くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「恋人」「波の塔」「斑女」

恋人

「恋人」
軽いタッチで展開する青春コメディである。
中村登監督というのは、要するに職人であって、普段はこの手の軽い作品を作りながら、時として性根の入った「古都」「紀ノ川」などを発表してその才能を発揮した人である。

物語は、東京へ大学受験にやってきたが秀夫以下四人の学生が、試験が終わった日に始まる。東京で医者をしている先輩小野のところにやってきて、そのまま先輩の友人の妹和子の誕生日パーティに参加する。そこで和子と親しくなった秀夫等が海に行ったり山に行ったりと楽しく過ごすたわいのないお話である。

そこに、小野が親しい岡田茉莉子扮するバーのマダム朝子とのエピソードや、雪山に登った秀夫等が遭難寸前になるエピソードなどが描かれ、秀夫と和子は恋人同士になっていく展開が絡む。

やがて和子等家族は九州へ転勤することになり和子と秀夫も駅で別れるシーンがクライマックス。

一本筋の通ったストーリーのある作品ではなく、どちらかというと、あちこちにエピソードがちりばめられていくお話である。これという取り立てるすばらしいショットなどもないが、気軽に展開するまさに娯楽映画の典型であり、単純なお話ながら、とっても当時の学生たちの風情や庶民の風俗などもかいま見ることができるあたりは楽しい一本でした。

ただ、フィルムの痛みがひどくて、カラー作品なのにほとんどモノクロというのは残念。


「波の塔」
松本清張の社会派メロドラマを原作にした秀作で、中村登の独特の女感がシリアスでサスペンスフルな展開と重なって独特のムードを生み出していました。

映画は、建設局長の娘輸香子が一人旅で駅に着いたところで、父の部下たちに必要以上にもてなされる場面から始まる。息抜きに一人で散歩にでた輸香子は古代遺跡で一人の青年小野木と出会う。かれは検事の卵でまもなく正式な検事となる身の上である。

まもなくして、ある神社で輸香子が友人と散歩しているところで小野木が一人の美しい女性頼子とあるいているのに出会う。彼女の夫の結城という男は官僚と営利企業の橋渡しをするブローカー的な人物である。

物語はここから小野木と頼子の不倫ドラマとして展開していく。そこに建設局と企業の汚職問題がからみ、一方で妻の不倫を疑った結城が小野木とのことを調べる物語が絡んできて、社会ドラマの一面と男と女のかなわぬ恋物語の一面が微妙に交錯を始める。

輸香子が小野木に思いを寄せるさりげない片思いの描写がやや弱いが、クライマックス、結城が逮捕された留置所にやってきた妻頼子にたいし、結城が「好きにすればいいよ」と優しい微笑みを送るシーンは胸が熱くなる。
その姿に、妻は小野木との逃避行を反古にし、一人樹海に向かっていくのである。

一見、不倫物語として熱いラブストーリーで終わりそうなところなのだが、社会ドラマを微妙に絡めて、揺れ動く女心をとらえて、自ら小野木の未来を守るために身を捨てていく頼子の行動にこの作品のテーマが凝縮されているように思います。

中身の分厚い人間ドラマの秀作であり、さすがに女心を描かせると、中村登の視点はちょっと独創的なものがある。このあたりが彼の特長であり、そのすばらしさでもあるのでしょう。良い映画でした。


「斑女」
とってもしゃれたモダンな現代劇で、台詞の応酬のテンポが実に楽しいなかなかの佳作でした。この作品で倍賞千恵子がデビューした作品です。

イラスト調の絵を背景にして、軽快な歌でつづるオープニングタイトルが終わると、山村聡扮する一人の画家加賀美が道の真ん中で東京タワーを描いている。そこへ岡田茉莉子扮する英子がやってきて逃げるように通り過ぎて電話ボックスへ。続いて浩が英子を探してやってくるところから映画が始まる。

こうして、舞台劇のような導入部からあれよあれよとストーリーがころころと転がり始める。

兄嫁である英子と駆け落ちしてきた浩、そんなふたりの面倒を見ることになり、画家の加賀美が愛人でクラブのホステスのルリ子に二人の世話を頼み、英子はルリ子の店で働くようになる。英子を気に入った加賀美は、これまた知り合いの宝石店である瀬川の店に連れて行き、瀬川も英子に一目ぼれ。さらに浩のほれた大阪から来た倍賞千恵子扮する清美も絡んで、とんとん拍子に物語が運ばれていく。

クラブで交わす加賀美とバーテン、瀬川らの会話のテンポが絶妙で、これこそ演技力の賜物かと思わせる。

結局、英子は瀬川にほれられるも裏切られるわ、結局、くっつくことなく、また加賀美も愛人のルリ子に騙されていたことがわかり、それでも大人の対応できれいに分かれて、英子と一緒になるべく京都に行くが、その後行った大阪で、清美と一緒に逃げていた浩と出会い、英子はやっぱり浩と頼を戻して、また一から生活を始めようとするところでエンディング。

二転三転、ころころと転がるようにストーリーが進む。台詞の応酬が本当にみごとで、しかも登場人物がみんな大人の行動をして、感情的なシーンもなく淡々と恋を楽しんでいる感じて心地よいのです。こういう大人の演技ができる俳優さんが本当にいなくなったなぁとしみじみ感じるいっぽんでした。