた秀子を駅でことば巧みに誘い、レイプするところから始まる。駆けつけた井川刑事に捕まり、刑務所に送られるが、法廷シーンで三郎の生い立ちと不良の姿が延々と語られ、やがて出所。しかし、彼に復讐するために待っていた秀子に刺される。

二人は、憎み合いながらもどこか惹かれ合い、井川刑事にほだされ始める三郎の姿が、妙に純粋なのだ。さらに、井川刑事が組織に撃ち殺されるに及び、三郎は組織に嫌気がさし、ボスを撃ち殺し、警察に追われる。

警察の張り込みの中、秀子に会いたい一心で、逃げ回り、身を隠す三郎が妙に痛々しいが、組織の幹部に撃たれ、救急車で搬送されるシーンでエンディング。結局、秀子は三郎を匿うことなく、窓から撃たれる姿を見るシーンが妙に切ない。このカットは正直はっとするほど見事でした。

女たちのむせかえるムードや、ひたすらわめきながらその日を生きる三郎の姿、レイプされ、憎みながらも惹かれる秀子の心が、どこか冷めた視線で描かれるあたり、まさに新藤兼人の脚本と増村保造の映像である。

今日見た二本は同じ年の製作だが、「親不孝通り」の方が個人的には好きです。でも、ちょっとした作品でした。