くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「デザート・フラワー」

デザートフラワー

これと言って秀でた映像表現や演出がなされていないにも関わらず、いつの間にか物語の中に引き込まれて最後まで気を抜けない迫力を堪能してしまう。なぜここまで引き込まれ何ともいえない感動と衝撃を受けるのか?それはラストシーンまでわからない。それがこの映画の優れているところかもしれません。

物語を宣伝フィルムそのままにソマリアの砂漠の国からロンドンへ出てきた一人の少女が世界的なトップモデルになるまでのシンデレラストーリーととらえると全く違う。

未だに世界中で一日に6000人が受けているというFGM(女性器切除)という慣習に真正面から向き合い、一見シンデレラストーリーのように描きながら決してそのテーマを忘れることなく心に秘めたままで演出された映像はその隅々に至るまで私たちの胸にじわりじわりと迫ってくるものがあるのです。

映画が始まると俯瞰で一人の少女が山羊の赤ちゃんを取り上げるシーンが映されます。そしてその少女の村の様子が空からゆっくりととらえていきます。そして突然6年後のロンドンへ。

浮浪者に近い生活をする主人公ワリス・デイリー、とある洋服店にはいっていろんなものを体に当ててみて鏡を見ている。そこで、店員にとがめられ、トイレで座っているところへ一人の女性マリリンが飛び込んでくる。罵倒したあげく逃げていったマリリンを追いかけてワリスがついていくコミカルなショットが続き、そのままワリスはマリリンと生活をともにするようになる。

そしてマリリンの紹介でとあるファミリーレストランに掃除婦の職に就いたところでその店の客の一人である有名なカメラマンにスカウトされる。そのまま物語はとんとんと栄光への道を進むのをとらえるかと思いきや、ある日、マリリンが部屋でSEXしているところに出くわし、その後ワリスは衝撃的な告白を彼女にする。

ワリスの村では三歳になると女性は女性器を切除し縫い合わせ、後に結婚の時に夫に開いてもらうという慣習があるというのだ。

こうして、徐々にワリスの過去が描かれ、一方でロンドンで認められて次第にトップへ突き進む姿も描かれるが、ことあるごとにソマリアでの生活、そしてロンドンへでるまでのいきさつ、出てきてからの生活などが丹念にさかのぼって描かれる。

現代のシーンの中で語られるさりげない彼女の姿の謎がさかのぼった物語の中で丁寧に説明される下りは非常に見事な脚本である。そして、所々にキーポイントとして登場するFGMに関するシーンが次第にクライマックスへと進む中で表に大きく現れてくる。

突然の腹痛で病院へ行き、医師に女性器を診察される下り。英語を翻訳するソマリア出身の看護士に「恥を知れ」と勝手な翻訳をされる下り、あるいはヌード撮影の際にさりげなく緊張する姿など、非常に細やかな演出の中に映画のテーマを盛り込んだ展開はなかなかのものである。

やがて、世界的なトップモデルに上り詰めた彼女はBBCの取材の際に、「自分の人生の最大の転機は?」と聞かれ「三歳の時の・・」と、あまりにも悲しい過去を語り始める下りは圧巻である。
そして、ラスト、国連ビルでFGMの実体を講演する彼女の姿、それをロビーで聞くかつてワリスが心を寄せた男性、マリリンの姿を映して終わります。

エピローグにFGMの現代に残る現実が語られて終わる。

トップモデルとして成功した彼女が華やかなステージで輝く姿をとらえるショットも町のディスプレイやファッション紙の表紙を飾っている姿も細かく挿入されているが、多すぎず少なすぎずでとどめた物語の構成によって、しっかりと訴えたいテーマが表に現れ、見応えのある、そして考えさせられる秀作に仕上がったのだろうと思います。これはみておくべき映画でしょうね。