「ショコラ」
初公開以来、午前十時の映画祭で再見。やはりこの年で見直すと登場人物の心の中が伝わってくるようで、なんとも言えない感動に包まれました。いくつかのドラマを交錯させる構成ですが、ラストに向かって統一されたメッセージがじわじわと胸に迫ってきます。年老いた男女の恋、娘との確執に悩む余命わずかな老婆、夫の暴力に苦しむ妻、出て行った愛妻のことが忘れられないが自らのしがらみに閉じ込められる村長、古い因習を破れない若い神父、そして、実は母についていく放浪生活に悩む少女、それぞれの物語がやがて、題名のショコラのように溶けてしまうラストは最高に素敵です。やはり名作は何度も見直すのが一番ですね。監督はラッセ・ハルストレム。
殺伐とした色合いで描かれる古い因習に囚われる村に寒い冬がやってきて北風が吹いている。ミサに集まった人々は、自分たちが作った習慣にがんじがらめにされている。そんな村に真っ赤なコートを羽織ったヴィアンヌと娘のアヌークがやって来る。そして孤独な老女アルマンドから店舗を借りチョコレート店を開店するところから映画は幕を開ける。時は断食習慣で、熱心な信者で村長のレノ伯爵は何かにつけてヴィアンヌらを除け者にし始める。
夫との関係に冷めている妻はヴィアンヌの勧めたチョコをたまたま夫が食べたことから夫婦仲が戻る。暴力的な夫セルジュの妻ジョセフィーヌの家に行ったヴィアンヌは、彼女にあるチョコレートをプレゼント、ジョゼフィーヌは家を飛び出してヴィアンヌの家で働くようになる。そんな状況を知ったレノ伯爵は、ヴィアンヌの店に来るがジョゼフィーヌのケガを見てセルジュを改心させるべく奔走し始める。
アルマンドは孫に会わせてくれない娘のカロラインとの仲が悪く、そんなアルマンドの気持ちを察したヴィアンヌは孫のリュックが絵が好きなのを利用して店で二人を会わせる。年老いた未亡人に心が惹かれている老人には、未亡人にプレゼントするチョコレートを見繕ったりする。この村に来て間もない若い神父はレノ伯爵の言いなりで説教をすることに疑問を感じていた。
村人の心はヴィアンヌの努力でどことなく和らぎ始める。ヴィアンヌは亡き母の遺灰を持ち歩き、母の意思を注いで村から村へと放浪の旅をしながら人々を救おうとしていたが、一箇所にとどまらない母についていくアヌークの心にも寂しさが占め始めていた。セルジュは一時は改心したが、ジョゼフィーヌが結局戻らないと知ると再び酒に酔って荒れてしまう。
そんな時、船に乗って流浪の旅をするルーたちが立ち寄る。村人はルーたちをボイコットするが、ヴィアンヌはルーを快く受け入れ。それによってさらにレノ伯爵の妨害がひどくなる。そんな時、ヴィアンヌの店で会っていたアルマンドとリュックは通りかかったカロラインに見つかる。カロラインはアルマンドが末期の糖尿病だとヴィアンヌに告げる。アルマンドは最後にパーティをしたいと言い出し、自分を主催者にして主だった村人を招待し、ヴィアンヌが料理を振る舞う計画を立てる。
そして、しこたま食べた村人たちはルーの船に集まり、踊り歌い始める。それを知ったレノ伯爵は、セルジュに「なんとかしないといけない」と話す。それを勘違いしたセルジュはパーティが終わり、ルーの船で寛ぐ村人たちが寝静まった頃に船に火をつける。ヴィアンヌはルーと離れた船で抱き合っていたが騒ぎで戻る。アヌークは一緒にいたジョゼフィーヌに助けられ無事だった。やがて、ルーは村をさっていく。アルマンドはその夜。リュックの目の前で幸せそうに亡くなってしまう。
