くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「オール・ザット・ジャズ」

オールザットジャズ

30数年ぶりに見直した。さすがに、ボブ・フォッシーの才能が映像という形で昇華したと呼べる、飛び抜けた傑作で、その意味で、凡人が理解し得ないほどの、並外れた映像感性でスクリーンを埋め尽くし、展開する物語に圧倒される。結果として、この作品を嫌う人もいないわけではないと思う。

現実の世界と、幻想の世界、空想の世界、様々な映像が、細やかなカットバックの繰り返し、縦横無尽のカメラワーク、そして、自由奔放な台詞の応酬で描かれていく。

物語は、一人のショービジネス界のスタージョー・ギデオンがこれから手がける舞台のオーディションシーンに始まる。

大勢の応募者が次々と脱落し、それに伴って、オーディションシーンも引き締まったものに変わっていく。的確な判断で、合格者を抽出し、客席で見つめる制作者たちと話を交わし、自宅に戻れば、ドラッグとSEXの日々。

自らも踊り、演出し、精神的にも肉体的にもぼろぼろになりながら、ショーを完成させるべく奔走するジョーだが、とうとう過労がたたって倒れてしまう。

入院し、手術をするも、安静が必要という医師の指示を無視して、酒を飲み、たばこを吸い、友達を引き入れる。そして、彼が幻想の中で見るのは、自らの入院生活をもショーの中に取り入れた舞台の世界。これはまさに狂気である。

時折、舞台での華麗なダンスシーンも登場、ボブ・フォッシーのすばらしい振り付け演出も見られるこの作品は、物語は本当にシンプルながら、感性のみで描かれる一人のショーマンの、歓喜と悲哀の世界である。

見終わると、まるで一本のショー舞台を見終わったようなな錯覚にとらわれ、ふと現実に戻ると、ジョー・ギデオンの人生の最後を描いた悲しい物語だったと知る。この、一瞬の夢のような映像に、取り込まれる人は取り込まれ、排除する人はこの映画を嫌うことになる。

舞台が終わり、拍手喝采の中で、スタッフ、キャストに迎えられるジョー・ギデオン。当然、それは彼が、病室で最後に見る走馬燈のごとき一瞬。そして、死体となってビニールシートに包まれて暗転、「ショーほど素敵な商売はない」が流れる。

全く、度肝を抜かれる映画である。始めてみたときの感想がほとんど思い出せないのは、そのぶっ飛んだような映像世界故だろう。何度も見て、その才能がなせる映像の世界を堪能すべき一本だろうと思います。