くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「西鶴一代女」「潔く柔く きよくやわく」

西鶴一代女

西鶴一代女
溝口健二監督の最高傑作と言われる作品を、30数年ぶりに見直しました。最初に見たときの印象は、よかったという程度でしたが、さすがに、今見ると、そのすごさに圧倒されます。

ワンシーンワンカット長回しのカメラが、ただ、漫然と撮影しているのではないことに気がつくと、溝口健二監督の完全主義の真骨頂が見られる。

流れる映像のどの一瞬をとっても、すべて絵になっていることである。それに応えた美術の水谷浩もすごいのだが、カメラのスタートからエンドまでの流れの隅々に、溝口健二監督の演出が行き届いていて、すれ違うエキストラの人物のフレームイン、フレームアウトするタイミングまで計られているのである。したがって、どのワンシーンもリズミカルに展開するのだ。

物語は御所にまで仕えた主人公お春が、夜鷹にまで身を落とし、最後は尼となってしまうまでを描いた流転の物語である。

出世したかと思えば、奈落に落とされ、さらに浮き上がったかと思えば、またけ落とされる。その繰り返しの中で、次第次第に人生を転落していく一人の女の物語である。まさに、溝口健二監督の一番得意とするストーリー展開である。

しかも、徹底された長回しのカメラが、映像にリズムを作り出すとともに、徹底された絵作りが、作品に格調を生み出す。背後に流れる三味線、鼓、などの宮廷音楽が、さらに画面を独特の色合いに染めていくのである。

俯瞰でとらえたカメラが、ゆっくりと下がり、そしてまた大きく伸び上がっていくように主人公をとらえる。時に奥の深い構図で、時に横に広がる構図で、カメラが縦横無尽に移動していく。しかも、それぞれが絵になった構図が撮られているのだからすごい。

夜鷹のお春が、仲間と話をしているファーストシーンに始まり、羅漢の中に、かつて恋した勝之助を見いだして、物語は過去へ戻る。最初の恋人勝之助の話に始まって、やがて、洛外追放になり、東国殿様の生母に呼ばれたかと思うと、帰されて、島原に身を落とし、花魁になるも、身請けされたかと思えば、追い出され、と次々と主人公は人生に翻弄され流転を繰り返していくのである。

原作のすばらしさもあるのだろうが、女の物語に徹底した脚色のうまさ、映像のすばらしさ、鬼気迫る演出にぐったりとするほどに見応えのある一本でした。さすがにこれこそ名作である。


潔く柔く きよくやわく」
お話が、最後まで動かないという淡々としたラブストーリーであるが、演技陣がしっかりしていたために、そして新城毅彦監督の演出が、気を抜かずに最後まで丁寧に演出していたので、何とか見ることができた。

大好きな波瑠ちゃん、池脇千鶴ちゃん、ちょっと好きな長澤まさみちゃんという女優陣に加え、男優も、高良健吾岡田将生とちょっとした俳優が演じているために、物語に抑揚がないのだが、二時間あまり、何とかみれるのである。

映画始まると一人の青年が路上に倒れている。どうやら、事故にあった様子で、画面は変わって、主人公カンナの高校時代、タイトル、と流れる。

物語は高校時代に恋人になりそうな春田を事故で亡くし、そのときにたまたま友人の真山と花火に行っていたために、罪悪感に囚われたまま大人になったカンナ。
一方で、小学校の時代に、自分を慕ってくる少女を突き飛ばし、そのときに交通事故で死なせたために、罪悪感にさいなまれる赤沢が、社会真になって出会い、お互いにお互いの罪悪感を田帰る毎日に出口を求める姿を描いて行く。

冒頭から、ひたすら淡々と物語が進んで行く。高校時代と現代を行き来しながらのストーリー構成は前半をしっかりと牽引して行くが、さすがに2時間あまりそのパターンで突き進むのはしんどい。やがて現代の話がウェイトを大きくしてくるが、それでもお互いが成長し、行き違いながら心が通い始め、その中で、次第に出口が見えてくるという流れが実に平坦に展開して行く。

とはいえ、さすがに、長澤まさみ岡田将生池脇千鶴高良健吾、波留、などしっかりした俳優が演じて行くので、あまり退屈もしなかった。ラストは予定通り、カンナと赤沢のハッピーエンドなのだが、まぁ、普通のラブストーリー、つまり題名のとおり「潔く柔く きよくやわく」だった。