くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「カルロス」(第一部第二部第三部)

カルロス

オリビエ・アサイヤス監督作品でなかったらこんな長い作品見ることはないのだが、やはり映画ファンとしては見逃せない一本であるかもしれないと見に来た。

実在のテロリストを描いていくのでアクションのおもしろさをフィクションで作り出すとはいえ、史実を曲げるわけにはいかず限界がある。しかし手持ちカメラを駆使したハイスピードな展開が、その歴史の事実をあまり理解していない私たちをも単なるアクションの世界へと引きずり込んでいく手腕はたいしたものだと思う。

第一部で中東のテロ活動を中心に描き、カルロスという人物像を描写していく中で、第二部はその衰退から、新たなる指導者としての存在感の拡大とやがて、時代は東西冷戦のまっただ中へ進み、彼ら革命家がそんな新しい時代に利用されていく下りへと流れていく。

第二部あたりになると単純に物語がおもしろいし、複雑とはいえないが政治的な駆け引きのおもしろさ、国と国の当時の混沌とした様子などが画面に丁寧に描写されてくる。

次々と登場する人物や肩書きは正直ほとんどわからないが、それは別としてもなんの混乱を生まないという脚本の秀逸さが次第に目立ってくるあたりは見事である。

第三部にはいると時は冷戦終結、世界の敵はテロ組織へと移り、アラブ諸国でさえもカルロスの味方ではなくなってくる。そして、逃亡と隠匿生活へと流れていく姿が描かれて、現代にいたってエンディング。

カットとカットのつなぎが無駄なコマ数を使わずに大胆にシャープにつないでいくために長尺な作品なのにだれてこない。政治的な背景をおおざっぱにとらえたストーリー演出が分かりやすい物語となって、それぞれの詳細な事実は軽く流していく。難をいえば、荒削りに描いたために主人公の人間的な描写が希薄になっていことは確かだが、そもそも冒頭のテロップにもあるように謎の多い人物であり、無用な印象を作り出そうとしなかった監督の意図でもあるのかもしれない。

好みの物語ではないので、のめり込んで感動するというものでもないが、全体としてのバランスの良さが好結果となってこれだけの対策としても佳作の出来映えだった気がします。見応えのある一本でした。