くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「夕霧花園」「トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング」

「夕霧花園」

静かに、あくまでも静かに流れる美しい作品で、その静けさの中に人間のドラマがうねるように展開していく。こういう作品はそう滅多にお目にかかれるものではありませんが、非常に見応えのある映画でした。阿部寛の抑えた演技が作品を引き立てているのは特筆すべき点でしょうか。美しい茶園の景色、さりげなく挿入される夕景の赤さ、その中で描かれる第二次大戦時の日本軍の非道。語るべき物語が日本庭園とヒロインの背中に彫られた刺青に集約するクライマックスは見事。いい映画でした。監督はトム・リン。

 

マレーシアで二人目の裁判官となり、さらに判事を目指すべく奮闘する主人公ユンリンは、かつて交際していた日本人中村有朋にスパイ容疑がかかり、それを汚点とされる危機に苛まれていた。そして、その潔白を証明するべく、かつて訪れた地を目指している場面から映画は始まる。時は1980年代、出迎えたフレデリックは、ユンリンが若き日この地を訪れたときに知り合った人物で、この地に住んでいた。

 

時は1951年、若きユンリンはこの地に住む日本人で、皇室の庭師だった中村有朋を訪ねてきた。ユンリンとユンホンの姉妹は第二次対戦中に日本軍にこの地に連れてこられ、妹のユンホンは慰安婦として、ユンリンは労働者として働かされていた。ユンホンの夢は、かつて日本の天龍寺で見た日本庭園に魅せられ、将来、庭師になることだった。しかし、終戦時に日本軍が収容所を爆破した。ユンリンは逃げ出したが、ユンホンは命を落としていた。妹の夢を叶えるために、中村に庭園設計を依頼しにきたのだ。

 

ユンリンは、自分たちが収容されていた場所を見つけること、そして当時謎とされた山下財宝の事を知るためでもあった。しかし、中村はユンリンの申し出を断る。中村はこの地に戦前に移り住んだが、住まいの裏に夕霧と名付けた庭園を造園していたのだ。そして、ユンリンにその造園を手伝わせることでその技術を習得するようにと提案する。こうして、ユンリンは中村とともに夕霧造園に参加する。

 

マレーシアは、日本軍撤退の後英軍がやってきたが、地元の人間は反抗的だった。さらに山下財宝の噂も広まり、一部の暴徒が暗躍し治安も悪くなっていた。そんな中、夕霧を造園する中村たちだが、やがて雨季が訪れ、作業が止まってしまう。することがなくなったユンリンに中村は背中に刺青を彫りたいと申し出る。中村は造園にもそのほかの芸術にも境目はないと考え、刺青にも造詣を深めていた。

 

やがて、ユンリンの背中の刺青は完成する。そして二人は体を合わせる。そんな頃、財宝を探す暴徒がユンリンが世話になっている家族を襲う。そしてそこの主人は殺されてしまう。中村は最後に造園作業を自らの力で完成させる。ある朝、中村は散歩に出るとユンリンの元をさっていく。

 

時は1980年、今は寂れた中村のかつての住まいにユンリンはいた。夕霧の庭園は草に覆われ、さまざまな石は雑草に隠れてしまっていたが、ユンリンはその石が四角形に見えるのを発見する。それは、中村が時間をかけて作り上げた借景だったのだ。ユンリンの背中の刺青の形は、この地キャメロン平原であり、右下に四角い空白が彫られていて、そこはかつての中村の住まい、さらに、肩のあたりに彫られた桜は、ユンホンらがいるかつての収容所で今は修道院の場所だった。

 

ユンリンは中村の意図をようやく理解し、戦後すぐに担当した戦犯から託された手紙を初めて開く。そこには、隠された金を使って中村が慰安婦を救い出していた記述が残されていた。ユンリンは、中村にかけられている財宝やスパイの嫌疑を確信するがあえて伏せ、自分は正当に連邦裁判事を目指す事を決意する。寂れた中村の住まいで、かつて、散歩で去って行った中村の姿をユンリンは思い出していた。

 

静かに流れる物語なのに、底辺に激しく愛し合った二人の物語が語られていく脚本が素晴らしいし、それを映像化した演出も見事。本当に良質の一本でした。

 

「トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング」

映像も面白いし、カメラも美しいのですが、ほとんど知識のないオーストラリアの物語なので、なかなかとっつきにくかった。でもそれなりの作品だったと思います。。監督はジャスティン・カーゼル。

 

馬で失踪する場面を俯瞰でカメラが追う。枯れた木々が覆う中を走る場面がまず美しい。アイルランドから移り住んだ主人公ネッド・ケリーは、頼りない父親に代わって家族を支えていた。母のエレンは、地元の警官オニールに媚を売りながら家族を支えていた。しかしその警官ら現地のイギリス人は何かにつけて移民のネッドらを蔑んでいた。ある時ネッドは、牛を殺し肉を持って帰るが、それを父の仕業と決めつけたオニールは父を追放してしまう。夫を失ったエレンは持ち前の機転で次々と男を変え、一人の男ハリーを家に引き入れる。そしてある日ネッドにハリーのもとで仕事をするようにと言うが、実はハリーにネッドを売り渡したのである。

 

ハリーの仕事は山賊で、待ち伏せして獲物を容赦なく殺していた。そんなハリーに反感を持ちながらも人を殺す事を覚えていくネッド。まもなくしてハリーはそんなネッドをエレンの元に送り返す。

 

やがて成人したネッドは、ある時、娼館でフィッツパトリックという青年と知り合う。彼は警官だった。人殺しで有名になっていたネッドは、フィッツパトリックにいいようにあしらわれ、ネッドの弟ダニーらにも捜査の手が及んでいると話した上に、エレンを逮捕してしまう。ネッドはフィッツパトリックに、エレンやダニーを助けるように頼むが、フィッツパトリックはネッドの妹と付き合わせるようにという条件を出してくる。その仲を取り持ったネッドだが、フィッツパトリックは上手くいかなかったと、エレンの釈放もダニーへの追跡中止の約束も果たさなかった。ネッドは娼館で知り合ったメアリーと結婚するが、すでにメアリーには赤ん坊がいた。それはネッドの子供ではなかった。真実を冗談のように喋るフィッツパトリックに思わずネッドは銃を向け、怪我をさせてしまう。

 

ネッドは、自らダニーらとケリー・ギャングという集団を作り、追ってくるフィッツパトリックらを迎え撃つことにする。そして、学校に立て篭もり、列車でやってくるフィッツパトリックを待つが、すんでのところで計画がバレ、ネッドたちは大勢殺され、ネッドも逮捕される。刑の執行を待つネッドのところにエレンがやってくる。束の間の二人の再会にネッドは思わず抱き合う。そしてネッドは絞首刑で死んでしまう。

 

ネッドが訴えようとした移民への差別について、ネッドが立て篭もった学校の一人の教師が大勢の人々の前で話す場面に続き、首を吊られたネッドのカットで映画は終わる。

 

ネッド・ケリーが、移民への差別に反逆した人物ということなのだが、その辺りがうまく伝わってこないのがちょっと残念。映像やカメラはなかなか綺麗だったし、見て損のない一本でした。