「宇宙人東京に現わる」
まさか、この映画がスクリーンで見れるなんて夢にも思わなかったSF映画の珍品。ご存じ岡本太郎がデザインしたヒトデ型宇宙人が有名な映画をとうとう見ることができた。
で、つっこみどころ満載の映画かと思いきや、意外としっかりと作られている。さすが小国英雄の脚本、島耕二の演出の故か、冒頭、メインタイトルから真っ赤なインクがぶっちゃけられてブルーの傘のアップから駅のシーンは文芸映画の如しである。しかも、夜の居酒屋の奥行きのある構図が実に美しい。
そんな、一見名作かと思わせる導入部分に突然入ってくるのがパイラ星人の登場。なぜか空飛ぶ円盤の話題がひっきりなしになっているところへ星形の宇宙人が人々の前に現れ始める。そしてまもなく地球に衝突する惑星Rを破壊するために水爆と原爆の攻撃が必要だと説くのだ。
そんなこと忠告にくるなら先に破壊してやれと思うが、それはさておき、ここに日本の物理学博士松田が発見した新しい原子力の方程式を見破って、そんなものは危険だから開発はやめろとその式を破り捨てるというパイラ人。でもこの方程式を一目で見破ったのに、なぜか自分らはすでにこの物質を作れないから博士を助けて、円盤の中で作って星を破壊する兵器にする。なんで?というシーンですね。
まぁ、細かいところはおいといて、つまりなにもかもがハッピーエンドで締めくくる。戦後10年目くらい、まだまだ原爆の恐怖が残っているし、公開された当時を考えるとどこかしこに時代色が伺えるが、ちゃちであるとはいえ星形のパイラ星人がなぜかユニークで、そのユニークさが物語をつぶしていないところもまたいい。的場徹の特撮はまさに後のウルトラマンシリーズを彷彿とさせるところも見応えあるし、まったくもって珍品ながら必見の一本だったように思います。
岡本太郎が色彩指導をしているせいかやたら赤と緑が目立ちますが、フィルムの退色もそれほどないし、東宝の特撮映画とはまた違った趣を楽しめる一本でした。
「浮草」
小津安二郎が唯一大映で撮った作品。カメラが宮川一夫で、実に画面が美しい。小津安二郎の作品であまり画面の色彩演出に凝ったものはないので特に目立つ。
灯台のショットから真っ赤なポストというファーストショットからはじまって、画面のどこかに必ず赤いものが取り込まれている。背後に見える鯉のぼりの朱色や交番の赤いランプ、調度品にないとき俳優の着物の帯などに赤が取り入れられている。
そんな色彩演出の一方で小津安二郎ならではのローアングルと会話の間の絶妙のリズムとインサートカットの見事な挿入がさえ渡る上に、中村贋次郎、杉村春子、京マチ子など芸達者が息を飲む名演技を見せるからもう画面に引き込まれてしまう。
物語としてはいつもの小津作品と違ってかなり感情的なシーンが見られ、激情的な展開もあるので物語としてわかりやすい。ただ、淡々と描く小津映画とは少し違うムードが漂うのでその意味で異質な作品と呼べるかもしれない。
とある町に旅芸人の一座がやってくるところから物語が始まり、その座長はその町の一人の女との間に子供がいる。すでに成人して郵便局に勤める姿を見て悦に浸るが、一方で劇団の中に妻と呼べる女性すみ子の存在があるために、ややこしくなるというものである。
周辺に配置されたわき役も実に個性的で味があって、浜辺のシーンや女郎屋で管を巻くシーンにさえわくわくするおもしろさがあるのは絶品。
ラストで感を持ち逃げされて座長駒十郎らは一座を解散し散り散りになっていくが、喧嘩別れした駒十郎とすみ子が駅で会って、もう一度再起をかけて仲直りするシーンでエンディングとなる。
小津安二郎映画としてのしんみりとした感動とはちょっと違ったラストシーンながら、火をつけるマッチを二度擦ってみたり、雨の降りしきる美しいシーンをバックに会話数シーンなどすばらしい名シーンの数々を見ることができる。
一般的な小津安二郎ファンにはちょっとと思う面もあるかもしれないものの、さすがに名作と呼べる貫禄も備えた秀作だったと思います。