「夢二 愛のとばしり」
夢二の狂気がほとんど描けていないので、人間味が見えてこない。しかも、ストーリーの流れもポイントが見えなくて、どこを描きたいのかが感じ得なかった。画面に工夫をして美しくしようという意図は見えるのですが、今ひとつ美しく見えないのは、感性がよくないというべきなのでしょうか?監督は宮野ケイジです。
すでに名声を得ている竹久夢二が妻の姿をスケッチしているシーンから映画が始まる。鏡に映る姿と、スケッチする夢二、妻の姿が画面に意図的に配置されている。なるほどと思えるが、この後、ランプの明かりを使ったり、木の色彩を効果的な色作りにしたりと工夫は見られるが、今ひとつハッと引き寄せるものがない。
売れない絵ばかり描いて、妻に苦労をかけた上に、新しい女を作り溺れていく姿が物語のメインだが、どれも、これというインパクトが見えてこないし、と言って淡々と描いている風でもなく。画面にかぶる夢二の詩のシーン、さらに歌の挿入など、凝ろうとする気持ちが見えるのですが、作品全体にプラスに働いていないのがなんとも残念。
どれという視点がないので、やたら長く感じてしまって、物語の落とし所がラストまで見ても結局見えなかった。普通の作品という映画でした。
「旅愁の都」
たわいのない恋愛映画なのですが、なんというか、ロマンティックな展開なのに、背後の音楽が不気味というまさに鈴木英夫らしき映画の一本。すでに完全退色していてモノクロに近かった。
宝田明扮する主人公が、親戚の女性が経営する喫茶店に呼ばれ、そこで一人の女性と出会うところから映画が始まる。
後は、紆余曲折の末に、最後は一応ハッピーエンド。懐かしい大阪の景色や、沖縄の景色なども見られる一本で、純潔ということへの執拗なこだわりが根強かった当時の人々の考え方も反映。ストーリーはこれというものではないし、どこか行き場が見えない展開で、どういうことやとさえ思えてしまうのですが、これもまた当時の娯楽映画の一つの形だろうと思うと、なんか時代を見るだけでもいまとしては値打ちのある映画だった気がします。
「殉愛」
ストレートな殉愛映画ですが、終盤の展開が妙に間延びする作品でした。監督は鈴木英夫です。
学徒出陣で出征した主人公とその恋人が語らっている場面から映画が始まる。やがて、出撃命令が来るが、突入寸前で、被弾したために、帰還。えー特攻じゃないの?という展開から、一旦恋人の家にやってきて一夜を明かす。そして翌朝の出撃に向かうが、乗っている列車が爆撃される。
一方恋人というか新妻は、夫の出撃時間に合わせて自害するべく毒薬を用意していて、夫が瀕死で自宅に戻ってみるとすでに死んでいる。そこで、戦争のない世界で添い遂げようと自殺してエンディング。つまりロミオとジュリエットである。
円谷英二の特撮シーンはさすがに見事で、甘ったるいラブストーリーの中でも見ごたえあるシーン。まぁ、鈴木英夫監督はこの手の映画は苦手なのかもしれませんね。