家に戻ったヴィアンヌは、北風が吹いてきて、そろそろ街をさるときが来たと悟り荷造りを始める。しかしアヌークは今度は断固抵抗する。階段を降りる際、カバンを落としたヴィアンヌは、持ち歩いていた遺灰の入った壺を壊してしまう。謝るアヌークだが、ヴィアンヌの気持ちは堅かった。間も無くイースターが迫っていた。ジョゼフィーヌは村人に力を借り、ヴィアンヌの店で、イースターの料理を準備、ヴィアンヌを引き止める。
一方、セルジュが放火したことを知ったレノ伯爵はセルジュを追い出し、自分はナイフを持ってヴィアンヌの店に忍び込んでイースター用のお菓子を壊して回るが、唇についたチョコを舐めた途端、狂ったようにお菓子を貪り食う。妻が出て行って、自らの罪を懺悔するために食事を控えていた反動だった。
翌朝、ショーウィンドウの中で目覚めたレノ伯爵はヴィアンヌに飲み物をもらい泣き崩れる。そして、素直な気持ちを取り戻す。イースターの日、レノ伯爵の先祖の像の前で踊り狂う村人たちがいた。やがて夏が来て、ルーがヴィアンヌの店に戻ってきた。そしてヴィアンヌを抱きしめる。冬が来てきた風が吹いてきた。ヴィアンヌは残った遺灰を空に撒いて、後はお願いと言って映画は終わる。
映像も美しいし、ファンタジックな色合いが大人の童話の如く物語を紡いでいきます。登場人物たちそれぞれの寂しさ、悲しさが、次第に癒され、暖かくなっていく様が素晴らしい仕上がりで見ている私たちに伝わってくる。やはり名作とはこういうものでしょうね。見直して良かった。
「劇場版SPY×FAMILY CODE:White」
テレビアニメが大好きなので見にきてしまいました。映画用に取ってつけたようなオリジナルストーリーですが、やはり家族のシーンには胸が熱くなってしまいました。アーニャは可愛いし、ヨルさんはめっちゃ強いし、それだけで大画面を楽しんだ。監督は片桐崇。
ウェスタリスの凄腕スパイロイドに、進行中のオペレーションストリクスの担当者を変更するという連絡が入る。一方、アーニャが通うイーデン校ではステラを手に入れられる調理実習のイベントが開催されることになる。ロイドは少しでもオペレーションストリクスが進展していることを示すために、アーニャが手がけるお菓子の材料を探すため、審査委員長の校長の好物であるフリジス地方の伝統菓子を試食しに出かけることにする。ところがそこへ向かう途中、アーニャは列車内で、悪者たちが隠したお宝であるチョコレートを誤って食べてしまう。そのチョコの中にはあるマイクロフィルムが隠されていて、それが露呈すると東西戦争が勃発するというものだった。
ステイデルら悪者たちは、アーニャからフィルムを取り返すべくアーニャを追う。フリジス地方にやってきたロイド家は、伝統菓子を試食しようとしていたが、店にやってきたステイデルらが強引に横取りしたために、材料を調達して作り直してもらうことになる。しかし、最後の一つの材料のありかをアーニャが透視で知ったため、アーニャは一人で外出、そんなアーニャをステイデルらが誘拐する。アーニャが誘拐されたと知ったロイド達は、ステイデルが乗り込んだ飛行戦艦を追跡してその船内に突入する。そして、大乱闘の末、アーニャを助け、戦艦も破壊して無事帰国して大団円。
巨大戦艦や、サイボーグ戦士とヨルさんの大バトルなど映画らしい見せ場の連続で、いつものアーニャのおとぼけや、ボンドの活躍も楽しめる仕上がりで、ヨルさんがロイドの浮気現場だと勘違いして狼狽える場面や、離婚の危機にあくせくするアーニャなど、例によっての家族シーンも所々に挿入し、いつのまにか、胸が熱くなっている自分に気が付きます。たわいない作品ですが、楽しいひと時を過ごせました。