くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「セブン・サイコパス」「もうひとりの息子」

セブンサイコパス

セブン・サイコパス
ちょっとおもしろそうで期待して見に行ったのですが、確かにアイデアや、ストーリーの組立は不可思議で楽しいのですが、いつまでたってもリズムに乗ってこない為に、いつのまにか、ただ、めちゃくちゃなだけなの?とさえ感じ的始める珍品映画でした。監督はマーティン・マクドナーという人です。

映画が始まると、ハリウッドの文字の麓の橋の上。二人のマフィアらしい殺し屋が、これから殺すべき女を待っている無駄話をしている背後に、赤い仮面をかぶった男が近づきいきなり二人を撃ち殺し、ダイヤのジャックのトランプをおいて去る。この導入部が抜群にいい。

この切れのいい映像で、どんどん引き込んでいくのかと思いきや、ここからなんかリズムが悪い。主人公は「セブン・サイコパス」という映画の脚本を書いているマーティ。なかなか物語が進まず、妙な登場人物だけが浮かんでくる。相棒のビリーがやってきて、シリアルキラーの話をして、ネタにしてはどうかと持ちかけたりする。

公園で犬を盗んでは、さまよい犬の家につれていってお礼を手にするハンスという老人がいる。彼にはガンで入院している妻がいる。ここにシーズー犬を見失って躍起になるマフィアの男が登場、必死で愛犬を探すうちにハンスに行きあたり、その妻を撃ち殺す。

こうして、現実と非現実が、次第にマーティの脚本の物語になっていく一方で、実は冒頭のジャックの殺人鬼がビリーであることが判明、さらにシリアルキラーを追いつめる、喉を自ら切り裂いた老人がハンスだったりする。

次第に物語は、一つのパズルになって完成されていくという展開なのだが、いかんせんどれもこれもテンポがよくない。

結局、ラストはビリーがマフィアの男たちと撃ち合いになり、ハンスは殺され、マーティは脚本を完成させる。エンドタイトルの後にもうワンシーンおまけに挿入されて、映画が終わる。

とってもおもしろい題材なのに、何かが足りない、何かがずれているのである。その結果、掘り出し物になり損ねた娯楽映画の佳作という感じの一本でした。


「もうひとりの息子」
そして父になる」とかぶるような内容であるが、さすがにこちらは傑作である。細部まで徹底して描かれた人物描写、繊細に設定される物語構成に、最初から最後までスクリーンに釘付けにされるのである。監督はロレーヌ・レビという人である。

物語はイスラエルに暮らすユダヤ人ヨセフが、兵役検査を受けているシーンに始まる。父は軍の大佐である。

ところが、血液検査の結果、両親と血液型が違うことが判明、調べてみると、湾岸戦争の時に取り違えられたことがわかる。しかも、その相手は占領地区にすむアラブ人なのである。

そして父になる」は完全な人間ドラマであるが、こちらは民族問題、征服者と被征服者の問題、さらに宗教問題にまで及んでいく。確かに、重い内容になっているのだが、取り違えられた子供二人はすでに18歳で、それなりに分別があるという設定が根本的に違うために、メッセージはただの親子問題だけにとどまらずさらに一回り大きな物語として展開していく。

アラブ人のヤシンは、フランスで大学の入学資格を取り医者の卵である。兄は執拗にアラブ人とユダヤ人という問題を取り上げ、仲がよかった兄弟なのに、血のつながりがないと知ったとたん、極端に避けるようになる。このあたりの確執は、さすがに日本人には、本当の理解はできないのだが、そのあたりの部分も映画はしっかりと映像で説明していく。ここがこの作品のすごいところである。

通行証を発行しないとお互いに行き来さえもできない土地柄。征服者としてのユダヤ人が豊かな町テルアビブに住まいし、一方被征服者としてのアラブ人は、どちらかというと貧しい。しかし、ヤシンはお金を稼ぐすべを知っていて、ヨセフがやっているアイスクリームのバイトも手際よくこなす。このあたりの人物描写の描き分けも見事である。

ヨセフとヤシンがそれぞれお互いに打ち解けていく中、ヨセフは一人、ヤシンのところへ行き、ヤシンもまた一人ヨセフのところへ行き来するようになる。そして、それまで避けていたヤシンの兄も、とうとうヨセフのところへ出かけ三人が打ち解ける。

夜の浜辺で、不良グループにヨセフが刺され、ヤシンが駆けつける。医者の卵であるという設定を最後に生かす脚本の組立のうまさに脱帽してしまう。

そして、助かったヨセフのシーンに続いて、それぞれがそれぞれの家族で、息子として生きていき、それぞれがお互いの人生をそのまま成功するためにがんばろうというナレーションで暗転する。

そこには、親同士の確執などは自然と消えてしまい、さらに、民族同士の確執や宗教間の隔たりなどは、あまりにも小さいものだと言わんばかりの何とも言えない感動を見ている私たちに投げかける。すばらしい作品だった。

そして父になる」と比べる必要はないが、一回り大きな映画である。