くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「秘密 THE TOP SECRET」「その場所に女ありて」「花の慕情

kurawan2016-08-09

「秘密 THE TOP SECRET」
長い。ただ、だらだらと長い映画だった。いかにも選び抜いたという感じのロケ現場やセットの重厚感や迫力は半端ではないので、ちょっと近未来的な科学捜査の物語も非常にリアリティを生み出しています。その点は評価できる映画なのですが、ストーリーが混濁している感じで、ラストに向かって流れていかない。そのため、何を見ていけばいいのかわからないままに展開していく。監督は大友啓史である。

いかにも頭脳明晰な青木のショットから映画が始まる。間もなく、死者の記憶を映像化し犯罪捜査をする通称第九と呼ばれる部署から呼ばれ配属となる。時を同じくして一家惨殺事件の犯人で死刑囚露口浩一の死刑が執行され、その男の脳の映像をスキャンすることになる。ところが、スキャンしてみたら、犯人は別にいて、いわゆる一人行方不明の娘絹子らしいと判明してしまうのだ。

こうして物語は始まるが、この絹子が間もなく保護され、彼女を追い詰めていくのが中心になってくる。ところがこれが実に回りくどい。一方で貝沼という男の連続殺人事件の映像を見た第九の捜査官が発狂し、それに絡んで第九の室長薪脳のトラウマというエピソードも絡む。さらに青木の家族にも何やら過去があるようだし、やたら暴力的な刑事は眞鍋の言動もしつこく描かれる。

貝沼と絹子が関連があるという推理の結末までも妙に長いし、やや適当な感じである。

とにかく物語が右往左往するのである。そのために、一体、中心に走っているものが何で、どれが枝葉として存在するのかが見えてこないのだ。しかも、絹子はサイコパスらしく、不気味に捜査官に迫ってくる。しかし、それも、中途半端に怖くない。

後半になって、前半に描かれた枝葉をすべて反故にした形で絹子逮捕がメインになり、最後の最後で、とうとう、絹子を逮捕する糸口を見つけ、追い詰めるがみずから火を放ち死んでいく。

で、今回の功績で第九は正式な機関に昇格したというセリフも入りエンディング。

とにかく、エピソードがてんこ盛りなのだ。思い切ってバッサリと枝葉を切り落として、映画にすべきだったと思う。さすがに原作があるとしづらいのだろうか。ちょっと盛り込みすぎの二時間二十分弱だった。


「その場所に女ありて」
映画の完成品というのはこういうのをいうのでしょうね。まるでハードボイルドのようなオープニングから一気に引き込むテンポが恐ろしいほどにうまい。しかも、登場人物の個性を一気に描き分ける手腕の素晴らしさも絶品。監督は鈴木英夫である。

とある広告会社、腕をふるう女たちの軽快なセリフから映画が始まる。ここに一人の敏腕のディレクター矢田律子がいる。すでに入社7年にして自分の努力でここまで上り詰めている。

そんな彼女の前にある製薬会社の新薬の広告争奪戦が舞い込んでくる。一方で大広告会社の敏腕ディレクター坂井が登場し、女の恋、仕事、生きがい、男などのドラマが混戦を始める。

枝葉に描かれる同僚、姉妹、野心、金などのエピソードも的確に物語のスパイスとなり、どんどん話はクライマックスに流れ込んでいく。

司葉子扮する主人公の演技が全くぶれないし、周辺の脇役の存在感も崩れることなくしっかりと物語の中の立ち位置で存在する様が唸るほどに素晴らしい。

ここまで書き込まれ描きこまれるとぐうの音もなくなるのだが、その完成度がこの映画をさらにおもしろくするのだから最高だ。ラストに再び舞い込んだ次の仕事に向かって、女三人が交差点を渡るショットが実にいい。これが映画の絵作りである。


「花の慕情」
それほど長い映画ではないのに、やたら長く感じる。話が前に進んでいかないからでしょうか。監督は鈴木英夫です。

華道の家元の主人公堂本梢の弟が山に行きたいと言い出し、一緒に行く友人の兄で歯医者の津田と知り合う。ところが弟たちは遭難し死んでしまったために両方の母親が犬猿の仲になる。ところが、梢と津田は急接近していって、家元の立場やら、両家の親どうしの確執やらが延々と繰り返される。結局ハッピーエンドになるのだが、それも突然的な展開で、それまではなんだったのという感じである。

ただ、司葉子が抜群に美しいし、役者陣がしっかりしているので、安定したドラマとして見ることができる。この手の映画は鈴木英夫は得意ではないのだろうが、それなりの娯楽映画として仕上げている手腕は、さすがに職人芸の手腕と呼べるものだろう。