くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アース・ママ」「笑いのカイブツ」

「アース・ママ」

丁寧に練られたカメラアングルとカメラワークの映像が、暗い話ながら真面目な良質の作品の空気感を醸し出していて、見応えのある映画になっていました。とは言ってもお話はいたって重いので、どんよりとした気持ちのまま主人公の心の葛藤を身に沁みて感じてしまうことになりました。監督はサバナ・リーフ。

 

写真スタジオで働くシングルマザーのジアが、この日、赤ん坊を撮影にきたお客さんの相手をしているところから映画は幕を開ける。実は彼女も三人目を妊娠している。すでに二人の子供がいるが施設で暮らしている。ジアが薬物依存のため定期的な検査を経ながら子供とは離れて生活している。

 

三人目を産んでもまた引き離されることに悩んでいるジアに、友人が、養子に出すことを提案してくる。ジアは悩んだ末、養親希望者と会い、一旦は了承するが、産婦人科で、やはり子供と離れたくないので断りたいと言ってしまう。生活も苦しい中、追い詰められるジアは、ずっと耐えてきた薬物に手を出してしまう。直後、破水し子供が生まれるが、駆けつけた友人は、薬物に手を出したジアを責める。そして、養子に出すことを再提案、数時間後、養親がジアの赤ん坊を引き取っていく。

 

裁判所で、ジアは、あれ以降薬物に手を出していないことを証言してもらい、施設にいる子供と今よりも少しでも長く頻繁に会いたいと訴えて映画は終わる。

 

母親としてのジアの苦悩を切々と描いていく映像が実に心に迫ってくる。妊娠したことも、薬物に手を出したことみジアの責任であり自業自得なのかもしれないが、単純に割り切った対応をすることには疑問があるのかもしれない。難しいテーマながら、こういう映画もあって然るべきだと思います。映像がとにかく丁寧で、エンドクレジットで、夜景に変わる背景は見事でした

 

「笑いのカイブツ」

雑な演出と雑な演技、主人公の狂気的なカリスマ性が全く描写できていない前半と、心の葛藤が全然見えない後半、いい役者を揃えているのに生かしきれていない中途半端な出来の作品だった。岡山天音がただ喚いているだけにしか見えないし、急に素に戻ると脇役の力で心理描写に頑張るシーンの連続で映画全体が乗り切れないままに終わってしまった。ちょっと残念な作品でした。監督は滝本憲吾。

 

毎日狂ったようにテレビの大喜利番組に笑いのネタを送っているツチヤタカユキの姿から映画は幕を開ける。食べるものも食べず、余計な時間よりネタ作りに奔走して六年、とうとう大喜利で取り上げられて次第に名前が売れ始める。しかし、もともと人間関係が苦手なツチヤは、バイト先でもトラブルばかりで食べるものもままならない。そんな彼に、ハンバーガー屋でバイトするミカコが近づいてくる。さらに、自堕落なツチヤに、これまた訳ありげなピンクも関わってくる。

 

そんなツチヤに憧れの芸人ベーコンズの西寺が声をかけてきた。かつての自分に似ていたこともあるツチヤに、西寺はネタ作りを頼んだりし、東京へ呼ぶ。ところが、笑いを追求するだけで、人付き合いをまともにできないツチヤは周囲に理解されず次第に孤独の中に沈んでいく。西寺は必死でツチヤを庇うものの、ついに爆発したツチヤは一人大阪に戻る。そして、半ば半死人のようになって家に戻ってくるが、迎えた母親はそんな息子を暖かく迎える。笑いをやめてしまうと豪語したツチヤだが、壁に穴を開けて隣の部屋が見えてしまい、突然またネタを書き始めて映画は終わる。

 

結局、ピンクやミカコの存在もツチヤを盛り上げきれず、終盤、西寺とのやりとりにツチヤの心の葛藤が見えかけるのだが、それもまた潰してしまう雑な演出で、映画がまとまっていかないのが残念。面白い作品にできるかどうかはやはり演出の感性が大切だなと思わせる作品でした。