くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「春画先生」「キリエのうた」

春画先生」

レトロ感満載の色彩映像と大正ロマンを思わせるテンポと空気感が独特のオリジナリティで妖艶なラブストーリーとして描いた作品で、シンメトリーな画面、エロスを漂わせる展開が楽しい映画でした。監督は塩田明彦

 

茶店に勤める春野弓子が画面中央で佇み、そこに地震の揺れと警報が鳴って映画は始まる。弓子は傍で春画を見ている男芳賀一郎、通称春画先生を横目で見ている。芳賀は、弓子に自分の名刺を渡す。翌日、芳賀の家を訪ねた弓子はすっかり春画に魅せられ、芳賀の家にお手伝い兼弟子として通うようになる。そんなある時、辻村というかつての芳賀の編集担当がやってくる。芳賀に頼まれ辻村と一緒に大学に行き、芳賀が執筆中の春画大全の資料を受け取った帰り、辻村に芳賀のことを聞いた後、酔った弓子は辻村と一夜を共にする。

 

翌朝、辻村から、昨夜の弓子の声は芳賀にオンラインで送っていたことを知る。芳賀は、伊都という最愛の妻と七年前死別し女断ちしていたが、弓子の登場で心が揺れているのだという。そして辻村と体を合わせその声を芳賀に届けるようになり三人で行動するようになる。芳賀に誘われて春画の朗読会に招かれた弓子は伊都の双子の姉で、かつて芳賀の恋人であった一葉と出会う。芳賀はその夜から姿をくらましてしまう。

 

いつのまにか芳賀に溺れていた弓子は来る日も来る日も芳賀を待つ。そして突然ホテルに呼び出された弓子は芳賀から、ある探し求めていた春画を手に入れるために一人の人物と一夜を過ごして欲しいと頼まれる。弓子はそれを受け入れ、目隠しされて高級車に乗る。着いた先にいたのは一葉だった。一葉は弓子を鞭で打ちながら執拗に責めるが、なんとベッドの下には芳賀が居た。

 

一葉は弓子に芳賀を鞭で打つように命令、弓子は芳賀を責め立て始める。そしてその日以来芳賀と弓子はかつて芳賀が伊都と過ごした伝説の七日間の愛の営みを経験、二人は究極の恋人同士になっていく。そんな様子を電話で辻村は知る。芳賀と弓子がが石段を登り、傍に弓道の的を見つめて映画は終わる。

 

ややエロティックではあるものの、レトロモダンな色調と構図を徹底した画面作りと、テンポよく奏でるBGMが不可思議な幻想ドラマを作り出していくなかなか楽しめる映画でした。弓子を演じた北香耶が抜群の演技と存在感で良かった。

 

「キリエのうた」

長い。ここまで長尺にするほど物語に力がないように思います。音楽とスローモーションで引っ張った感じの出来栄えで、震災シーンのくどいほどの描写や、三つの時間を交錯させるに当たっての手際の悪さが自然と長くなってしまったという感想でした。終盤に何度も繰り返すドローン撮影のような俯瞰シーンの連続も妙にテンポが悪くて、ラストのイッコがキリエのステージに駆けつけるくだりもややあざとい。三時間全く退屈というわけではなかったので、それなりに構成はできていたのかもしれないけれど、やはり岩井俊二監督、全盛期は過ぎた気がします。

 

雪景色の中、「さよなら」が流れて、二人の女子高生がたわむれていてタイトル。時は2011年、大阪、三人の男の子がザリガニ釣りをしている。傍に女の子がいて、男の子は彼女を誘ってザリガニ釣りをするが女の子は全く喋らない。現代、東京、路上ライブしようとしている少女の傍を派手な髪の毛の女性イッコが通りかかる。路上ライブしようとしている少女はキリエと言って、歌は歌えるが喋る時に声が出ない。イッコはキリエを食事に連れて行き豪華な自宅に連れ帰る。イッコはキリエに自分の本名は真緒里だと告白、キリエのことを路花だと見抜く。二人は友達だった。

 

2018年帯広、女子高生の真緒里はスナックを経営する母の元で暮らしている。大学進学を控えていたが諦めていた。しかし母のスナックの客が母にプロポーズし真緒里は大学進学を目指す。母のフィアンセの紹介で一人の家庭教師夏彦が訪ねてくる。夏彦には高校生の妹路花が居た。喋る時に声を出せない路花を夏彦は真緒里に紹介し、友達のいない二人は親しくなる。やがて真緒里は大学合格、部屋にあった父のギターを路花にプレゼントする。

 

2018年大阪、小学校教師のフミは、生徒の一人に聞いた喋らない少女のことが気になり保護する。そして、彼女を調べるうちに姉キリエの存在から姉のフィアンセと言われていた夏彦の存在を知る。夏彦は、路花の姉キリエと交際し妊娠させてしまったが、自分は間も無く東京の大学に進学した。その間に、東日本大震災が起こり、キリエと両親が亡くなり、路花を引き取ることになるが、他人が世話をすることはできず、路花は施設に送られてしまう。

 

現代、イッコはキリエと一緒に音楽活動を続けていたが、住んでいた部屋はイッコの元カレの部屋らしく出ていくことになる。そして次のイッコのボーイフレンドの家に住むことになる。キリエの歌はどんどん話題になり、路上ライブも大きくなっていくが、イッコは突然、部屋を出ていってしまう。しばらくして刑事が訪ねてきて、イッコは結婚詐欺を繰り返している指名手配犯だとわかる。キリエは家を出て路上生活になる。しかし、音楽関係の知人が増え、公園での路上アーティストのフェスティバルに参加することになる。そんな頃、イッコと再会する。

 

キリエも警察で取り調べを受け、夏彦に連絡が行き、久しぶりに夏彦と路花は再会する。そして二人で公演のフェスティバルに出ることになる。イッコはキリエのステージを見るために花束を買って向かうが、途中で、かつて騙した男にナイフで刺され、瀕死の重症で公園へ向かう。公園では、使用許可がないと警官が踏み込んでくる中、キリエのステージが始まっていた。場面は冒頭のシーンに戻り、女子高生の真緒里と路花が雪の中、祠にお祈りをして雪の中に倒れる。キリエはその後もネットカフェを渡り歩く姿で映画は幕を閉じる。

 

三つの時間を交錯させるという面白さだけを狙った感じの作品で、挿入される楽曲のさまざまを聴かせるのがメインという感じの作品。ストーリーテリングの面白さは今ひとつだったかという一本でした。