くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「はじまりのみち」「オブリビオン」

はじまりのみち

「はじまりのみち」
木下恵介監督生誕100年記念作品である。昨年、木下監督全作品上映に際し、父の死故に完全にみれなかったもののそのほとんどをみることができたという幸運にも恵まれて、今回の作品も楽しむことができました。

物語は終戦間近、浜松から疎開するため、病身の木下監督の母をリヤカーに乗せて、兄、そして便利屋の男と50キロ近い道のりを死にものぐるいで進む画面がその中心になる。

取り立てて、ドラマ的なものも、映画的なテクニックも施さず、淡々とテレビのスペシャル版程度の映像で進むのは仕方ないとしても、時折挿入される木下恵介監督の名作のショットがとにかく楽しいし、クライマックスで、延々と流れるデビュー間もなくから、晩年に近いまでの傑作の数々のシーンにはもう胸が熱くなってしまいました。

「陸軍」のクライマックスが当時の日本政府に嫌われて、次の作品が撮れなくなるところから始まり、戦況の悪化で病身の母をリヤカーで疎開させる物語へ進んでいく。そして、便利屋の男が「陸軍」に涙したというエピソードから、再び木下監督はメガホンをとり数々の名作を生み出していくという構成になっている。

さすがに、これほどの巨匠の実話となれば、どうしてもその偉業のフィルムとの間にレベルの差が歴然としてしまうのは、かわいそうなものですが、原恵一監督は、そこは割り切って、名作の数々をその三分の一ほどの配分で挿入した。その上で、素直な映像に徹したのは好感でした。

もう一度、木下恵介監督作品を見たくなる。そんな作品でした。


オブリビオン
見終わったあとのこの違和感はなんだろう。とってもシャープな映像で、スタイリッシュなほどに洗練された画面で描かれる近未来エンターテインメント。主演はトム・クルーズということでそれなりの大作である。しかし、思い返すと、どこかで見たような、何か矛盾が散りばめられた安易なB級大作という作品だった気がする。

モノクロームの現実の世界、そこに主人公ジャック・ハーパーが一人の女性と視線を合わせている。

そしてタイトルの後、画面は荒廃した大地の上に浮かんでいるような施設。背後に、2077年の現代、エイリアンとの戦いで、人類は勝利したにもかかわらず、核兵器を利用したため、すでに地球上に人類が住むことが困難になり、惑星タイタンへの移住するべく、宇宙空間にテットと呼ばれる中継基地を設けている。地上では海の水をエネルギーに変える施設が作られ、未だに攻撃してくるエイリアンから守るべく、ドローンと呼ばれる無人攻撃機が配備されているが、主人公ジャック・ハーパーとその相棒ヴィクトリアはそのメンテナンスのために地上に勤務している。なぜか、ジャックたちは過去の記憶を消されている。

49号と指定された専用機で飛び回るジャック、渓谷の奥に自分の隠れ家のような小屋を持ち、時々そこで集めた本やレコードを楽しんで、つかの間の休息をする。

ある日、ジャックはエイリアンに攻撃され墜落する宇宙船に出くわす。行ってみると、冷凍催眠された人間のポッドが投げ出されている。ところが、そこへドローンがやってきて、そのポッドを破戒して行く。かろうじて一人の女性を助けたジャックは彼女を施設に持ち帰る。彼女の名前はジュリア、どうやらジャックの妻であるという。

このあたりからヴィクトリアの態度が変わり始める。最初はジュリアへの嫉妬に見えたのだが、テットとの交信の中に不穏な会話が入り始める。

ジャックがジュリアとフライトレコーダーを回収しに行って、そこでエイリアンと思われる人々に拉致される。ところが彼らこそ、生き残った人類で、実は、人類を滅ぼしたのはテットであり、ジャックはクローンであることがわかるのだ。

一見、凝ったストーリーに見えるのであるが、この生き残った人類の存在感が非常に希薄で、この後、ジャックは危険地帯に入ってしまい、そこで52号機を操る自分のクローンに出会うのだが、それもあまり説明がない。表面的なストーリー展開でどんどん先に進むために、それぞれの理屈付けが適当に済まされる上に、登場人物が生き生きとしていないために、ロボットのように見えるのである。

結局、生き残った人類が、燃料電池で作った爆弾をもってテットへ乗り込み破戒するのだが、ジュリアはジャックの隠れ家でいつの間にかふたりの子供と暮らしている。そこへ、生き残った人類と、52号のジャックが現れてハッピー?エンドである。

渡航してストーリーを整理してみても、どこかおかしいのだ。なるほどそうなるのかというエンディングの爽快感がないのである。アクションでもスペースオペラでも、ハードSFでもない、中途半端に仕上がった娯楽映画なのである。面白いのだが、素直になれないもどかしさの残る映画でした。まぁ、映像はきれいだし、それだけで見ごたえがないとはいえませんがね。