くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「喧嘩太郎」「東京の人前後篇」「ゆがんだ月」

「喧嘩太郎」

これだけゆるゆるのたわいない映画にそうそうたる役者が勢揃いしているのは、まさに映画黄金期の一本という貫禄というか余裕というかの作品。こそばゆくなるほど適当なストーリーと展開ですが、とにかく芦川いづみが抜群に可愛らしい。これだけでも見た甲斐がありました。監督は舛田利雄

 

商社に勤める主人公宇野太郎は、この日も遅刻して課長に叱られる。喧嘩好きでボクシングの試合を見に行った際、ヤクザの観客と喧嘩沙汰になり、ライバル商社の社長令嬢秀子と知り合う。さらに警察で美しい婦人警官深沢雪江とも出会う。宇野の会社の社長らは、これからの入札競争の情報を得るために宇野に秀子に近づくように仕向ける。

 

宇野と雪江、秀子の三つ巴の恋愛劇が会社同士の汚職事件の展開に転がり始め、やがて、宇野と雪江の恋が成就し、会社の汚職も明るみになって映画は終わっていく。

 

時代を感じさせる展開やセリフも散りばめられ、今見ればまさに昭和全盛期という感じですが、石原裕次郎芦川いづみなどなどの看板俳優のみならず、脇役それぞれも主役級のレベルの俳優が顔を揃えているのでたわいない映画も豪華に見える。これが映画黄金期の娯楽映画に醍醐味だろうと思わせる一本でした。

 

「東京の人前後篇」

川端康成原作とはいえ、川端康成らしい危うい恋愛ドラマは影を潜めて、恋愛メロドラマという感じの文芸映画に仕上がった一本、おそらく当時はやったパターンを踏襲したのだろう。監督は西河克己

 

印刷会社の重役島木が東京へ戻って来るところから映画は幕を開ける。駅では事務員で愛人?らしい小川が出迎える。自宅に戻り、妻の白井敬子に会社が危ういと話す。白井は島木と正式な妻ではない感じで、白井には朝子と清がいる。島木には弓子という高校生の娘がいた。戦後すぐ、駅で雑誌を売っていた白井は島木から弓子を預かり育てていてその後一緒に暮らしていた。清は由美子のことが好きだったが弓子は受け入れなかった。

 

そんな時、田部という外科の医師と知り合う。白井敬子はすっかり田部に惚れてしまうが、一方弓子は幼い頃田部に盲腸の手術をしてもらった経緯があり、密かに今も好きだった。しかし田部が母敬子と親しくなるにつれ、微妙な三角関係になってしまう。そんな時、島木が行方不明になる。しかも会社の金を横領していた。敬子らが心配する中、それぞれが微妙にギクシャクし始める。女優を目指す朝子は劇団の小山といい関係で妊娠するが、小山が否定的だったためおろしてしまう。物語は島木の行方を軸に、それぞれの人たちの生き様を交錯させて描いていくが、どこかメロドラマティックに展開する。

 

そんなある時、小川は島木が浮浪者をしているのを発見する。しかし島木は元の家に戻る気はないという。敬子と田部の関係はギクシャクし、田部の両親は田部と弓子の結婚を望んでいたために成就しない恋が続く。間も無くして田部がドイツに行くことになる。島木は清に発見されて浮浪者の収容テントに行くが、しばらくしていくと、島木の姿はない。島木は小川と旅立っていく。田部はドイツ行きの飛行機に乗るがその後ろ姿を敬子が空港で見送る。弓子も清もそれぞれの道を進んでいって映画は終わる。

 

川端康成らしい危険な恋物語ではなくメロドラマ風に展開する様は、当時の時代色が見え隠れしているが、丁寧な演出で描く文芸ドラマという空気感を楽しめる映画でした。

 

「ゆがんだ月」

これは面白かった。映像が映画になっているし、至る所にお遊びを挿入した絵作りがとにかく面白い。ストーリー展開もしっかりと組み立てられていて、出来のいいフィルムノワールという感じが心地よいほどに楽しませてくれます。キャストそれぞれの存在感もワクワクさせてくれるし、ラストに余韻の処理も後味が良くて素敵。なかなかの秀作でした。監督は松尾昭典

 

夜、桂木正夫は、兄貴分の米山と軽口を叩いて歩いているが、不穏な足元を見かける。次の瞬間銃声が聞こえ桂木は身を伏せるが米山は倒れていた。直後、立花組の立石と遭遇する。明らかに立石の仕業だったが、警察にそのことは言わず、立花組の親分からも釘を刺される。

 

桂木は博多の人形問屋の後取りだったが女給の奈美子と知り合い駆け落ちして神戸にやってきた。奈美子には、ことの真相を話すが、米山の件で納得いかないものを感じていた。米山の葬儀にやってきた妹の文枝の接待をおおせつかった桂木は文枝に心惹かれるものを感じる。

 

桂木は文枝に真相を打ち明け、そのまま木元に告白、警察は立石を逮捕する。米山が殺されたのは密輸洋酒の仲間割れからだった。桂木は文枝への思いから奈美子との仲も悪くなり、木元の口利きで東京へ逃げる。立花は殺し屋の由良を呼び寄せていた。東京へ行った桂木は木元の兄に紹介してもらいアパートに住まいするがそこは文枝の家のそばだった。

 

文枝と再会した桂木は何かにつけて文枝に近づくが、殺し屋由良の影がちらつき始める。そんな時、桂木を追って奈美子がやって来る。桂木と奈美子はバーに勤めるようになるが、奈美子はそこの客の黒川と親しくなる。黒川は麻薬タバコを奈美子に勧め、麻薬中毒にして香港へ売り飛ばそうとしていた。桂木は米山の三十五日に文枝の家に行き、文枝の婚約相手を紹介される。

 

一方、由良は、桂木に、決闘スタイルで殺しをやりたいと、拳銃の密売所へ桂木をつれていく。そこで桂木は黒川に拉致された奈美子を発見、木元に連絡をして、香港へ売られる前に阻止してほしいと依頼して、由良との決闘に向かう。直前、木元に電話した桂木は、奈美子にまたやり直したいこと、文枝には幸せになって欲しいことを託ける。

 

桂木と由良が対峙するが、由良はわざと外し、桂木に撃たれて死んでしまう。桂木は膝を撃たれ、助けを呼び、駆けつけた木元らに救急車に乗せられる。一方、香港へ向かう船は警察によって拿捕される。空には月が浮かんでいた。こうして映画は終わる。

 

由良が桂木に迫ってくる場面でシルエットが大きくなったり、決闘でわざと負けたり、汽車の断続的な灯りや煙を効果的に使ったり、光と影を多用した姫田真佐久のカメラも素晴らしく、本当に面白い映画でした。