「ザ・ディープ」
実際にアイスランドで起こった海難事故を題材にした人間ドラマで、これという取り立てるほどのものもない普通の映画でした。
主人公グッリはある日、漁に出かけて、ウィンチの故障で船が転覆。真夜中の激寒の海に投げ出される。このまま助けを待つにはあまりにも水温が低いので、仲間と一緒に泳ぐことにするが、グッリ以外の仲間は次々とおぼれてしまう。
6時間以上泳いだ末に、島までたどり着き、さらに雪の降る中を二時間近く歩いてようやく奇跡の生還。しかし、彼の奇跡的な生還を研究するべく研究対象とされてしまう。
ありきたりの深夜の海の漂流するシーンから研究施設でのシーン、さらに自宅に戻ってからの遺族の訪問シーンと、実話を丁寧にたどっていく展開になっている。
エンドタイトルで、実在のグッリの実写映像を見せて終わるという何の変哲もない映画ですが、おそらく、本国では大変な奇跡のドラマだったのでしょう。
しっかりと描ききった人間ドラマとしては非常にまじめな作品であり、その意味でアカデミー賞の外国映画の代表になったという感じの一本でした。
「ヒプノティストー催眠ー」
スウェーデンのベストセラーミステリーを映画化した作品、監督はラッセ・ハルストレムである。
白夜を思わせる低い太陽をかなたに捉えて、スウェーデンの町を俯瞰で捉えるショットから映画が始まる。カメラがとある体育館でバスケットボールを練習する学生、それを指導する先生を捕らえる。次の瞬間、一人ボールを片付ける先生に、いきなり何者かが襲いかかりメッタ突きに刺して殺してしまう。その場に駆けつける警官と一人の国家警察のヨーナ警部。ものすごい導入部に一気に引き込まれます。
ヨーナがその場を離れ車で走り去ると、たまたま市警の無線で殺人事件らしく、その現場の家に着く。そこでは娘、母親が惨殺されている。浴室に倒れていた少年にヨーナが近づき脈を調べようとすると突然彼が息を吹き返す。体育館で殺されたのは彼らの父親だった。少年ヨセフはそのまま病院へ。ところがこん睡状態で事情聴取できない。困っていると、一人の医師がエリックという医師を呼ぶ。彼は催眠療法のエキスパートだという。そして彼が少年ヨセフに触れて、彼が見た情景を呼び出そうとするがうまくいかない。いきなりとってつけた展開に戸惑ってしまう。
ヨーナは担当ではないにもかかわらず、執拗に事件を追い、その糸口にエリックに催眠をして欲しいと頼むが、かたくなに拒むエリック。そんなエリックとその妻に不気味な影が忍び寄る。なんとも、さらにとってつけたようなというか、手を出しすぎたような伏線の数々が見え隠れするのである。
そして、ヨセフには姉エヴリンがいたことが判明。ヨーナはエヴリンも狙われていると思い、彼女を保護施設へ。そして、実はヨセフは養子であったことが判明。実の母親が二ヶ月前に精神病院を退院し、どうやらヨセフを取り戻そうとしているらしいとわかる。一方、エリックの家では夜中に怪しい影がエリックの妻に薬を注射して身動きできないようにし、エリックが睡眠薬で眠っている間に息子を誘拐する。
次から次と、物語が飛躍し、多方面に散らばってくる。エリックはなんとか息子を救い出すために一人ヨセフの催眠を行い、そこで実は一家惨殺をしたのはヨセフであることを突き止める。ヨセフは実の母に操られていたらしいが、いったいどうやってという疑問もあるところが、ちょっと無理の或るところである。
どんどん、話が膨らむが、おそらく原作が膨大で、その全てを脚本に織り込んだために、取り留めのないお話として映画になったように思えます。冒頭の導入部は見事なのですが、その後の展開は、よく考えるとかなり無理がある。まるでテレビシリーズの数話をひとつにしたような状態である。
結局、ヨセフはヨーナと格闘の際に怪我をして病院へ。実の母親の顔がわからないところであるが、エリックの妻がかすかな記憶をエリックの催眠によって呼び出し、画家でもある彼女のスケッチを元に、実の母親の姿を病院のビデオでつきとめ、捜査すると、とあるコテージにエリックの息子を誘拐して潜伏しているとわかる。そこへ駆けつけるヨーナ。そして逃げる実の母親の車が湖の氷が割れて沈んで、エリックの息子はすんでの所で助かってエンディング。
とまぁ、書いていくと、いかに散らばってしまった脚本家がよくわかる。結局一本の筋が通っていないというか、思い切って削除すればいいところを全て盛り込んでだらだらした物語になってしまった。ラストシーンで、冒頭の俯瞰のシーンの逆をたどってエンドクレジットとするあたりの映像作りは見事であるが、なんともまとまりのないミステリーでした。でもまぁ、面白かったですけどね。